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工芸とデジタル · 公開: 2026.08.02 · 8分で読めます

「書かない窓口」は八王子をどう変えるか —— フロントヤード改革とDXの現在地

八王子市の窓口では「書かない窓口」やマイナンバーカードを使った申請の自動印字が始まっている。デジタルフロントスポット長房の現場から、DX推進計画、マイナンバーカードの普及率、総務省フロントヤード改革モデルプロジェクトまでを整理する。

麻の葉文様風にアレンジした点と線のネットワーク模様

住民票や証明書をもらうために市役所の窓口で申請書を手書きした経験がある方は多いはずです。八王子市ではその手書き作業そのものをなくす取り組みが始まっています。デジタルフロントスポット長房の現場から、市のDX推進計画、マイナンバーカードの普及率、そして総務省の「フロントヤード改革」モデル事業までを整理します。


窓口で何が起きているのか —— デジタルフロントスポット長房の現場

令和6年(2024年)10月6日、八王子市初の窓口施設「デジタルフロントスポット長房」が開設されました。従来の窓口とは見た目からして違います。証明書等の記載台の代わりにキッズコーナーが設けられるなど、窓口空間そのものの発想を変えている点が特徴です。

中心となるのが「マイナピット」と呼ばれる機器です。マイナンバーカードをかざすと、カード内の情報が申請書に自動で印字され、手書きせずに申請書を作成できます。これがいわゆる「書かない窓口」の実体です。

従来の窓口では、来庁者がまず申請書に氏名・住所・生年月日などを手書きし、記入漏れや誤字があればその場で書き直すという手間が生じていました。マイナピットはこの最初の記入作業そのものを省略する仕組みで、来庁者はカードを機器にかざすだけで、基本情報があらかじめ印字された申請書を受け取れます。手書きの手間だけでなく、字が読み取りにくいために窓口で聞き直されるといった小さなやり取りも減らせる点が実務上のねらいです。

このほかにも、職員のサポートを受けながらオンライン申請ができる「オンライン支援モバイルディスプレイ」、窓口に並ばずマイナンバーカードで諸証明を発行できるキオスク端末、利用者自身が入金して精算時間を短縮できるセミセルフレジ、ポスターやチラシをディスプレイで表示するデジタルサイネージが導入されています。

開庁時間は日曜〜木曜の午前9時〜午後4時で、金・土・祝日は閉庁です(ただし祝日が日曜の場合は開庁します)。平日の日中に窓口へ行きにくい人にとっては、曜日の並びを覚えておく必要があります。令和7年(2025年)3月からは公共Wi-Fiサービスも利用できるようになりました。

キッズコーナーの設置も見逃せない変化です。証明書等の記載台という「書く場所」を減らした分だけ、窓口を待ち時間の空間として作り直しているとも読み取れます。子ども連れで手続きに来た保護者が、記入台の前で子どもを気にしながら書類を仕上げる、という従来ありがちな場面そのものが起こりにくい設計になっています。


なぜ今、窓口が変わっているのか —— 八王子市DX推進計画の歩み

「書かない窓口」は思いつきで作られた施設ではありません。その土台には、市が策定した計画があります。

八王子市は令和4年(2022年)2月に「八王子市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」の初版を策定しました。計画期間は令和4年度から令和7年度までです。ビジョンとして掲げられているのは「デジタル技術の活用により人と人のつながりを深め、地域共生社会を実現する」というもので、「生活の質の向上」「地域課題の解消」「行政の業務刷新」の3つを基本方針としています。

この計画は令和8年(2026年)7月、社会情勢や国の動向を踏まえて改定され、次期計画期間(令和8年度〜令和9年度)に入りました。デジタルフロントスポット長房の開設は、この計画が掲げる「行政の業務刷新」を先取りする形で実現した施策と位置づけられます。

所管はデジタル推進課(総合政策部)で、個人番号制度の総合調整、行政情報等ネットワークの運営、住民記録システム等の運営、情報セキュリティ管理を担っています。窓口の見た目が変わった裏側には、こうした継続的な計画と専門部署の存在があります。

計画が令和4年度から令和7年度までを最初の区切りとし、令和8年度からの次期計画へ切れ目なく更新されている点も注目に値します。単発のIT導入予算ではなく、複数年度にわたる計画として位置づけられているからこそ、長房の窓口整備のように施設・機器への投資を伴う施策が実現できたと見ることができます。


マイナンバーカードは実際どこまで使われているか

「書かない窓口」も電子申請も、前提になるのはマイナンバーカードの普及です。実際にどこまで浸透しているのでしょうか。

八王子市公式ページによると、令和8年(2026年)4月30日時点のマイナンバーカード保有率(全体)は83%(464,299人)です。年代別に見ると、14歳以下が79%(43,896人)、15〜64歳が83%(287,195人)、65歳以上が85%(133,208人)と、いずれの年代でも8割前後まで広がっています。

