フリーランス新法 —— 2024年11月施行、桑都の工房・個人事業主は何を確認すべきか
2024年11月に施行されたフリーランス新法は、業務委託契約のルールを大きく変えました。桑都の工房や個人事業主が発注側・受注側どちらの立場でも確認すべき義務・禁止行為・相談窓口を、公的な一次情報に基づいて整理します。

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個人で仕事を請け負う工房やデザイナー、ライターに業務委託をしているなら、あるいは自分自身がそういう立場で仕事を受けているなら、令和6年(2024年)11月1日に施行された「フリーランス新法」の内容は確認しておく必要があります。取引条件の書面明示、報酬の60日以内支払い、買いたたきなど7類型の禁止行為——契約の結び方と守り方が変わったということです。桑都の工房や個人事業主が発注側・受注側どちらの立場になっても押さえておくべき点を、公的な一次情報に基づいて整理しました。
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フリーランス新法とは —— 2024年11月施行、桑都の工房・個人事業主はどちらの立場になるか
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。略称として「フリーランス・事業者間取引適正化等法」「フリーランス新法」が使われます。令和5年(2023年)4月に成立・公布され、令和6年(2024年)11月1日に施行されました。所管は公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の3者で、取引適正化に関する規定は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境整備に関する規定は厚生労働省が中心となって執行します。
従来から業務委託の取引ルールを定める法律として下請法(下請代金支払遅延等防止法)がありましたが、これは発注側の資本金が一定額以上であることを要件としていました。そのため、資本金の小さい企業から個人への業務委託は保護の対象外になりやすいという隙間があったのです。フリーランス新法はこの隙間を埋める形で、資本金の大小にかかわらず「従業員を使用しない事業者」に業務委託する事業者を広く対象にします。
対象となる事業者の定義は次の通りです。保護される側の「特定受託事業者」は、個人であって従業員を使用しない者、または法人であって代表者以外に役員がおらず従業員も使用しない者を指します。義務を負う側の「特定業務委託事業者」は、個人であって従業員を使用する者、または法人であって2名以上の役員があるか従業員を使用する者です。ここでいう「従業員を使用する」とは、週20時間以上かつ31日以上継続して雇用される労働者を指し、同居の親族のみを使用している場合は含まれません。
この定義が桑都の工房にとって意味を持つのは、立場が固定されない点です。たとえば桑都の小さな制作会社が、自分より小規模な個人のデザイナーやライター、職人に業務委託する場合、発注側の工房自身が「特定業務委託事業者」として義務を負います。一方でその工房自身がより大きな企業から仕事を受注する立場では、「特定受託事業者」として保護される側になります。ひとつの事業者が、取引の相手によって義務を負う側にも保護される側にもなり得るという二重の立場は、実務上見落とされやすい点です。
取引条件の明示義務と「60日ルール」—— 契約時・支払時に何を確認すべきか
義務の内容を具体的に見ていきます。まず、1か月以上の業務委託をする場合、発注事業者(特定業務委託事業者)には取引条件の明示義務があります。業務委託をしたら直ちに、書面または電磁的方法で条件を明示しなければなりません。電磁的方法にはメール、SNSのダイレクトメッセージ、チャットアプリのメッセージなどのテキストが含まれますが、口頭のみでの明示は認められません。明示すべき事項には、業務の内容、報酬の額、支払期日、給付・役務提供の日、給付・役務提供の場所、物品の場合は検査を完了する日、報酬の支払方法に関する必要事項などが含まれます。
もうひとつの柱が、報酬の支払期日に関する「60日ルール」です。報酬の支払期日は、フリーランスから給付を受領した日(役務提供の場合は役務が提供された日)から起算して60日以内、かつできる限り短い期間内に定めなければなりません。支払期日を定めなかった場合は給付を受領した日が、60日を超える期日を定めた場合は受領日から60日を経過する日の前日が、それぞれ支払期日とみなされます。発注事業者が別の事業者から再委託を受けてさらにフリーランスへ再委託する場合には、元の委託の支払期日から起算して30日以内に支払期日を定める努力を求める、いわゆる「再委託30日ルール」の考え方も示されています。
桑都の工房が発注側になる場面を考えると、口頭でのやり取りだけで業務を依頼し、支払いのタイミングを曖昧にしたまま進める従来型のやり方は、この2つの義務に照らして見直しが必要になります。逆に受注側であれば、契約条件が書面やメールで明示されているか、支払期日が明記されているかを確認することが、自分の身を守る第一歩になります。
禁止行為7類型 —— 買いたたき・不当な減額をどう見分けるか
1か月以上の業務委託においては、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに行ってはならない行為として、7つの類型が定められています。受領拒否(注文した物品や情報成果物の受領を拒むこと)、報酬の減額(あらかじめ定めた報酬額を正当な理由なく減額すること)、返品(受け取った物品を正当な理由なく返品すること)、買いたたき(通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること)、購入・利用強制(業務に関連しない物品・役務を正当な理由なく強制的に購入・利用させること)、不当な経済上の利益の提供要請(金銭や役務の提供等をフリーランスの利益を不当に害する形で要請すること)、不当な給付内容の変更・やり直しの要請(費用を負担せず注文内容を変更したり、受領後にやり直しをさせたりすること)の7つです。
公正取引委員会は公式サイトで、この7類型を「フリーランス法NAVI〜事例解説〜」という動画シリーズ(Vol.4〜Vol.10)として個別に取り上げ、公表しています。それだけ現場で起きやすいトラブル類型として重視されているということです。
桑都の工房の取引で起きやすいのは、たとえば「イメージと違うから」という理由で正当な根拠なく成果物を受け取らない、あるいは相場を大きく下回る単価を一方的に押し付けるといった行為です。こうした行為が慣習的に行われてきた業界であっても、フリーランス新法の施行後は禁止行為に該当し得るという前提で、取引の見直しが必要になります。
6か月以上続く継続的業務委託で加わる3つの義務
業務委託の期間が6か月以上に及ぶ場合、あるいは契約更新によって6か月以上継続することになる場合は「継続的業務委託」として扱われ、上記の義務に加えてさらに3つの義務が発生します。
ひとつ目は育児介護等への配慮です。継続的業務委託を行うフリーランスから、育児・介護等と業務の両立に関する配慮の申出があった場合、発注事業者は配慮の申出の内容等を把握し、配慮の内容や取り得る選択肢を検討したうえで、配慮の内容を伝達・実施するか、実施しない場合はその理由を説明するという一連のプロセスを取ることが求められます。家族の介護のためリモートワークに切り替えたい、子どもの急病で業務時間を短縮したいといった申出への対応が想定されています。
ふたつ目はハラスメント対策に係る体制整備です。フリーランスに対するセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントに相当する行為について、相談体制の整備等の措置を講じる義務があります。体制整備状況について行政から報告を求められた際に報告しない、または虚偽の報告をした場合は、20万円以下の過料の対象となります。
みっつ目は中途解除等の事前予告です。継続的業務委託を中途解除する場合、または契約の更新をしない場合には、原則として30日前までの予告が必要です。フリーランスから理由の開示を求められた場合は、遅滞なく理由を開示しなければなりません。長期の取引が前提だからこそ、打ち切りの際の手続きにも一定のルールが課されているということです。
2026年1月施行「取適法」との違い —— 桑都の工房はどちらに当てはまるか
フリーランス新法とは別の法律ですが、同時期に取引適正化の枠組みが大きく変わる関連制度として、下請法の改正があります。令和8年(2026年)1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正法として施行され、法律名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(通称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に変更されました。
主な変更点として、従来の資本金基準に加えて従業員基準(300人・100人)が追加され、対象取引が拡大されました。規制・保護の対象となる取引には、製造等の目的物の引渡しに必要な「運送の委託」も追加されています。新たな禁止行為として、受注者から価格協議の求めがあったのに応じない、必要な説明をしないといった行為を禁じる「価格協議への応諾義務」も設けられました。支払手段については手形払いが禁止され、支払期日までに満額を現金化することが困難な電子記録債権・ファクタリングについても同様に禁止されています。振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止されました。
