八王子市DX推進計画とその実装 —— 窓口キャッシュレス化・AI相談「はちここ」・オープンデータ
八王子市が2022年に策定したDX推進計画の全体像と、窓口キャッシュレス化・AI相談「はちここ」・オープンデータ公開という3つの具体施策を、開始時期と中身から整理する。

この記事の目次
窓口でスマホ決済ができるようになったのも、悩みごとをAIに相談できる仕組みができたのも、市が保有するデータが誰でも使えるようになったのも、すべて一つの計画に根拠がある。八王子市は2022年、DXを進めるための上位計画を策定した。この記事では、その計画の骨格と、そこから生まれた3つの具体的な変化を整理する。
連載「市役所とデジタル」第6回|この連載をまとめて読む
八王子市のDXは何を目指しているのか —— 3つの基本方針と計画期間
八王子市は令和4年(2022年)2月、「八王子市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定した。計画期間は令和4年度から令和7年度まで(2022〜2025年度)の4年間で、令和5年(2023年)3月に策定された市の基本構想・基本計画「八王子未来デザイン2040」が掲げる将来像を、デジタル化の面から後押しする位置づけとされている。
計画は3つの基本方針を掲げ、各事業をこの枠組みのもとに分類している。「生活の質の向上 〜市民視点の人にやさしいDX〜」は、市民が窓口に来なくても手続きを済ませられるようにする施策群を指す。「地域課題の解消 〜DXによる安心で活力あるまちづくり〜」は、防災や見守りなど地域の課題をデジタルで補う施策を指す。「行政の業務刷新 〜地域・現場から考える組織に〜」は、職員側の業務効率化を指す。
令和4年度時点の具体的な取組例として、全庁的なキャッシュレス化と、ライフイベントごとに窓口を一本化し同じ情報を何度も書かせない「ワンストップ化・ワンスオンリー化」が掲げられていた。市は、窓口が高齢者や障害者を含むあらゆる人にとってやさしく便利になることを目指し、オンラインでどこからでも相談できるサービスの導入や、窓口・公共施設でのキャッシュレス化、ライフイベントごとのワンストップ窓口の検討を進めてきた。この記事で扱う窓口キャッシュレス化・AI相談「はちここ」・オープンデータ公開は、いずれもこの計画のもとで具体化した施策にあたり、「生活の質の向上」と「行政の業務刷新」の双方にまたがる横断的な取り組みとして位置づけられる。
なお市は、社会情勢の変化や国の動向を踏まえ、令和7年度(2025年度)内にR4-R7計画の後継となる次期計画(令和8〜9年度)を策定している。基本方針の骨格は引き継がれているとみられるが、新たに盛り込まれた視点の具体的な事業名までは、公開情報から確認できなかった。
窓口キャッシュレス化 —— いつから、どこで、何が使えるか
市民課や住民税課の窓口で、証明書発行手数料などをキャッシュレスで支払えるサービスは、令和5年(2023年)3月1日から始まった。対象は市民課、住民税課、八王子駅南口総合事務所、南大沢事務所、浅川事務所、由木事務所、元八王子事務所、北野事務所の計8窓口である。
対応する支払い方法は3系統に分かれる。クレジットカードはVISA、MasterCard、JCB、American Express、Diners Clubの5種類。交通系ICカードはSuica、PASMOをはじめ全国相互利用対象の9種類。コード決済はPayPay、メルペイ、auPAY、d払い、楽天PAYなどに対応する。
市はこのサービスの導入目的について、「市民の利便性向上」と「感染症対策のための接触機会の削減」の2点を挙げている。コロナ禍を経て日常に定着した非接触決済が、行政窓口にも波及した一例といえる。
窓口手数料そのものにも動きがある。八王子市手数料条例の改正により、令和8年(2026年)7月1日から各種証明書の手数料が改定される。マイナンバーカードを使ったコンビニ交付サービスの手数料は基本的に据え置かれる一方、戸籍謄抄本の写しは1通350円に引き下げられる予定である。
AI相談窓口「はちここ」とチャットボット —— 24時間相談できる仕組み
八王子市のAI活用は、性格の異なる2つのサービスに分かれる。一つは「八王子市総合案内チャットボット」で、パソコンやスマートフォンから24時間365日、自動応答で市民の質問に答え、ホームページ内の該当ページへ案内する。この総合案内チャットボットには、国・地方公共団体が共通で使う相談チャットボット「Govbot(ガボット)」を活用した仕組みも案内ページ上で併記されている。
もう一つが、令和7年(2025年)2月3日から4月30日までの3ヶ月間、試行実験として実施された生成AI活用の福祉相談窓口「はちここ」である。孤独・孤立対策として、オンラインで市民の悩みを聴き、必要に応じて市の福祉窓口へつなぐことを目的とした取り組みだった。
背景には、従来の対面式相談窓口が夜間・休日に対応できないことや、心理的なハードルから支援を求められない市民が一定数いるという課題認識があった。コロナ禍以降の生活様式の変化で、窓口に来られず潜在的に孤独・孤立状態にある市民とつながりにくくなったという新たな課題も指摘されている。
