自動運転バス、桑都の杜へ —— 2025年夏、高尾の事故を越えて動き出した実証運行
八王子駅南口と「桑都の杜」を結ぶ自動運転バスが2026年10月3日に走り始めました。その1年前、高尾地区では実証運行中の車両がいちょう並木に衝突する事故が起きています。何が違い、何が引き継がれたのかを追います。

この記事の目次
2026年10月3日、八王子駅南口と新しい複合施設「桑都の杜」を結ぶ区間に、運転士の監視付きで走る自動運転バスが登場しました。歓迎すべき話ですが、その1年あまり前、八王子市内の別の場所では実証運行中の自動運転バスが街路樹に衝突し、乗客が負傷する事故が起きています。同じ八王子市内で、同じ「自動運転バス」という技術が、なぜ事故からわずか1年余りで次の実証運行にこぎ着けられたのか。その間に何が変わり、何が引き継がれたのかを追います。
連載「八王子という街」第24回|この連載をまとめて読む
「桑都の杜」ルートに自動運転バスが走り出した日
八王子駅南口から徒歩10分ほどの場所に、2026年10月3日、公園・博物館・図書館・交流拠点が一体となった複合施設「桑都の杜」が開業しました。その開業と同じ日に走り出したのが、JR八王子駅南口と桑都の杜を結ぶ自動運転バスの実証運行です。
使用されているのは日野自動車の小型バス「ポンチョ」で、定員は13人、全員着席が前提で立ち乗りはできません。自動運転時の最高速度は時速40キロメートル、運行は2026年12月25日まで続きます。注目したいのは、「自動運転」といっても無人運転ではない点です。採用されているのは「レベル2」と呼ばれる段階で、運転士が車両に同乗し、自動運転システムの作動状況を監視しながら、必要があれば手動運転に切り替えます。完全に人の手を離れたわけではなく、あくまで運転士が常に目を光らせているからこそ走れる仕組みです。
運行日は木曜・金曜・土曜・日曜・祝日が基本で、運行間隔は30分に1本程度です。乗車は無料で、平日(運行日に限る)は事前予約も不要ですが、10月24日(土)・25日(日)からは土日祝のみ予約システムが導入されています。乗車場所はJR八王子駅南口、桑都の杜へは京王片倉駅からも徒歩8分で着きます。問い合わせ先は八王子市都市計画部交通政策課です。駅前という人通りの多い場所を、小さな自動運転バスが行き来する——それ自体が新しい街の風景になりつつあります。
コンソーシアム協定と運転士不足という背景
この実証運行は、ある日突然始まったものではありません。2026年7月9日、八王子市と東京工科大学(片倉町に八王子キャンパスを持つ)は、「自動運転社会実装推進事業コンソーシアム協定」を締結しました。この事業は国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転社会実装推進事業)」の採択を受けて実施されており、一地方都市の単独の試みではなく、国の政策課題としても位置づけられていることがうかがえます。
協定の背景にあるのは、路線バスの運転士不足という、全国の自治体に共通する悩みです。八王子市内でも、西東京バスの一部路線で2026年10月1日にダイヤ改正が行われ、土曜・日曜の「市街地循環」など複数路線で減便が実施されました。働き方改革関連法による労働時間規制の強化、いわゆる「2024年問題」が運転士の高齢化・人手不足と重なり、路線バスの減便・廃止が全国的に相次いでいます。自動運転技術は、こうした状況下で「運転士がいなくても運行を維持する」ための手段として、交通政策上の優先度を高めてきました。
桑都の杜という新しいランドマークへの足を確保することと、運転士不足という構造的な課題に備えること——この実証運行には、二つの目的が重なっています。協定締結にあたり、自動運転技術の専門家である東京工科大学の須田義大教授は「市と連携して八王子発のモデルを作り、全国へ展開していきたい」とコメントしています。運行計画も段階的に描かれており、2026年10月開始時点では八王子駅南口〜桑都の杜間に限定されていますが、2027年1月からは東京工科大学キャンパスまでルートを延伸する予定です。将来的には運転士が不要な「レベル4」の実現も視野に入れているといいます。
2025年夏、高尾地区で起きた事故
ここまでは、新しい施設の開業に合わせた明るい話です。しかし、同じ八王子市内で、自動運転バスにはすでに一度、苦い経験がありました。
桑都の杜ルートに先立ち、八王子市と西東京バスは2025年、高尾地区(JR高尾駅北口から高尾台住宅、片道約2.6km)で自動運転バスの実証実験・通年運行計画を進めていました。八王子市と西東京バスは2025年7月9日、高尾駅北口周辺での自動運転バスの通年運行を同年12月に開始すると発表しています。使用予定車両は国土交通省の補助金を活用した電気自動車(EV)で、客席14席(着席のみ)、最高速度は時速40キロメートル。実現すれば、都内多摩地域の26市では初めての自動運転バス通年運行になるとされていました。
この通年運行開始に先立ち、東京都(都市整備局、運営委託先は日本工営株式会社)が主体となり、2025年8月23日から31日までの期間、運転手搭乗型の「レベル2」実証運行を実施していたのです。この都主体の実験は、「2050東京戦略」戦略18(公共交通ネットワークの充実強化)の一環として位置づけられていました。
