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工芸とデジタル · 公開: 2026.08.15 · 7分で読めます

桑都ペイという実験 —— デジタル地域通貨、試行錯誤の3年間

八王子市のデジタル地域通貨「桑都ペイ」は、チャージ型での試行と休止を経て地域ポイント型に生まれ変わり、2026年の物価高対策給付金の選択肢にもなった。3年間の変遷と、今どう使えるかを整理する。

木の机でノートパソコンのキーボードを打つ手元

八王子市のデジタル地域通貨「桑都ペイ」は、2026年の物価高騰対策「桑都のまち応援給付金」で、現金より1,000円多く受け取れる選択肢として使えるようになった。だがこの制度は最初からこの形だったわけではない。2023年にチャージ型として始まり、不正利用という課題にぶつかって一度姿を消し、2024年に地域ポイント型として生まれ変わった、3年越しの試行錯誤の産物である。桑都ペイが今どんな制度で、給付金をどちらで受け取ると得なのかを、経緯とあわせて整理する。


桑都ペイとは何か——結論から

結論から言うと、桑都ペイは八王子市内の加盟店(飲食店・小売店等)でのみ利用できる、市が運営するポイント制の電子通貨アプリである。1ポイント=1円換算で使え、現金やクレジットカードのような汎用性はないが、市内での消費に限定されている分、地域経済への還元を狙った制度設計になっている。

利用の仕組みはシンプルだ。利用者はスマートフォンに桑都ペイの専用アプリを入れ、買い物の際に店舗に置かれた二次元コードを読み取って支払う「ユーザースキャン方式」を採用している。店舗側が新たに決済端末やタブレットを用意する必要がなく、二次元コードを1枚掲示するだけで導入できる点が特徴で、小規模な個人商店でも参入しやすい仕組みになっている。

導入目的について、八王子市・報道いずれも「地域経済の活性化」「地域コミュニティの活性化」という2点で説明している。単なる決済アプリではなく、市内でお金を回すための仕組みとして位置づけられている点を押さえておくと、この後の3年間の変遷が理解しやすくなる。


なぜ一度姿を変えたのか——2023年のチャージ型試行

桑都ペイは令和5年(2023年)10月18日にスタートした。この最初のバージョンは「チャージ型」で、利用者があらかじめ現金でポイントをチャージしてから使う仕組みだった。利用期間は同年10月18日から翌年2月29日までの期間限定で、目玉施策としてチャージ額3万円を上限に30%のポイントを付与するキャンペーンが実施され、最大9,000ポイントが上乗せされた。10月6日時点で家電量販店から飲食店まで約1,300店が加盟するというスタートを切っている。

この試行の財源には、国の地方創生臨時交付金を活用した約17億8,400万円の補正予算が充てられた。導入発表にあたり市長は、市内での資金循環による事業者支援・地域活性化に加えて、「市外からの資金獲得や、交流人口・関係人口増加のきっかけになること」への期待も述べており、当初から域内消費の喚起にとどまらない狙いを持たせていたことがうかがえる。

しかし、このチャージ型の試行は順調にいかなかった。令和6年(2024年)3月13日の総務企画委員会に提出された報告資料「桑都ペイの利用状況について」では、複数アカウントでの登録や、利用規約・実施要綱に違反する不正利用の事案が発生していたことが明らかにされている。前回試行の利用総額は約58億円、アカウント登録数は約20万人に達したとされ、規模としては大きな実績を残した一方で、制度の抜け穴を突く動きも同時に生まれていたことになる。市長は後の再開時の会見で「試みの時にさまざまな課題があった」と振り返っている。


2024年11月、地域ポイント型への再設計と「三都絆祭」

約8か月の休止期間を経て、桑都ペイは令和6年(2024年)11月17日に運用を再開した。このタイミングは偶然ではない。同日は八王子市・北海道苫小牧市・栃木県日光市の姉妹都市締結50周年を記念するイベント「三都絆祭」の開催日にあたり、再開はこのイベントに合わせて設計された。

再開の方針は、事前に議会にも共有されていた。令和6年(2024年)9月26日の総務企画委員会には「デジタル地域通貨『桑都ペイ』事業の再開について」という報告資料が提出されており、休止から再開までの間、行政内部でも検証と準備が重ねられていたことがうかがえる。

再開にあたり、桑都ペイは大きく設計を変えた。前回試行にあったチャージ機能を当面実施せず、「地域ポイント機能」に限定する方針に転換したのである。利用者は現金をチャージするのではなく、イベントへの参加や特定の行動を通じてポイントを獲得し、それを市内加盟店での買い物に充てる仕組みになった。

具体的には、三都絆祭のイベント会場で二次元コードを読み込むと500ポイント、特定年齢(21・22・31・32歳)の女性が子宮頸がん検診を受診しアンケートに回答すると500ポイント、省エネチャレンジのチェックシートを提出すると抽選で最大1,000名に50ポイントが付与されるといった具合に、健診受診や省エネ行動といった市の政策目標とポイント付与を結びつける設計に生まれ変わった。不正利用の温床になっていたチャージ機能を切り離し、行動に対する報酬としてポイントを配る仕組みに転換したことで、制度としての持続可能性を確保しようとしたと見ることができる。

