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工芸とデジタル · 公開: 2026.08.07 · 8分で読めます

八王子市の電子図書館 —— 『借りる』のかたちが変わった6年間

八王子市電子書籍サービスは2018年に始まり、2023年には学校図書館にも広がった。何冊まで・何日借りられるのか、対象者と手続きを一次資料から整理する。

流水文様と市松模様をデジタルのドットで再構成した文様

図書館が閉まっている夜でも、本を借りられるとしたらどうでしょうか。八王子市図書館は2018年からその仕組みを持っています。何冊まで、何日間借りられるのか。誰が使えて、どの端末で読めるのか。2023年からは学校でも使われ始めた電子書籍サービスの中身を、条件ごとに整理します。


電子書籍サービスとは —— 2018年に始まった「借りる」の新しい形

八王子市図書館は2018年(平成30年)4月2日から、「八王子市電子書籍サービス」を提供しています。運営プラットフォームのドメインは d-library.jp で、八王子市専用ページは web.d-library.jp/hachioji/ に置かれています。

このサービスの最大の特徴は、図書館の開館時間や休館日に縛られない点です。紙の本であれば、借りるにも返すにも図書館まで足を運ぶ必要がありますが、電子書籍サービスはインターネット接続環境さえあれば24時間365日利用できます。蔵書点検期間中の休館日であっても、貸出・返却が止まることはありません。

八王子市には中央図書館・生涯学習センター図書館・南大沢図書館・川口図書館・由木中央市民センター図書館・恩方市民センター図書館・由井市民センターみなみ野図書館・北野市民センター図書館・石川市民センター図書館の9館があります。電子書籍サービスは、この9館体制が抱える「開館時間」と「館数」という2つの制約を補う存在として位置づけられます。

サービスの案内では「いつでも、どこでも、だれにでも」というコンセプトが掲げられています。運営基盤となっているd-library.jpは、公共図書館向けの電子図書館サービスを国内で広く手がける株式会社図書館流通センター(TRC)の「TRC-DL」に連なるプラットフォームとみられ、全国の複数の自治体で同様の仕組みが使われています。


誰が、どう借りられるか —— 対象者と貸出条件

利用できるのは、八王子市内に在住、または市内に通勤・通学している人です。加えて、市図書館の利用者カードを持っていることが条件になります。ただし、広域利用登録によって発行された利用者カード(カード番号が「8」から始まるもの)は対象外とされているため、注意が必要です。

貸出の条件は、紙の本とは少し異なります。一度に借りられるのは2点まで、貸出期間は2週間です。予約についても最大2点までと定められています。返却期限が来ると自動的に貸出が終了する仕組みのため、延滞という概念自体がないのも紙の本との違いです。

なお、電子書籍の複写やスクリーンショットの撮影は、利用規約上禁止されています。著作権保護の観点から設けられた制限で、閲覧はできても保存はできない設計になっていると理解しておくとよいでしょう。

返却の手間がないことも、紙の本との大きな違いです。図書館の窓口やポストに返しに行かなくても、貸出期間の2週間が過ぎれば自動的に閲覧できなくなり、次の利用者が予約していればその人へ順番が回ります。返し忘れによる延滞という概念自体が生じない仕組みです。


対応デバイスとコンテンツの種類

八王子市電子書籍サービスの利用ガイドによれば、対応デバイスはWindows 11(EdgeまたはChrome)、macOS 11以降(Safari)、iOS/iPadOS 15以降(Safari)、Android 8.0以降(Chrome)、そして最新版Chrome OSを搭載したChromebookです。パソコンでもスマートフォンでもタブレットでも、手元の端末を選ばず利用できる設計になっています。

コンテンツの形式は大きく2種類に分かれます。ひとつは文字組みが画面幅に合わせて可変する「リフロー型」で、もうひとつは誌面レイアウトを固定した「フィックス型」です。写真集や図版の多い書籍はページのレイアウトを崩さないフィックス型、小説やビジネス書のように文字中心の書籍は画面サイズに応じて読みやすく整形されるリフロー型、というように使い分けられています。これに加えて、リッチコンテンツや動画・音声コンテンツも提供されています。

対応OSの一覧を見ると、いずれも比較的新しいバージョンが条件になっていることが分かります。WindowsはWindows 11、macOSは11以降、iOS/iPadOSは15以降、Androidは8.0以降が対応範囲として案内されており、古い端末では利用できない場合がある点は留意しておく必要があります。


読み上げ機能と読書バリアフリー法

電子書籍サービスの中でも見落とされがちなのが、音声読み上げ機能です。この機能は「リフローコンテンツ」で対応しており、読み上げ速度・読み手(音声の種類)・読み上げエンジンを利用者が自分で選択できます。

この機能の背景には、2019年6月に制定・施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」、通称・読書バリアフリー法があります。この法律は、視覚障害者に加えて、読字に困難がある発達障害者、寝たきりや上肢障害などによってページをめくることが難しい人まで、幅広い対象者が自分に合った方法で読書できる社会の実現を掲げています。

同法に基づく基本計画では、図書館利用に係る体制整備やインターネットを利用したサービス提供体制の強化、アクセシブルな電子書籍等の販売促進が施策の方向性として示されています。アクセシブルな電子書籍には、音声で読み上げる「デイジー図書」や、あらかじめ音声で収録されたオーディオブックなども含まれるとされています。八王子市の電子書籍サービスにある読み上げ機能は、こうした法制度が目指す方向と重なる実装だといえるでしょう。


学校図書館への拡大 —— 2023年からの児童・生徒利用

電子書籍サービスの対象は、市民だけにとどまりません。2023年4月からは、八王子市内の小中学校でも「学校図書館用ID」を使って登録することで、児童・生徒が同じサービスを利用できるようになりました。

提供される冊数は約1万3,000冊(1人あたり2冊まで貸出)に加え、読み放題コンテンツが約400冊用意されています。TOKYO MXの取材(2023年5月放送・記事化)では、緑が丘小学校の6年生が朝の読書タイムに、1人1台端末で電子書籍を読む様子が紹介されました。取材を受けた児童からは「図書室から借りて読むことができない時とか時間がない時にすぐにできるので、良いなと思います」「読みやすいし、図書館にない本とか幅広いジャンルで読めるのが良いなと思います」という声が上がっています。

学校の端末で読書ができるという環境は、1人1台端末の整備を進めてきたGIGAスクール構想の延長線上にある取り組みでもあります。端末というインフラが整ったことで、電子書籍サービスという別のサービスがその上で活用できるようになった、という関係です。

この「学校図書館用ID」は、市民が図書館の窓口で作る通常の利用者カードとは別に用意されているIDです。市民向けサービスの対象条件(市内在住・通勤・通学、利用者カード保持)とは別の枠組みとして、学校を経由した登録の仕組みが設けられています。


全国的な導入の波の中で —— 八王子市の位置づけ

電子出版制作・流通協議会(電流協)や全国公共図書館協議会の調査によれば、電子図書館を導入する自治体数は年々増加しています。報道・業界資料から把握できる推移では、2018年に21自治体だったものが、2019年には90自治体、2021年10月時点で115自治体、2023年4月時点で501自治体、2024年10月時点で579自治体に達しています(集計時点や定義は出典によって差があるため、目安として捉えてください)。わずか数年で導入自治体数が20倍以上に増えたことになります。

この推移を踏まえると、八王子市が電子書籍サービスを開始した2018年4月は、全国の導入自治体数がまだ21にとどまっていた時期にあたります。その後、電子図書館は新型コロナウイルス感染症の流行を契機に急速に広まっていくことになりますが、八王子市はそれ以前からサービスを提供していたことになります。

2020年には、外出自粛を背景に電子図書館の利用が全国的に急増しました。報道によれば、千葉県の八千代市や流山市では、電子書籍の貸出数が前年度の5倍に達したケースも伝えられています。開館時間や来館そのものが制約された局面で、電子書籍サービスを先に導入していた自治体の住民は、図書館が使えない不便さを補う手段をすでに手にしていたことになります。

導入自治体が増えるにつれ、蔵書規模にも差が出てきています。日本経済新聞の報道では、大阪府内の自治体の6割が電子図書館を導入し、そのうち東大阪市は国内最大級となる約5万冊の電子書籍を蔵書していると伝えられています。同じ「電子図書館」という枠組みの中でも、自治体ごとに蔵書規模の差は小さくないようです。

「借りる」という図書館体験がこの6年間でどう変わってきたのか。開館時間や館数という物理的な制約から解放された貸出のかたちは、今では市民だけでなく子どもたちの読書環境にも広がっています。


まとめ

八王子市電子書籍サービスは、2018年4月の開始から6年をかけて、対象を市民から児童・生徒へと広げてきました。24時間365日いつでも借りられる利便性、読み上げ機能によるアクセシビリティ、そして2023年の学校図書館への拡大は、それぞれ別々の出来事に見えて、「読書のかたちを利用者に合わせて広げる」という一つの流れの中にあります。

貸出点数は2点、貸出期間は2週間という制限はありますが、来館せずに借りられる・返し忘れがない・読み上げ機能で読める、という3つの特徴は、紙の本の貸出にはない選択肢です。次に借りるときは、貸出条件や対応デバイスを確認したうえで、市図書館のページからアクセスしてみてください。


参考文献

電子書籍サービス|八王子市図書館 / ご利用ガイド|八王子市図書館電子書籍サービス / 読書バリアフリー法とは?|JEPA 日本電子出版協会 / 八王子市 図書館の電子書籍 貸し出しスタート|TOKYO MX+(プラス) / 電流協 全国自治体の電子図書館501自治体で導入、前年より194団体増加|ニュープリネット / 2024年度(令和6年度)公立図書館における電子図書館サービスに関する実態調査報告書|全国公共図書館協議会 / 電子図書館、大阪府の自治体6割で導入 東大阪市は国内最大級5万冊|日本経済新聞

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。