不動産登記の義務化 —— 相続登記と住所等変更登記、八王子で不動産を持つなら今何をすべきか
相続登記は2024年4月、住所等変更登記は2026年4月に義務化され、違反すると過料の対象になります。期限・簡易な履行ルート・八王子市内の相談窓口を整理します。

この記事の目次
実家の名義が、亡くなった親のままになっていないでしょうか。令和6年(2024年)4月には相続登記が、令和8年(2026年)4月には住所等変更登記が、それぞれ申請義務化されました。結論から言うと、相続なら「相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内」、住所や氏名の変更なら「変更があった日から2年以内」に登記するのが原則で、期限を過ぎると過料の対象になります。ただし、戸籍を全部集めなくても済む簡易な届出や、法務局が自動で変更登記をしてくれる仕組みも用意されています。この記事では、八王子市内に実家や工房、店舗の不動産を持つ読者を念頭に、義務化の期限、簡易ルート、そして市内の相談窓口までを整理します。
連載「暮らしと法律の手帖」第19回|この連載をまとめて読む
相続登記の申請義務化(令和6年4月1日施行)と経過措置の期限
義務化の背景にあるのは、全国で「九州本島の面積を超える」規模まで広がったとされる所有者不明土地の問題です。法務省・国土交通省の調査によると、発生原因の内訳は約3分の2(63%)が相続登記の未了、約3分の1(29%)が住所変更登記の未了とされています。この問題に対応するため、令和3年(2021年)に不動産登記法等が改正され、段階的に施行が進んできました。
その第一弾が、令和6年(2024年)4月1日に施行された相続登記の申請義務化です。相続(遺言を含む)によって不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。
すでに起きている相続にも経過措置が設けられています。施行日より前に発生していた相続で、まだ相続登記がされていないものも義務化の対象となり、申請期限は「施行日または相続を知った日のいずれか遅い方から3年」、かつ「令和9年(2027年)3月31日」までのいずれか遅い方です。つまり、何十年も前に亡くなった祖父母名義の土地であっても、令和9年3月末までには手を付ける必要があるということです。
正当な理由なく義務に違反した場合は、10万円以下の過料の対象になります。ただし、これは登記官が催告をしても応じない場合に限られる仕組みで、うっかり期限を過ぎた瞬間に自動的に科されるものではありません。法務省のQ&Aでは、相続人が極めて多数で戸籍の収集に時間がかかる場合や、遺言の有効性が争われている場合、相続人本人に重病などの事情がある場合、経済的困窮で登記費用を負担できない場合などを「正当な理由」の例として挙げています。
相続人申告登記 —— 戸籍を全部集めなくても義務を履行できる簡易ルート
本来の相続登記は、被相続人の出生から死亡までの戸籍関係書類をすべて集める必要があり、相続人が多い家系では大きな負担になります。この負担を緩和するため、令和6年4月の義務化と同時に「相続人申告登記」という制度が創設されました。
相続人申告登記は、登記官に対して(1)所有権登記名義人について相続が開始したこと、(2)自らがその相続人であること、の2点を申し出るだけで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされる仕組みです。必要な戸籍書類も、申出人が登記簿上の所有者の相続人であることが確認できる範囲で足り、被相続人の出生から死亡までの全戸籍までは求められません。
ここで注意したいのは、相続人申告登記はあくまで「義務を履行したとみなす」簡易な届出であり、不動産の権利関係を確定させる本来の相続登記(遺産分割の内容を反映した所有権移転登記)とは別物だという点です。将来その不動産を売却したり、担保に入れたりする際には、あらためて正式な相続登記が必要になります。「とりあえず過料は避けたい」という段階なら相続人申告登記、「売却や活用まで見据えている」なら正式な相続登記、と使い分けるのが実務的な整理になります。
住所等変更登記の義務化(令和8年4月1日施行)とスマート変更登記
相続登記の義務化から2年後、令和8年(2026年)4月1日には、もう一つの義務化が施行されました。不動産の所有権登記名義人(個人・法人とも)は、氏名(名称)または住所に変更があった日から2年以内に、変更の登記を申請しなければなりません。本稿執筆時点でも施行からまだ半年ほどしか経っておらず、義務化のなかでは最も新しい制度改正です。