ところが2025年8月29日午前11時31分頃、八王子市高尾町の国道20号を走行中の実証運行車両が、いちょう並木(街路樹)に衝突する単独事故を起こします。乗車人員は15名(乗員3名・乗客12名)で、乗客3名が負傷しました。額などの打撲が2名、手首の負傷が1名、街路樹も1本損傷しています。
専門家による検証の結果、事故原因は判明しています。自動運転システムが最新ではない古い位置データを使用していたため、低速走行中にもかかわらず不適切な急ハンドル操作の指示を出し、ブレーキが正しく作動しなかったというものでした。東京都はこの事故を受け、残り2日間(8月30日・31日)の運行を取りやめ、実証実験全体を中止しました。八王子市議会都市環境委員会にも、2025年9月11日付で「自動運転バス実証実験における事故について」という報告資料が提出されています。
技術が人を運ぶという試みには、こうした現実も伴うことを、この事故は示していました。
事故を越えて、今回の実証運行は何が違うのか
高尾の事故からわずか1年余りで、八王子市内では再び自動運転バスが走り始めました。なぜそれが可能だったのか。鍵は、二つの実証運行の「主体」の違いにあります。
2025年の事故を起こしたのは、東京都が主体となり日本工営が運営を担った実証実験でした。一方、2026年10月に始まった「桑都の杜」ルートは、八王子市と東京工科大学が主体となり、国土交通省の補助金を受けて実施している、枠組みそのものが異なる事業です。運行主体も、技術的な検証体制も、高尾の事故とは別の体制で組み立てられています。
運用面でも、慎重さがうかがえる調整が見られます。「桑都の杜」ルートでは、平日は事前予約不要としながらも、10月24日(土)・25日(日)からは土日祝のみ予約システムを導入する予定です。さらに、通常は運行対象となる曜日の中にも特別運休日(10月11日・12日、12月19日・20日)が設定され、逆に本来運行しない平日のうち11月2日(月)・12月8日(火)が特別運行日として組まれています。曜日だけの単純なパターンではなく、細かな調整を重ねながら運行している様子がうかがえます。
事故そのものを教訓として明記した一次資料は確認できていませんが、少なくとも、実施主体を分け、運用を細かく調整しながら進めている現在の体制は、高尾の事故が可視化した「技術導入の現実」を踏まえたものだと見ることができます。
全国的な自動運転バス導入の流れと八王子の位置づけ
八王子市の取り組みは、全国的に見ても、まだ発展途上の段階にあります。2026年3月時点で、運転士を必要としない「レベル4」のバス等の実装は全国で10か所程度にとどまります。日本で最初にレベル4を実現したのは福井県永平寺町で、2023年5月にレベル4の運行許可を取得し、参道約2kmを電磁誘導線方式のカートで運行しています。
一歩先を行く自治体もあります。長野県塩尻市は2025年5月にレベル2での定常運行を始め、2026年3月には早くもレベル4での一般客運行も実施しました。八王子市も将来的には、運転士の監視を必要としないレベル4の実現を視野に入れていますが、具体的な目標年度を示す一次資料は、本調査の範囲では確認できていません。
レベル2からレベル4へ——運転士が車両から完全に離れるその先の段階まで、八王子市が歩むべき道はまだ長いと言えます。しかし、高尾の事故という重い経験を経て、桑都の杜という新しい場所への足を実際に確保できたこと自体が、その道の確かな一歩であることは間違いありません。
まとめ
2026年10月3日に始まった「桑都の杜」ルートの自動運転バスは、運転士不足という全国共通の課題に向けた八王子市の挑戦です。その1年あまり前、高尾地区では実証運行中の車両がいちょう並木に衝突し、乗客が負傷する事故が起きていました。実施主体を分け、運用を細かく調整しながら進める今回の体制には、その経験が形を変えて引き継がれています。駅前を走る小さなバスの背後には、技術を地域に根付かせるまでの、こうした積み重ねがあります。
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連載「八王子という街」は、学生から50代まで、暮らしの視点から八王子という街の様々な顔を辿るシリーズです。
- 前の回: 八王子市の自主防災組織 —— 結成率88%の町会が担う、もう一つの防災
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参考文献
八王子市ホームページ「自動運転バス」 / タウンニュース「自動運転 社会実装へ協定 東京工科大学と八王子市」 / 八王子経済新聞「西東京バス、10月1日にダイヤ改正 土曜・日曜は『市街地循環』など減便」 / 時事ドットコム「自動運転実験中のバスが木に衝突 乗客1人軽傷—東京」 / 八王子市議会都市環境委員会報告資料「自動運転バス実証実験における事故について」 / 日本経済新聞「東京都八王子市と西東京バス、高尾で自動運転バスを通年運行へ」 / SOMPOインスティチュート・プラス「日本の自動運転レベル4は、どこまで進んだか(5)」
この記事は連載「八王子という街」第27話です
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