チャージ型からポイント型への転換は、単なる名称変更ではない。チャージ型は現金を先に投入させる分、不正利用のリスクや利用者の心理的なハードルが伴う一方、ポイント型は「行動の対価」として付与されるため、利用者は金銭的な持ち出しなしに制度へ参加できる。八王子市が三都絆祭という祝祭的なタイミングを選んで再始動させた背景には、休止で失われた利用者の信頼を、まずは無償のポイント配布によって取り戻す狙いがあったとも読み取れる(この読み取りは一次資料に基づく推測であり、市の公式説明ではない)。


2026年、物価高対策「桑都のまち応援給付金」での活用

地域ポイント型として再スタートした桑都ペイは、2025年から2026年にかけて、健診や省エネ行動へのポイント付与という枠を超え、市の主要な物価高騰対策の一部としても使われるようになった。それが令和8年(2026年)に実施された「桑都のまち応援給付金」である。

この給付金の対象は、2026年1月1日時点で八王子市に住民登録がある人、および同年1月2日から7月31日に生まれた新生児で、受給者は世帯ごとに「桑都ペイ(1人あたり6,000円相当ポイント)」か「現金(1人あたり5,000円)」のいずれかを選ぶ仕組みになっている。世帯内で受け取り方法を分けることはできず、世帯主がまとめて選択・受給する。ここで注目したいのは、桑都ペイを選ぶと現金よりも1,000円多く受け取れるという設計だ。「お得感を出すことで市内消費の喚起を狙う」とする報道もあり、地域通貨を使った消費喚起策としての狙いが明確に打ち出されている。

この給付金を含む市の補正予算案全体では92億8,200万円の追加が計上されており、物価高騰対策のなかでも規模の大きい施策に位置づけられる(ただし桑都ペイ分単独の金額までは、公開されている報道の範囲では明記されていない)。

申請期限は令和8年7月31日(消印有効)で、電子申請は現金・桑都ペイどちらの選択にも対応するが、郵送申請は現金選択時のみ対応という違いがある点は申請時に注意したい。また、桑都ペイでのポイント受け取り・利用期限は令和8年10月31日までで、期限を過ぎた分の補償はない。市内での消費に使い切る前提の制度設計になっており、受け取ってから使うまでの計画を立てておく必要がある。


加盟店の広がりと、健康・環境施策との連動

桑都ペイが給付金の選択肢として機能するのは、それを使える店が市内に一定数存在しているからでもある。2023年の試行導入時点で、加盟店は家電量販店から飲食店まで約1,300店に上った。加盟店側の店舗登録料・換金手数料は無料で、二次元コードやポスターといった販促物も無料で提供される。決済端末やタブレットを新たに用意する必要がなく、二次元コードを掲示するだけで導入できる仕組みは、小規模事業者・個人商店が多い八王子の商業構造に配慮した設計と考えられる(この評価は一次資料に基づく推測であり、市が公式にそう説明しているわけではない)。

桑都ペイは給付金以外の場面でも、健康施策・環境施策とセットになった使われ方を続けている。たとえば令和8年(2026年)7月15日から9月5日にかけて実施された「八王子☆エコレシピ・コンテスト2026」では、応募者全員に桑都ペイ30ポイント、最優秀賞に300ポイント、優秀賞(2名)に100ポイントが付与された。参加にはポイント受け取りのため桑都ペイのユーザーIDが必要で、食品ロス削減などの環境施策への参加とデジタル地域通貨の利用促進を同時に狙う設計になっている。チャージ型で始まり、不正利用という課題を経て地域ポイント型に姿を変え、いまは健診・省エネ・給付金という複数の政策ツールとして使われている——それが桑都ペイの3年間である。


まとめ

桑都ペイは、2023年のチャージ型試行、不正利用という課題を経た休止、2024年の地域ポイント型への再設計、そして2026年の物価高対策給付金での活用という4つの局面を経てきた制度である。今この記事を読んでいる読者にとって一番実用的なのは、桑都のまち応援給付金を桑都ペイで受け取ると現金より1,000円多くなるという点と、その利用期限が2026年10月31日までという点だろう。市内の加盟店で使い切る計画を、期限から逆算して立てておきたい。


参考文献

タウンニュース「デジタル地域通貨「桑都ペイ」18日始動 ポイント30%分を付与」「補正予算案 桑都ペイ6千円相当給付 物価高騰対策 現金は5千円」 / 八王子経済新聞「八王子市のデジタル通貨『桑都ペイ』運用再開へ ポイントためて店で利用」 / 南大沢通信「八王子のデジタル地域通貨『桑都ペイ』が復活!チャージはできる?」 / 八王子市ホームページ「桑都のまち応援給付金について」 / 八王子市デジタル地域通貨 桑都ペイ公式サイト「桑都ペイとは」「【ポイントプレゼント】八王子☆エコレシピ・コンテスト2026」

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。