「はちここ」は匿名で利用でき、市のホームページのほか、市内13か所の「はちまるサポート」など福祉関連窓口に掲示されたチラシのQRコードからアクセスできた。開発・運営は株式会社ZIAI(東京都渋谷区、代表・櫻井昌佳氏)が担っている。福祉分野でのAI傾聴窓口導入は、運営企業側の発表では都内自治体で初の試みとされている。試行後に本格導入へ移行したかどうかは、2026年8月時点の公開情報からは確認できなかった。
オープンデータの公開 —— 市民・企業が自由に使えるデータ
八王子市は、行政が保有する公共データを二次利用可能なルールで公開する「オープンデータ」にも取り組んでいる。市民や企業が自由に編集・加工して利活用できるようにすることで、生活の利便性向上や新たなビジネスの創出につながることが期待されている。
公開データは市税、教育、画像、人口、防災、交通、子育て、環境、福祉など、少なくとも19のカテゴリに分けてカタログページに整理されている。代表例の一つ「統計八王子関連オープンデータ一覧」は、平成27年度版(2015年度)から令和6年版(2024年)までの統計年鑑データを収録し、令和7年(2025年)4月14日時点で更新されている。
公開データのライセンスには「CC BY(表示)4.0」が採用されている。出典を明示すれば、二次利用・改変・商用利用も可能な条件である。八王子市はこのほか、東京都のオープンデータカタログサイトや、町田市・日野市・多摩市・稲城市など多摩地域4市との広域連携によるオープンデータイベントにも参加しており、単独市完結ではなく広域の取り組みの一部として位置づけられている。
推進体制の変遷 —— デジタル推進室からデジタル推進課へ
DX推進計画を担う組織体制も、この4年余りで変化してきた。八王子市は令和3年(2021年)4月1日、組織改正により「デジタル推進室」を新設した。東京都が同時期にデジタルサービス局を立ち上げ、国のデジタル庁も同年9月の開設を予定していたことに対応した動きである。
新設の室は「部」相当の組織で、室長は部長級職員が務め、前身の「情報管理課」から人員を増やして31人態勢とした。加えて、外部有識者2名を「デジタル推進専門官」として非常勤で配置した。当時の室長・中嶋徹氏は「専門官の任用や、部に相当する室の立ち上げは、他市ではあまり聞かない」と述べており、他自治体と比べても踏み込んだ体制であったことがうかがえる。設置期限は5年間とされていた。
その後、令和6年(2024年)7月16日付の組織改正で、デジタル推進室は統合・廃止され、「デジタル推進課」として再編された。室(部相当)から課への変更が、規模縮小によるものか、他部門との統合による効率化なのかは、公開情報からは断定できない。
まとめ
窓口のキャッシュレス化、AI相談窓口「はちここ」、オープンデータの公開。これらは別々の施策に見えて、いずれも2022年策定のDX推進計画という同じ土台の上に立っている。
この連載はこれまで、公開型GIS「はちおうじマップ」、防災情報のデジタル化、GIGAスクール構想による学校ICT化、「書かない窓口」を目指すフロントヤード改革、マイナンバーカードと連携する「マイナアプリ」統合と、個別の施策を一つずつ扱ってきた。ここまでの5つの取り組みを計画の3方針に照らすと、はちおうじマップとGIGAスクール構想は市民自身が情報にアクセスできるようにする「生活の質の向上」に、防災情報デジタル化は「地域課題の解消」に、フロントヤード改革とマイナアプリ統合は手続きを一元化する「行政の業務刷新」に、それぞれ重なりを持ちながら位置づけられる。
計画は2025年度で一区切りを迎え、次期計画が新たな視点を盛り込んで動き出している。窓口で見かけるキャッシュレス決済の案内や、市のオープンデータカタログを開いたとき、その背景にある計画の存在を思い出してもらえれば幸いである。
この連載の他の記事
連載「市役所とデジタル」は、八王子市が進めるデジタル化の個別施策を一つずつ取り上げてきたシリーズです。
- 前の回: 「マイナアプリ」統合スタート —— スマホの行政手続きはどう変わるか
- この連載をまとめて読む: はちおうじマップの登場 —— 公開型GISが変える八王子の暮らしと行政情報
参考文献
八王子市公式ホームページ「八王子市デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」「DXアクションプラン(2025年版)」「一部窓口でキャッシュレス決済が利用できます」「郵送申請キャッシュレス支払いサービスについて」「オープンデータ」「オープンデータカタログページ」「統計八王子関連オープンデータ一覧」「デジタル推進課|市の組織」 / タウンニュース「八王子市 デジタル推進室を発足」(2021年4月15日) / 株式会社ZIAIプレスリリース「都内自治体初!八王子市が生成AI技術を活用した福祉相談窓口を開設」 / 日本経済新聞「生成AIで悩み相談、東京都八王子市が窓口開設」
この記事は連載「市役所とデジタル」第1話です
未管理著作物裁定制度、始まる —— 絶版の一冊を甦らせた新しい仕組み
Support
※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます






