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地域の未来 · 公開: 2026.10.25 · 7分で読めます

通報から実施まで2時間以上 —— 八王子市、クマ緊急銃猟の教訓でマニュアルを改定

都内初の緊急銃猟(9月28日)で八王子市の対応に何が起きたのか。市民からの疑問の声と、10月20日に改定された対応手順の中身を整理します。

黄葉したイチョウ並木がつづく秋の道路

2026年9月28日の夕方、八王子市小津町の畑に、1頭のツキノワグマが足を取られてもがいていました。市民の通報からおよそ2時間以上がたった午後5時29分、都内で初めてとなる「緊急銃猟」が実施されます。なぜ、そこまで時間がかかったのでしょうか。そして、その1か月後に市が書き換えた手順には、何が書き込まれたのでしょうか。


午後5時29分、下された決断

9月28日の午後3時5分頃、小津町で畑を見回っていた市民が、くくり罠にかかって暴れるツキノワグマを見つけ、警察に通報しました。連絡を受けた高尾警察署は、間もなく市にも情報を伝えます。

罠があったのは、向橋から北西へ150メートルほどの農地でした。周辺には民家が10軒ほど点在する、決して山の奥深くとは言えない場所です。高尾警察署からの情報提供を受け、市は対応を進め、同日午後5時29分、都内の自治体では初めてとなる「緊急銃猟」が実施されました。

緊急銃猟とは、鳥獣による危険が迫っているとき、自治体の判断で発砲による駆除を許可する仕組みです。八王子市では、2026年4月末に元八王子町でツキノワグマが初めて確認されてから、5月・6月と山間部に近い住宅地での出没が相次ぎました。これを受けて市は5月、副市長をリーダーとする庁内横断の対策チームを発足させ、クマよけ鈴の配布や注意喚起の呼びかけを続けてきました。そして8月21日には、住宅地から半径200メートル以内を独自に定義し、危機レベルを4段階に分けて対応を決める「ツキノワグマ対応マニュアル」の素案を取りまとめています。都内の自治体がこうしたマニュアルをまとめるのは初めてのことでした。

この半年の対策は、マニュアル作りだけにとどまりません。東京都と都猟友会の協力で、八王子・青梅・あきる野の3市と奥多摩町・日の出町・檜原村を対象にハンターの巡回が始まり、市内のIT企業は行政の公式発表と利用者からの目撃投稿を地図上で見分けられる非公式アプリ「八王子くまマップ」を独自に公開しました。対策チームの会議も5月22日の第2回、7月16日の第3回と重ねられ、8月21日の第4回でマニュアル素案の了承に至っています。6月には、クマよけ鈴の配布に感謝する手紙を携えた恩方中学校の生徒代表が市長を表敬訪問するなど、対策は学校現場の子どもたちにも及んでいました。

つまり、9月28日の小津町の現場は、策定からわずか1か月ほどで迎えた、マニュアルの「実戦」第一号だったのです。紙の上で描かれた4段階の対応が、実際の畑と暴れるクマを前にどこまで機能するのか——それが初めて試される日になりました。


なぜ2時間以上かかったのか——罠と条件の悪さ

現場を難しくしていたのは、罠そのものの性質でした。かかっていたのはクマ用の罠ではなく、イノシシやシカを対象にした「くくり罠」です。箱罠のように個体を閉じ込める構造ではなく、暴れれば罠自体が壊れたり、クマが自分の足を切ってでも逃げ出したりする恐れがありました。

麻酔銃という選択肢も検討されましたが、見送られています。麻酔が効き始めるまでの間、クマは激しく暴れ続けることになり、その間に罠が外れてしまう可能性があったためです。すぐ近くに民家が10軒ほどある状況で、罠が外れた個体を住宅地側に逃してしまうリスクは取れませんでした。日が沈めば、銃猟の資格を持つハンターが現場で動ける時間も限られます。

市民の通報から実際の銃猟実施まで、2時間以上という時間が流れました。この日はたまたま市議会が開会中で、担当者が議会対応にあたっていたことも、初動にはずみがつかなかった一因だったと、市は後に説明しています。一つひとつの判断は現場の安全を考えた末のものでしたが、結果として「暴れるクマを前にした2時間」という事実だけが、市民の目には残りました。


市民からの40件の声

緊急銃猟が実施された後、市には約40件の電話が寄せられました。抗議や疑問の声で、なかには30分以上にわたる長い通話もあったといいます。

寄せられた声の多くは、「わなにかかったクマまで緊急で駆除する必要があったのか」「麻酔銃などで何とかならなかったのか」という疑問でした。すでに罠にかかって身動きが取れなくなっている状態のクマを、なぜそこまで急いで駆除しなければならないのか——現場の事情を知らない立場からすれば、自然な疑問だったのかもしれません。

市側からすれば、罠が壊れる可能性や、周辺の民家という条件のもとでの判断でした。しかし、その経緯や制約が市民に十分伝わっていなかったこともまた、この日の電話の多さが物語っています。安全を優先した判断と、市民の納得感との間に、小さくないすれ違いが生まれていたのです。


10月20日、市が書き換えた2つの手順

この1か月の経験を受けて、八王子市は10月20日の市長定例記者会見で、8月に策定したばかりの「ツキノワグマ対応マニュアル」の改定を発表しました。狙いは一つ、意思決定にかかる時間を短くすることです。

改定の柱は二つあります。一つは決裁権限の見直しです。これまでは市長や副市長、部長級の職員が不在だと判断が滞る構造でしたが、改定後は課長や課長補佐、主査といった職員が代理で承認できるようになりました。もう一つは、緊急時の対応本部の扱いです。急を要する場合には対策本部の設置そのものを省略し、副市長の指示だけで必要な措置を講じられる規定が新設されました。

9月28日には情報提供から実施まで約2時間を要しましたが、市はこの改定によって、通報から駆除までの所要時間を約1時間まで短縮することを目指すとしています。机上の想定で作られたマニュアルが、実際の現場で初めて試され、そこで見えた課題がそのまま次の改定に反映された——8月の策定から2か月足らずでの見直しは、それだけ現場の教訓が重かったことの裏返しでもあります。

八王子市だけの出来事ではないことも、押さえておきたい点です。環境省は2026年6月、クマ対策を専門に担う職員を東北・北海道・関東の各事務所に新たに配置し、自治体判断で発砲を可能にする「緊急銃猟」の研修も担わせる体制を整えました。同年7月には環境相が八王子市を視察し、都市部でもクマが出没する現状に危機感を示しています。住宅地のすぐそばに野生動物が現れるという事態は、八王子に限らず、全国の自治体が共通して向き合い始めた課題だということが分かります。


出没は10月も続いている——今できること

マニュアルが改定された一方で、クマの出没そのものは収まっていません。10月17日の夜には下恩方町でセンサーカメラにツキノワグマの姿が撮影され、翌18日には上恩方町の民有地で爪痕や糞、食べ残した柿が見つかりました。19日には同じ上恩方町で、クマを誘い込む恐れのある柿の木3本が剪定されています。山際の暮らしの中で、こうした対応が日常的に繰り返されている段階だということが分かります。

住宅地のすぐそばまでクマの生活圏が近づいている今、私たちにできることは多くありません。市が登山者・住民向けに呼びかけているのは、熊鈴や携帯ラジオを鳴らしながら歩くこと、できるだけグループで会話しながら移動すること、早朝・夕方や夜間の単独行動を避けることです。庭先の柿や栗など実のなる樹木は早めに収穫して残さないこと、食べ物は密閉容器に入れゴミは必ず持ち帰ることも基本の備えとされています。

遠くにクマを見かけたときは、大声を出したり走って逃げたりせず、静かにその場を離れることが基本です。近い距離で遭遇した場合は、走らずに後ずさりして距離を取るよう市は案内しています。出没情報を見聞きしたら、「東京都ツキノワグマ目撃等情報マップ」で最新の状況を確認することもできます。目撃や被害の連絡先は、八王子市獣害対策課(042-620-7375)です。

こうした備えの一つひとつは、春からの半年間、出没のたびに積み重ねられてきたものです。クマよけ鈴が子どもたちに配られ、学校ではクマと遭遇した際の行動をクイズ形式で学ぶ動画がつくられ、移動式の電気柵や高周波の撃退音装置の配備も進められてきました。マニュアルという一枚の文書の裏には、こうした地道な積み重ねが重なっています。

2時間かかった現場と、1時間を目指す新しい手順。その間にある差を縮めてきたのは、一つの事案と、そこに寄せられた40件の声でした。次にクマが現れたとき、改定されたマニュアルがどう機能するのか——それはまだ、誰にも分かりません。

参考文献

八王子市ホームページ「小津町におけるツキノワグマの緊急銃猟実施について」「ツキノワグマについて」「登山者の方へ~ツキノワグマに遭遇しないために~」 / 東京新聞デジタル「八王子市 クマ出没時の対応手順改定 意思決定、初動をより迅速に」 / J-CASTニュース「八王子の『緊急銃猟』は通報から実施まで2時間以上、羽鳥慎一さん『クマが暴れているのに』なぜ?」 / ENCOUNT「都内初の緊急銃猟にクレーム40件 『わなにかかったクマまでなぜ?』 八王子市が明かす舞台裏」 / 日本経済新聞「八王子でクマ出没相次ぐ、市が対策チーム」「環境相、八王子市を視察」 / タウンニュース「八王子市 クマ対応の指針策定 都内自治体で初」 / NHKニュース「環境省がクマ対策専門官を新配置」 / 東京新聞「クマ対策でハンター巡回 八王子など 猟友会が東京都に協力」 / ライジングサンコーポレーション プレスリリース「八王子くまマップ」公開について

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。