フリーランス新法と取適法の違いを整理すると、フリーランス新法は「個人事業者(従業員なし)を保護する法律」であるのに対し、取適法は「資本金・従業員規模で見た中小の受託事業者(法人を含む)を保護する法律」であり、対象の切り口が異なります。桑都の工房が法人化していて一定規模の従業員を抱えている場合は、取引相手との関係によってはフリーランス新法ではなく取適法の対象になる、あるいは両制度が要件次第で重複適用される場合もあり得ます。自分の事業体がどちらの制度の対象になるかは、従業員数と取引相手の資本金・従業員規模の両方から確認する必要があります。
違反時の行政措置と八王子市・地域の相談窓口
違反行為が疑われる場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、または厚生労働大臣が調査を行い、段階的な行政措置を講じます。流れは概ね「助言・指導→勧告→(勧告に従わない場合)命令→(命令に従わない場合)事業者名の公表」という段階を踏みます。公正取引委員会は勧告を行った場合、事業者名・違反事実の概要・勧告の概要等を公表します。命令違反や、法に基づく立入検査の拒否・妨害があった場合は50万円以下の罰金の対象となり、ハラスメント対策の体制整備状況について行政の求める報告をしなかった場合・虚偽報告をした場合は20万円以下の過料の対象となります。
相談窓口も整備されています。フリーランス新法の考え方についての相談窓口が公正取引委員会に設けられており、最寄りの事務所・支所で相談できます。公正取引委員会は「フリーランス法説明会」を対面で開催しており、説明後に希望者向けの個別相談会も実施しています。
八王子市内での相談先としては、八王子市公式ホームページの「中小企業向け相談窓口」ページで、経営一般・IT・資金繰り・税務・労働・取引・事業承継等に対応する窓口として八王子商工会議所(電話042-623-6311、八王子市大横町11-1)が案内されています。対面相談・電話予約制で、平日9時〜17時、無料です。八王子商工会議所の「中小企業相談所」は、金融(融資・補助金)、経営、経理(記帳指導)、労働(就業規則等)、税務(決算・確定申告相談)、取引(ビジネスマッチング)、創業支援を扱っており、対象は中小商工業者、とりわけ小規模事業者と案内されています。ただし、いずれのページもフリーランス新法固有の相談対応を明示的にはうたっていません。フリーランス新法に特化した相談は、公正取引委員会の窓口が確実な照会先です。
まとめ
フリーランス新法は、資本金の大小にかかわらず「従業員を使用しない事業者」への業務委託を広く対象にすることで、下請法の隙間を埋める形で施行されました。取引条件の書面明示、60日以内の支払い、7類型の禁止行為、6か月以上の継続委託で加わる配慮義務——桑都の工房や個人事業主は、発注側・受注側どちらの立場になり得るかをまず自覚し、契約の結び方を見直すところから始めることになります。2026年1月には関連制度である取適法も施行され、取引ルールの見直しはさらに続きます。制度を知らないまま従来通りの商習慣を続けることが、最もリスクの高い選択になりつつあります。
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参考文献
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)| 中小企業庁 / フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組 | 公正取引委員会 / Q&A | 公正取引委員会 / フリーランス保護新法(第2回)ー報酬支払期日の設定・期日内の支払いー | J-Net21 / フリーランス新法における「育児介護等の配慮」について | 亀井労務管理事務所 / 【2026年1月1日施行】受注者を守る法!手形払い禁止など「取適法」がもたらす変化 | 経済産業省 中小企業庁 / 2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります | 政府広報オンライン / 2025年公正取引委員会フリーランス法特設サイト | 公正取引委員会 / 中小企業向け相談窓口|八王子市公式ホームページ
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この記事は連載「暮らしと法律の手帖」第15話です
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