コンビニ交付の年間利用率は45%(15,130件、2026年4月1日〜4月30日の集計期間)でした。ただし戸籍証明のコンビニ交付は、八王子市を本籍地とする人に限定される点は注意が必要です。転入者が戸籍証明をコンビニで取ろうとしても対象外になる場合があります。

総務省の集計では、令和6年(2024年)3月末時点の八王子市のマイナンバーカード保有枚数率は73.9%(人口562,145人・交付枚数(累計)442,142枚・保有枚数415,380枚)でした。ここから令和8年4月の83%まで、約2年間で10ポイント近く上昇したことになります。窓口のデジタル化は、この普及の伸びと歩調を合わせて進められてきたといえます。

年代別の内訳を見ると、65歳以上の保有率(85%)が14歳以下(79%)や15〜64歳(83%)を上回っている点も特徴的です。マイナンバーカードを使った「書かない窓口」やコンビニ交付は、必ずしも若い世代だけを対象にした施策ではなく、高齢層を含めた幅広い年代がすでに利用の土台に乗っていることを示しています。ただしこれらの数値は令和8年4月30日時点のスナップショットであり、日々更新されていく性質のものだという点は留意しておく必要があります。


自宅から完結する手続き —— 電子申請・届出サービスの使い方

窓口に足を運ばなくても済む手続きも増えています。

八王子市は「電子申請・届出(インターネットからの申請・届出)サービス」を提供しており、自宅や外出先からパソコン・スマートフォンで、夜間・休日を問わず各種申請・届出ができます。窓口の開庁時間に縛られない点が最大の利点です。

このサービスは、東京都と都内区市町村が共同運営する「東京共同電子申請・届出サービス」の八王子市専用ページを通じて提供されており、手続き一覧や申請フォームがまとまっています。都内共通の基盤を使っているため、他の自治体でも似た画面構成を目にしたことがある人もいるかもしれません。

子育て関連の一部手続きでは、マイナポータル(通称「ぴったりサービス」)を利用したオンライン申請も導入されています。窓口のマイナピットが「行った先で書かずに済ませる」仕組みだとすれば、電子申請・届出サービスは「そもそも行かずに済ませる」仕組みだといえます。

東京都と都内区市町村が共同で基盤を運営している点も実務上の利点です。個々の市区町村が独自にシステムを開発・維持するのではなく、共通基盤を利用することで、比較的短い期間で新しい手続きを追加しやすくなります。八王子市専用ページに一覧化された手続きが今後も増えていく可能性は、この共同運営という仕組みの上に成り立っています。


「フロントヤード改革」という国の方針と八王子市の位置づけ

ここまで見てきた個々の施策は、実は国が全国規模で進める方針の一部でもあります。

八王子市は令和5年度(2023年度)、総務省の「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」において、関東地域の「先駆けとなる改革に取り組むモデル」自治体として選定されました。フロントヤード改革という名前のとおり、取組の柱は「バックヤードの集約処理」です。住民と接する窓口業務(フロントヤード)と、審査等の事務処理(バックヤード)をデジタル技術で分離し、複数の支所の定型的な事務処理を一つのバックヤード業務センターに仮想的に集約する仕組みを指します。

これにより、各支所の窓口機能そのものは維持しながら、審査等の定型業務はデータ連携とタスク管理によって集約拠点へ配分・処理できるようになります。窓口の数を減らさずに、裏側の処理だけを効率化するという発想です。

令和7年(2025年)3月には、最終報告書「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト報告書」が総務省から公表されました。問い合わせ窓口は八王子市総合経営部経営改革課です。報告書に記載された具体的な処理時間の短縮効果や対象支所数などの数値は今回確認が取れていないため、ここでは「選定され、取り組んでいる」という事実の範囲にとどめます。

この取組が「経営改革課」という部署の所管である点も、性格を理解するうえで手がかりになります。デジタル推進課が個人番号制度やシステム運用といった技術面を担うのに対し、経営改革課が担当するのは業務プロセスそのものの見直しです。長房で目にする「書かない窓口」という利用者側の体験と、バックヤード集約という裏側の業務改革は、別々の部署がそれぞれの持ち場で進めている、両輪の取り組みだといえます。


まとめ

デジタルフロントスポット長房の「書かない窓口」は、単発の便利機能ではなく、八王子市DX推進計画、マイナンバーカードの普及、電子申請サービス、そして総務省のフロントヤード改革モデルプロジェクトという複数の取り組みが重なった結果として生まれています。窓口の見た目が変わった背景には、行政の裏側で進む処理の集約化という、目に見えにくい変化もあります。次に窓口へ行く機会があれば、マイナンバーカードを持参してみると、この数年で変わった仕組みを体感できるかもしれません。


参考文献

八王子市ホームページ「八王子市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」「デジタル推進課」「マイナンバーカード保有率とコンビニ交付利用率」「電子申請・届出サービス」「デジタルフロントスポット長房の施設概要」 / 東京共同電子申請・届出サービス「八王子市トップページ」 / 総務省「マイナンバーカードの交付・保有枚数等について(令和6年3月末時点)」「自治体フロントヤード改革 モデルプロジェクトを見る 東京都 八王子市」

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。