こちらにも経過措置があります。施行日より前に住所等を変更していて、まだ変更登記をしていない場合も義務化の対象となり、申請期限は令和10年(2028年)3月31日までです。正当な理由なく義務を怠ると、5万円以下の過料の対象になります。ただしこちらも、登記官による催告を経てもなお申請がない場合に限られる点は相続登記と同様です。転居や結婚による改姓のたびに登記を意識していなかった人にとっては、心当たりのある制度かもしれません。
この住所等変更登記についても、負担を軽くする仕組みが用意されています。「スマート変更登記」と呼ばれるもので、個人の場合は「検索用情報の申出」をしておくと、法務局が少なくとも2年に1回、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)に照会して住所等の変更有無を確認します。変更が確認された場合はメールまたは書面で本人に確認を取り、同意を得たうえで登記官が職権で変更登記を行う仕組みです。申出はオンライン(「かんたん登記・供託申請」サイトで生年月日・メールアドレス・地番等を入力、電子証明書は不要)、または書面のいずれかで行えます。
法人の場合は「会社法人等番号」を申し出ておくことで、商業・法人登記上の住所等変更情報が自動的に不動産登記に反映されます。一度申出をしておけば、以後は転居・改姓のたびに自分で法務局へ足を運ぶ必要がなくなる仕組みです。
所有不動産記録証明制度(令和8年2月2日開始)—— まず「何を持っているか」を確認する
相続登記をしようにも、亡くなった家族がどこにどれだけの不動産を持っていたか把握できない、というのはよくある壁です。この課題に対応するため、令和8年(2026年)2月2日から「所有不動産記録証明制度」の運用が始まりました。
この制度は、特定の被相続人(または本人)が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、法務局が一覧的にリスト化し、証明書として交付するものです。請求できるのは、所有権の登記名義人本人(法人含む)、その相続人その他の一般承継人(法人含む)、そして代理人(委任状が必要)です。管轄の制限はなく、全国どこの法務局・地方法務局でも請求でき、オンライン・郵送・窓口のいずれの方法にも対応しています。
手数料は検索条件1件・1通あたり、書面請求(収入印紙)が1,600円、オンライン郵送交付が1,500円、オンライン窓口交付が1,470円です。相続登記に着手する前の第一歩として、「自分たちが何を相続することになっているのか」を確認するツールと捉えると使い所が見えてきます。
八王子市内の相談窓口 —— 法務局・住まカツ・司法書士会
制度の輪郭がつかめても、実際の手続きは書類集めや遺産分割協議など個別の事情に左右されます。迷ったときに頼れる窓口を、役割ごとに整理しておきます。
不動産登記そのものの管轄窓口は、東京法務局八王子支局です。所在地は八王子市明神町四丁目21番2号、八王子地方合同庁舎の1階・2階で、京王線「京王八王子」駅から徒歩5分の距離にあります。代表電話は042-631-1377、証明書発行窓口専用は042-648-7355です。不動産登記のほか、商業・法人登記や供託(現金取扱庁)、法定相続情報の手続きも扱っていますが、成年後見登記は取り扱っていない点は覚えておくとよいでしょう。
登記そのものではなく、実家や空き家の「この先どうするか」という相談であれば、八王子市の「住まいの活用相談所(住まカツ)」が窓口になります。これは市が地元の不動産団体と協定を結んで開設した、空き家の所有者・相続予定者を対象とするワンストップ相談窓口で、相続登記の手続き窓口ではなく、住まいの流通・管理・継承に関する相談窓口という位置づけです。公益社団法人東京都宅地建物取引業協会第12ブロック八王子支部(042-548-1251、月〜金9:30〜16:30)と、公益社団法人全日本不動産協会東京都本部多摩南支部(042-623-7357、月・火・木・金10:00〜16:00)が窓口を担っています。
より踏み込んだ法的な相談をしたい場合は、東京司法書士会の無料相談も選択肢になります。四谷の総合相談センターでは、面談・WEB(Zoom)・電話の3形式で相続・不動産登記の相談を無料で受け付けており、予約制で1年間に3回まで利用できます。「まず何から手を付ければよいか分からない」という段階では、こうした無料相談を早めに頼っておくと、後の手続きの負担を軽くすることにつながります。
よくある誤解と、悪質な勧誘への注意喚起
義務化をめぐっては報道や不動産・相続系サイトの解説が先行しているぶん、いくつかの誤解も広がりやすくなっています。
まず、「相続登記をしないと不動産が没収される」という話を耳にすることがありますが、これは正確ではありません。公式には没収の規定はなく、罰則はあくまで10万円以下(住所等変更登記は5万円以下)の過料という行政上のペナルティにとどまります。しかも、登記官の催告を経ても応じない場合に限られるため、期限を過ぎた瞬間に問答無用で科されるものでもありません。
もう一つ、「住所変更登記の義務化は、結婚や引っ越しのたびに毎回自分で法務局へ行く必要がある」という誤解も見られます。前述の「スマート変更登記」の申出をしておけば、法務局が住基ネット照会で職権対応するため、都度の自己申請は不要になります。
あわせて注意しておきたいのが、法改正を口実にした悪質な勧誘です。東京都消費生活総合センター(東京くらしねっと)は、「原野商法の二次被害」など、法改正に便乗した不当な勧誘トラブルが報告されているとして注意を呼びかけています。「今すぐ登記しないと過料になる」といった不審な勧誘を受けた場合は、その場で契約せず、消費者ホットライン「188(いやや)」や、東京法務局・司法書士会などの公的窓口に確認することが呼びかけられています。制度そのものは行政手続きであり、民間業者から勧誘される筋合いのものではない、という点を押さえておくだけでも、被害を避けやすくなります。
まとめ
相続登記と住所等変更登記は、どちらも「知らないうちに義務違反になっていた」が起こりやすい制度です。相続なら3年以内、住所・氏名の変更なら2年以内という期限を頭の片隅に置きつつ、戸籍集めが負担なら相続人申告登記、転居のたびの手続きが煩わしいならスマート変更登記といった簡易な選択肢があることも覚えておくと、身構えすぎずに対応できます。まずは所有不動産記録証明制度で「何を持っているか」を確認し、迷ったら法務局八王子支局や住まカツ、司法書士会の無料相談を頼る。それが、この制度と付き合っていくうえでの現実的な一歩になるはずです。
この連載の他の記事
連載「暮らしと法律の手帖」は、八王子で暮らすうえで知っておきたい制度や手続きを、身近な場面から一つずつ取り上げるシリーズです。
- 前の回: 「年収の壁」引き上げと社会保険適用拡大 —— 2026年、桑都の個人事業主・パート労働者は何が変わるか
- この連載をまとめて読む: 八王子で暮らすなら知っておきたい法律の話
参考文献
法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」「相続登記の申請義務化に関するQ&A」「相続登記の申請義務化に関する概要資料」「住所等変更登記の義務化特設ページ」「住所等変更登記の義務化について」「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」「スマート変更登記のご利用方法」「所有不動産記録証明制度について」「不動産登記簿における相続登記未了土地調査について」 / 東京法務局「八王子支局」 / 八王子市ホームページ「相続登記について」「八王子市空き家ワンストップ相談窓口『住まいの活用相談所(住まカツ)』」 / 東京司法書士会「総合相談センター(四谷)」 / 東京くらしねっと(東京都消費生活総合センター)「所有者不明土地の解消のための法改正〜相続登記申請の義務化など〜」 / 政府広報オンライン「所有者不明土地 相続や住所等の変更の未登記により全国で発生」
暮らしの手続きで迷ったら
相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。
具体的なご相談は、まず八王子市の無料専門相談(法律・相続・不動産・税務など/予約制・無料)が入口になります。
こうした暮らしの手続きの記事は、連載「暮らしと法律の手帖」で続けています。
次の一本が出たら、お知らせします
記事の更新だけをお送りします。お問い合わせとは別の窓口です。
確認メールのリンクを開くと購読が完了します。解除はいつでもできます。
執筆・取材のご依頼、記事へのご指摘は お問い合わせ からどうぞ。
この記事は連載「暮らしと法律の手帖」第19話です
故人のスマホ、ロックは解除できる? デジタル遺品のパスワード解除と費用の考え方
Support
※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます






