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暮らしと法律 · 公開: 2026.09.03 · 更新: 2026.09.14 · 8分で読めます

電子帳簿保存法の完全義務化から2年 —— 桑都の工房・個人事業主は何をすべきか

2024年1月に完全義務化された電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」。実際に義務なのは何か、小規模事業者向けの緩和策、対応しなかった場合のリスク、八王子市内の相談窓口までを整理する。

図書室の書架に整然と並ぶ革装丁の書物

2024年1月1日、電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」が完全義務化されてから、まもなく2年が経とうとしています。義務化されたのはメールやクラウドでやり取りした請求書・領収書などを電子データのまま保存することだけで、紙の請求書をスキャンして残す義務はありません。桑都の工房や個人事業主が実際に確認すべきなのは、自分の事業がどの緩和策を使えるか、対応しなかった場合にどんなリスクがあるか、そして困ったときにどこへ相談できるかの3点です。この記事では、制度の骨格から小規模事業者向けの緩和策、八王子市内の相談窓口までを順に整理します。

連載「暮らしと法律の手帖」第17回|この連載をまとめて読む


結論 —— 桑都の工房が今すぐ確認すべきこと

電子帳簿保存法という言葉を聞くと、経理システムを丸ごと入れ替えなければならないような身構え方をしてしまいがちですが、実際に桑都の工房や個人事業主が「必ずやらなければならない」ことは限られています。国税庁の整理によれば、令和6年(2024年)1月1日をもって、メールやクラウドサービスなど電子的な方法でやり取りした請求書・領収書・契約書・見積書に相当するデータを、電子データのまま保存する「電子取引データ保存」が完全義務化されました。それまで認められていた「紙に出力して保存すればよい」という宥恕(ゆうじょ)措置は令和5年12月31日で終了しており、新たに電子取引を行うなら電子データのまま残すのが原則です。

一方、財務省が公開している解説では、電子帳簿等保存制度は3つの区分に分かれ、義務化されているのはこの電子取引データ保存だけだとされています。会計ソフトで作成した帳簿をデータのまま保存する「電子帳簿等保存」や、紙の書類をスキャナで読み取る「スキャナ保存」は、いずれも導入するかどうかが事業者の任意に委ねられています。つまり、桑都の織物工房や個人商店がまず確認すべきなのは「メールやクラウドで受け取った請求書・領収書を、紙に印刷して原本データを消してしまっていないか」という一点です。次の章から、義務の中身と小規模事業者向けの緩和策を順に見ていきます。


何が「義務」で何が「任意」か —— 制度の3区分を切り分ける

「電子帳簿等保存制度」とは、正式名称「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」の通称です。所得税法・法人税法上、帳簿書類の保存義務を負うすべての法人・個人事業主が対象で、事業規模の大小は問われません。財務省の解説ページによれば、この制度は次の3つに区分されます。

本文画像: 工房の請求書データ確認

第一に「電子帳簿等保存」——会計ソフト等で最初から一貫してデータ作成している帳簿書類を、紙に出力せずそのままデータで保存する制度で、導入は任意です。第二に「スキャナ保存」——紙で受け取った請求書・領収書等をスキャナやスマートフォンのカメラで読み取り、画像データとして保存する制度で、これも任意です。そして第三が「電子取引データ保存」——電子的な方法でやり取りした取引情報を電子データのまま保存する制度で、これだけが義務化されています。

この義務化の経緯をたどると、令和3年度(2021年度)税制改正で、従来任意だった電子取引データ保存を義務化する方向へ舵が切られ、改正自体は令和4年(2022年)1月1日に施行されました。ただし企業側の準備が追いつかない実情に配慮し、宥恕措置という形で実質的な猶予期間が設けられ、その猶予が令和5年12月31日で終了したことで、令和6年1月1日以降の電子取引から完全義務化に至った、というのが正確な経緯です。「2024年に急に始まった制度」ではなく「2022年に決まっていたことの猶予期間が、2024年に終わった」という順序で理解しておくと、なぜ今さら猶予がないのかが腑に落ちます。桑都の工房や個人商店が実務上必ずやらなければならないのはこの電子取引データ保存だけであり、紙の請求書をわざわざスキャンして保存する義務はありません。


具体的に何をすればいいか —— 真実性・可視性の確保要件

義務化された電子取引データ保存には、大きく分けて「真実性の確保」と「可視性の確保」という2種類の要件があります。真実性の確保、つまり改ざん防止については、国税庁の特設サイトによれば次の4つの措置のうち、いずれか1つを講じればよいとされています。不当な訂正・削除の防止に関する事務処理規程を自社で制定して遵守する方法、タイムスタンプが付された後に授受するか授受後にタイムスタンプを付す方法、訂正・削除の履歴が残る(または訂正・削除ができない)システムでデータの授受・保存を行う方法、そしてこれらに準ずる措置です。このうち、事務処理規程を定めて守る方法はシステム投資が不要なため、桑都の小規模な工房にとって最も現実的な選択肢になります。

