都まんじゅう、1年5カ月で二度目の値上げ —— 八王子のソウルフードが映す物価高の実像
八王子駅前の老舗「つるや製菓」の都まんじゅうが2026年11月1日に1個55円へ値上げしました。2025年6月に続く二度目の改定の経緯と、その背景にある全国的な食品原材料高を一次資料でたどります。

この記事の目次
八王子駅前でずっと1個50円だったあのまんじゅうが、また値上がりしました。値上げ自体は今回が初めてではありません。この先を読むと、なぜ同じ店が短い期間に二度も価格を変えたのか、そしてその背景に何が起きているのかが分かります。
70年、味を変えずに守ってきたもの
八王子駅北口から徒歩3分、商店街「西放射線通り」(八王子ユーロード)沿いにある「つるや製菓」は、1955年(昭和30年)の創業から70年間、売る商品を一つに絞り続けてきた和菓子店です。看板商品であり、唯一の商品でもあるのが「都まんじゅう」です。駅前の再開発やビルの建て替えが繰り返されてきた一帯で、商品を変えずに同じ場所に立ち続けてきたこと自体が、この店の個性になっています。
都まんじゅうは、小麦粉と卵、砂糖、ふくらし粉だけで作るカステラ風のやわらかい生地に、インゲン豆を使った白餡をたっぷり包んだ一口サイズのまんじゅうです。合成添加物は使っていません。表面には焼印が押され、焼きたてはもちろん、冷めてから軽く焼き直したり、油でさっと揚げたりすると、表面がカリッとして違った味わいが楽しめるとも紹介されています。
製造には回転式の自動製菓機械が使われ、店頭のガラス窓越しに生地が焼き上がっていく様子を見学できることも、この店の名物になっています。シンプルな材料と機械だけで作られる、飾らない駄菓子的な佇まいが、70年にわたって「八王子のソウルフード」と呼ばれ続けてきた理由です。
つるや製菓の本店は、実は八王子ではなく神奈川県平塚市にあります。平塚で生まれた都まんじゅうが、その後八王子と静岡県沼津市に店舗を広げていったという経緯があり、八王子店はJR八王子駅北口から徒歩約5分、東京都八王子市旭町7-8で営業しています。「八王子のソウルフード」として親しまれている都まんじゅうは、もともと八王子だけのものではなく、平塚から広がってきた菓子だということになります。70年間変わらなかったその店で、ここ1年5カ月のあいだに、価格だけが二度動きました。
1個50円から55円へ —— 2026年11月1日の価格改定
2026年11月1日(日)、都まんじゅうは1個50円から55円に改定されました。5円の値上げですが、10個まとめて買う場合は500円から550円へと変わります。一つ一つは小さな金額でも、まとめ買いやお土産として箱単位で買う人にとっては、実感しやすい変化になりそうです。
今回の改定は、経営側からの会見やプレスリリースではなく、店頭のガラスに価格改定を知らせる貼り紙が貼られる形で告知されました。大掛かりな発表をせず、普段どおりの店先で静かに価格だけを切り替えるというやり方は、後述する2025年6月の改定時と同じです。値上げの個別の理由(原材料の品目や上昇率など)について、経営側からの詳しいコメントは見当たりません。
値上げ後も、製造方法やガラス窓越しに見学できる環境そのものは変わっていません。1個50円から55円という価格の動きは、複数の地域メディアで報じられ、八王子の定番土産として長く親しまれてきた商品だけに、地元の関心も集まりました。本店のある平塚でも、都まんじゅうは2026年時点で同じ1個55円で販売されており、八王子店だけが特別に値上げを迫られているわけではなく、三店に共通する動きだとうかがえます。
八王子店の営業時間は朝9時台から夕方にかけてで、定休日は水曜です。値上げ後も店の営業スタイルそのものは変わっておらず、これまでどおり店頭のガラス越しに製造風景を見ながら買うことができます。
実は2度目 —— 2025年6月にも45円から50円へ
今回の値上げには、もう一つ前段があります。2025年6月1日、都まんじゅうは1個45円から50円に改定されていました。このときも店頭には貼り紙が出され、理由として「物価や原材料の高騰による影響」という一文が記されていました。細かな原材料名や上昇率までは示されておらず、あくまで一般的な説明にとどまる案内でした。
つまり、2025年6月の45円から50円への改定、そして2026年11月の50円から55円への改定は、わずか1年5カ月のあいだに起きた二度の値上げだということになります。一度の値上げで済まなかったという点が、この商品が置かれている状況をよく表しています。
金額でみると、いずれも5円の値上げですが、比率でみると2025年6月は約11%、2026年11月は10%の上昇にあたります。1個あたりの単価が小さい商品だけに、数円の値上げでも率にすると二桁になりやすいという特徴が、この二度の改定にも表れています。
長年1個50円という価格が「八王子の安くて良心的な土産」として定着していたぶん、短期間に二度の改定が重なったことは、地元で都まんじゅうを知る人たちにとって小さくない出来事でした。価格は上がっても、味や製法を変えるという選択肢は、この店は取らなかったことになります。
2025年6月の値上げを伝えた記事の筆者は、「物価高騰の影響で値上げはやむを得ないですね。とはいえ、変わらぬおいしさがうれしい」と書き残しています。値上げそのものは仕方のないことと受け止めつつ、味が変わらないことに安心する——このときの受け止め方は、2026年11月の二度目の値上げを見る上でも手がかりになります。
全国の食品が値上がりする理由 —— 輸入小麦・円安・原油高
都まんじゅうだけが特別な事情を抱えているわけではありません。帝国データバンクが継続している「食品主要195社」価格改定動向調査によると、2026年7月の飲食料品の値上げは合計2,566品目にのぼりました。同調査は月を追うごとの見通しも示しており、8月は1,898品目、9月は3,029品目という見通しが立てられています。
9月の数字は、2026年のなかでも最多で、11カ月ぶりに3,000品目を超える規模だとされています。年初から累計すると、1月から11月までの値上げ品目数はすでに14,902品目に達しており、1個50円台のまんじゅうの値上げも、この膨大な品目数のなかの一つだということになります。
値上げの要因を分解すると、2026年7月時点で「原材料高」によるものが全要因の92.5%、「物流費」が71.9%、「包装・資材」が69.8%(前年同月比で10.5ポイント上昇)を占めています。小麦粉製品や精製糖といった原材料そのものに加え、容器やフィルムなどの包装資材までコストが上がっていることが分かります。背景には、政府による輸入小麦の売り渡し価格引き上げや、1ドル160円に迫る円安水準の長期化があり、輸入食料のコストを広く押し上げています。
さらに、中東情勢の悪化に由来する値上げも全要因の24.7%にのぼるとされ、原油・ナフサ高が包装資材の価格や物流コストに波及していることが指摘されています。帝国データバンクは2026年の値上げラッシュが今夏以降に本格化し、年内も続く見込みだとしつつ、年間を通した品目数は前年並みの2万品目台で着地すると見ています。小麦粉と白餡というシンプルな材料で作られる都まんじゅうも、こうした全国的な値上げの波の外には立てなかったということです。
値上げしても変わらないもの —— 老舗が守り続けている一枚看板
つるや製菓は、創業から70年間、商品数を増やさず「都まんじゅう」一品に絞った経営を続けてきました。2025年6月と2026年11月、二度の価格改定を経ても、商品のラインナップを広げたり、値上げを隠すために内容量を減らしたりするような動きは報じられていません。価格という一点だけを動かし、商品そのものはそのまま残すという判断です。
価格の面でも、二度の値上げを経た今も、都まんじゅうは1個55円という手に取りやすい価格帯にとどまっています。回転式の製菓機械でまんじゅうを焼き、ガラス窓の向こうでその様子を見せるという製造・販売のスタイルも変わっていません。原材料高という逃げ場のない事情のなかで、一つの味と一つの価格帯を保ち続けようとする姿勢が、この店が70年間続けてきたやり方そのものだと言えそうです。
品目を増やして客単価を上げるのではなく、一品の価格を小刻みに見直しながら同じものを売り続けるという選択は、派手さのない経営判断です。しかし、70年にわたって八王子駅前の同じ場所で商品を変えずに営業を続けてきたという実績そのものが、この小刻みな値上げを受け入れてもらえる土台になっているとも言えます。
まとめ
都まんじゅうの値上げは、八王子の一軒の和菓子店に起きた小さな出来事に見えます。しかし2025年6月、2026年11月と続いた二度の改定をたどると、そこには輸入小麦や円安、原油高、そして容器や物流にまで及ぶコスト上昇といった全国規模の波が映り込んでいます。
それでも商品を増やさず、1個という単位にこだわり続けるつるや製菓の姿勢は、70年間変わっていません。平塚・八王子・沼津という三つの街で同じ名前のまんじゅうが同じように値上がりしていくさまは、一軒の老舗が受けている物価高の実感を、よけいな言葉を添えずそのまま映し出しています。1個55円になったまんじゅうを手に取るとき、その奥にある少し大きな景色を思い出してみるのもよいかもしれません。
参考文献
中央線が好きだ。web「つるや製菓」 / note(稲葉カズ)「【和菓子】つるや製菓 都まんじゅう」 / 8dabe.com「【11/1から】八王子名物『都まんじゅう』が値上げへ!1個50円から55円に価格改定」「物価高の波がじわり…八王子の定番お土産に起きた静かな変化」「都まんじゅう(つるや製菓)」 / みんなの経済新聞ネットワーク配信記事(Yahoo!ニュース) / enoshima life「【都まんじゅう平塚】1個55円に値上げ!それでも安い地元銘菓の魅力とは」 / 帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査(2026年7月・2026年8月) / PR TIMES配信記事「飲食料品値上げ、ナフサ供給不安でラッシュ再燃の兆し」
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