相続した山林・農地を手放す —— 相続土地国庫帰属制度という選択肢
使う予定のない山林や農地を相続してしまったとき、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」の仕組み・条件・費用と、八王子で相続した場合に別途必要になる手続きを整理する。

この記事の目次
親や祖父母から山林や農地を相続したものの、住む予定も使う予定もなく、管理の負担だけが残ってしまう——そんな相談が近年増えています。2023年に始まった「相続土地国庫帰属制度」は、条件を満たせば土地を国に引き取ってもらえる制度です。どんな土地が対象になり、いくらかかり、どこに相談すればよいのか。八王子で相続した場合に別途必要になる手続きとあわせて整理します。
制度の概要と施行日
相続土地国庫帰属制度は、相続または相続人への遺贈によって土地の所有権(共有持分を含む)を取得した個人が、一定の要件を満たした場合にその土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にする制度です。根拠法である「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」は2021年(令和3年)4月28日に公布され、2023年(令和5年)4月27日に施行されました。
制度創設の背景には、相続をきっかけに利用予定のない土地が全国で増え、管理が行き届かないまま放置されることで、将来の所有者不明土地化を招くという懸念がありました。所有者が分からない土地は、道路整備や災害復旧など公共の事業を進める際の障害になりやすく、国としても看過できない課題になっていたのです。
注意したいのは、この制度が施行日以降に発生した相続だけを対象にしているわけではない点です。施行前にすでに相続していた土地についても、この制度の対象になります。つまり、10年前・20年前に相続して名義だけ引き継いでいた山林や農地も、要件を満たせばさかのぼって申請できます。「もう相続してしまったから今さら手が打てない」と諦める必要はありません。
誰が申請でき、どんな土地は申請すらできないのか
申請できるのは、相続または相続人への遺贈によって土地の所有権(共有持分を含む)を取得した個人です。売買や贈与で取得した土地は対象外で、あくまで相続をきっかけに土地を得た人のための制度という位置づけになります。共有地の場合は、共有者のうち一人でも相続によって持分を取得していれば申請できますが、その際は共有者全員が共同で申請する必要があります。
一方で、法務省は「申請をすることができないケース」として、いくつかの土地の類型をあらかじめ列挙しています。建物が存する土地、担保権(抵当権など)や使用収益権(地上権・賃借権など)が設定されている土地、通路や墓地内の土地・境内地・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地、特定有害物質により土壌汚染されている土地、境界が明らかでない土地や所有権の存否・帰属・範囲について争いがある土地などです。
これらの却下事由は、不動産登記事項証明書などの書面で有無を判断できる性質のものとされています。つまり、実地調査を待つまでもなく、書類の段階でふるいにかけられる仕組みです。空き家や倉庫が残ったままの土地は「建物が存する土地」に該当して申請自体ができないため、建物を解体してから申請するかどうかを先に判断する必要があります。
審査を通っても引き取ってもらえない土地 —— 不承認事由と山林の壁
書類審査の却下事由をクリアした申請でも、そこで終わりではありません。法務局による実地調査などを経て、一定の勾配・高さの崖があり管理に過分な費用や労力がかかる土地、土地の管理・処分を阻害する工作物や車両・樹木の伐根などの有体物が地上にある土地、隣接地の所有者との争訟によらなければ管理・処分ができない土地などに該当すると判断されれば、承認は下りません。これが「不承認事由」です。
却下事由が書面審査だけで判断できるのに対し、不承認事由は法務局担当者による実地調査などの個別判断を要するため、申請した時点ではその土地が通るかどうか明らかでないケースが少なくありません。特に山林はこの壁にぶつかりやすい地目です。山林専門メディアの分析では、山林の申請687件に対し承認は128件、承認率にして約18.6%という数字が示されています。宅地に比べて崖や樹木、災害危険性、森林整備の遅れといった不承認事由に該当しやすいことが背景にあるとみられます。
とりわけ、経済的な価値がある未整備の人工林——スギやヒノキなどの植林地で、間伐などの手入れが森林経営計画などの基準に適合していないもの——は、国が引き取っても適切に管理できないと判断されやすいとされています。「価値のある木が生えているから引き取ってもらいやすいはず」という直感は、必ずしも当てはまらないという点は押さえておく必要があります。
費用はいくらかかるのか —— 審査手数料と負担金
制度を利用するには、二段階の費用がかかります。まず審査の申請時に納める審査手数料は、土地一筆当たり14,000円です。収入印紙で納付し、審査の結果、却下や不承認となった場合でも返還されません。申請すること自体に一定のコストが伴うということです。
承認された後には、負担金の納付が必要になります。これは国が土地を管理するための10年分の標準的な管理費用に相当する額で、宅地・田・畑であれば面積にかかわらず原則20万円です(一部の市街化区域などでは面積に応じた算定になります)。一方、山林・森林は面積区分に応じて算定される仕組みで、面積が広いほど負担金も高額になります。「引き取ってもらえれば費用はかからない」というイメージを持たれがちですが、承認後にもまとまった負担金の納付が前提になっている点は誤解しないよう注意したいところです。