なお、タイムスタンプの付与期間については、令和3年度改正によって最長2か月程度まで緩和されており、改正前の「3日以内」などより厳格だった基準からは大きく現実的になっています。2024年1月1日以降に行う電子取引については、訂正・削除の履歴が残るシステムでの授受・保存をもって、タイムスタンプ付与に代えることも認められています。もう一方の可視性の確保は、パソコン・ディスプレイ・プリンタ等を備え付け、取引年月日・取引金額・取引先で検索できる状態にしておくことを指します。ただし、この検索機能の確保についても、次章で見る小規模事業者向けの緩和策によって、多くの桑都の工房では実質的に不要になる可能性があります。


小規模事業者向けの緩和策 —— 検索要件の免除と猶予措置

零細規模の工房や個人事業主にとって特に重要な緩和策が2つあります。1つ目は検索要件の緩和です。国税庁の一問一答(令和7年6月版)によれば、基準期間、原則として前々年の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務職員による電子取引データのダウンロードの求めに応じられる場合、検索要件(取引年月日・取引金額・取引先での検索機能)がすべて不要になります。さらに、電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日や取引先ごとに整理した状態で提示・提出できる場合も、検索要件が不要になります。桑都地域の小規模な織物工房・個人商店の多くはこの売上高基準に該当すると考えられ、検索機能付きの専用システムを導入しなくても対応できる可能性が高いといえます。

本文画像: 工房主が窓口に相談する様子

2つ目は猶予措置です。令和5年度税制改正で新設された恒久的な制度で、次の2つの要件をどちらも満たせば、真実性・可視性の確保要件を満たさない形での「単なる保存」で足りるとされています。1つは、所轄税務署長が要件に従って保存するための「相当の理由」があると認める場合で、システムや社内のワークフローの整備が間に合わない等の事情を指し、事前の税務署への申請・届出は不要です。もう1つは、税務調査等の際に電子取引データのダウンロードの求めに応じることができ、かつそのデータをプリントアウトした書面の提示・提出にも応じられることです。ただし、資金繰りや人手不足等を理由に、対応可能な体制がありながら対応していない場合は、この猶予措置の適用は受けられない点に注意が必要です。


対応しなかった場合のリスクと、桑都地域の相談窓口

対応しなかった場合にどうなるのか、という点は読者が最も気になるところでしょう。電子取引データ保存の要件を満たさない状態が続いた場合、青色申告の承認が取り消される可能性があると指摘する税務・会計系メディアの報道は複数あります。一方で国税庁自身は、義務化にあたり「直ちに青色申告の承認が取り消されたり、経費が損金として認められなくなったりするものではない」という考え方も示しており、違反イコール即座の重いペナルティという単純な図式ではないようです。とはいえ、要件を満たす形で日々の取引データを整理しておくに越したことはなく、経理担当者を専任で置けない家族経営の工房ほど、後回しにせず早めに体制を整えておく方が結果的に負担は小さく済みます。実際、全国の中小企業を対象にした調査では、インボイス制度導入から1年時点で8割が事務負担の増加を実感しているとの報道もあり、電子帳簿保存法への対応もこうした経理DXの一環として負担感が生じやすい領域です。

自分の事業でどう対応すればよいか迷ったときは、専門家に相談するのが近道です。八王子商工会議所の中小企業相談所では「インボイス制度および電子帳簿等保存制度 セミナー&個別相談会」を継続的に実施しており、電話042-623-6311(受付は平日9時から17時30分)で予約できます。八王子市の公式ホームページでも中小企業向け相談窓口として同商工会議所を案内しており、電子帳簿保存法に関する市内の相談は実質的にこの窓口に一本化されている状態です。桑都手帖の連載ではこれまで第9回でインボイス制度、第15回でフリーランス新法を取り上げてきました。経理・税務まわりの制度は単発では分かりにくくても、こうして続けて読むことで、桑都の工房・個人事業主が直面している変化の流れとして見えてくるはずです。


まとめ

電子帳簿保存法で桑都の工房・個人事業主が実際に対応すべきなのは、メールやクラウドでやり取りした請求書・領収書等を電子データのまま保存する「電子取引データ保存」だけです。真実性・可視性の要件はありますが、売上高5,000万円以下なら検索要件が不要になり、事情があれば恒久的な猶予措置も使えます。対応が不安なときは、まず八王子商工会議所の個別相談会を頼ってみるとよいでしょう。


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参考文献

暮らしの手続きで迷ったら

相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。

具体的なご相談は、まず八王子市の無料専門相談(法律・相続・不動産・税務など/予約制・無料)が入口になります。

こうした暮らしの手続きの記事は、連載「暮らしと法律の手帖」で続けています。

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。