手続きの流れとかかる期間
手続きは、事前相談から始まります。全国の法務局・地方法務局の本局で、対面・電話・ウェブのいずれかの方法により予約制で実施されており、その後、申請書類の作成・提出、法務局担当官による書面審査・実地調査、承認(不承認の場合は理由の通知)、負担金の納付、国庫帰属という順で進みます。
気になる所要期間について、東京法務局本局が案内する標準処理期間は8か月です。書類をそろえてから土地の所有権が国に移るまで、半年から1年近くを見込んでおく必要があります。承認後の負担金には納付期限があり、納入告知書が到達した翌日から30日以内に納付しないと、せっかく得た国庫帰属の承認自体が失効してしまいます。承認が下りたら速やかに納付手続きに進むことが欠かせません。
全国の運用実績が示すもの —— 申請・承認・却下の数字
制度がどれだけ利用され、実際にどれだけの土地が引き取られているのか。法務省が公表する統計(2026年6月30日現在)によると、全国の申請件数は累計5,698件にのぼり、このうち帰属(承認)に至った件数は2,885件です。却下は83件、不承認は93件、申請者側の判断による取下げは1,063件にのぼります。
内訳を見ると、申請件数のうち田・畑が2,226件と最も多く、宅地が1,973件、山林が868件と続きます。却下理由では添付書類未提出が37件と最多で、通路用地に該当するものが22件、境界不明確が21件、建物が存する土地が4件です。不承認理由では、工作物・樹木の存在が45件と最多で、追加の森林整備が必要と判断されたものが36件、管理困難な崖のある土地が7件、災害危険地が11件となっています。取下げの理由としては、有効活用の見込みが立ったためというものが562件と半数以上を占めており、制度を検討する過程で別の活用策が見つかるケースも一定数あることがうかがえます。
八王子で相続した場合に押さえておきたい関連制度
相続土地国庫帰属制度そのものは全国一律の国の制度ですが、八王子で山林や農地を相続した場合、あわせて押さえておきたい地域の制度がいくつかあります。
まず、農地(登記地目が田・畑)を相続した場合は、相続土地国庫帰属制度を利用するかどうかにかかわらず、農地法第3条の3に基づく届出義務があります。権利取得を知った日からおおむね10か月以内に、農地の所在地を管轄する農業委員会への届出が必要です。八王子市の農業委員会事務局は八王子市元本郷町三丁目24番1号にあり、電話042-620-7402で相談を受け付けています。相続土地国庫帰属制度で農地を手放す場合であっても、権利取得自体の届出は別途必要になるため、両方の手続きが並行して発生する点に注意してください。
また、建物がある土地は相続土地国庫帰属制度の対象外(却下事由)です。実家の建物が残ったままの空き家をどうするかは、この制度の範囲外の相談になります。八王子市は空き家に特化した「住まいの活用相談所(通称:住まカツ)」をワンストップ相談窓口として設置しており、相続した実家の売却・活用相談を受け付けています。更地・山林・農地の処分は相続土地国庫帰属制度、建物付きの空き家問題は住まカツというように、制度上の役割分担があることを踏まえて相談先を選ぶとよいでしょう。
なお、相続によって管理者が不在になった山林の増加は、市町村が主体となって経営管理が行われていない森林の担い手を仲介する「森林経営管理制度」とも関わる構造的な背景です。八王子市は森林環境譲与税を充当した森林整備の施策を毎年度公表しており、都内自治体と連携する取り組みにも参加しています。相続した山林をどうするか迷ったときは、国庫帰属制度による処分だけでなく、こうした市の森林行政の窓口に相談してみるという選択肢もあります。
まとめ
相続土地国庫帰属制度は、使う予定のない山林や農地を国に引き取ってもらえる仕組みですが、申請できない土地の類型や、審査を経て不承認となる可能性、審査手数料と負担金という二段階の費用、8か月という標準処理期間など、押さえておくべき条件は少なくありません。とりわけ山林は承認のハードルが他の地目より高い傾向があります。あわせて、農地であれば農業委員会への届出、空き家であれば住まカツへの相談など、八王子で相続した場合に別途必要になる手続きも忘れずに確認しておきたいところです。
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- 八王子で暮らすなら知っておきたい法律の話(暮らしの13制度を場面から引く手引き)
参考文献
法務省「相続土地国庫帰属制度について」「相続土地国庫帰属制度の概要」「相続土地国庫帰属制度の統計」「相続土地国庫帰属制度の相談対応について」 / 東京法務局「相続土地国庫帰属制度」 / 農林水産省「農地相続ポータル」 / 八王子市ホームページ「八王子市空き家ワンストップ相談窓口『住まいの活用相談所(住まカツ)』」 / 山林売買.com「国庫帰属制度 山林は承認1割?2025年最新データと申請の鉄則」
暮らしの手続きで迷ったら
相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。
具体的なご相談は、まず八王子市の無料専門相談(法律・相続・不動産・税務など/予約制・無料)が入口になります。
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この記事は連載「暮らしと法律の手帖」第12話です
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