カスタマーハラスメント対策の義務化 —— 2026年10月施行、桑都の個人事業主は何を確認すべきか
改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が事業主の義務になった。従業員を1人でも雇う工房・店舗が何を・いつまでに・どこに相談すればよいかを、厚生労働省・東京都・八王子市の公式情報から整理する。

この記事の目次
連載「暮らしと法律の手帖」第22回|この連載をまとめて読む
令和8年(2026年)10月1日、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメント対策が事業主の雇用管理上の措置義務になりました。対象は従業員を1人でも雇う事業主全員で、企業規模や業種による適用除外、中小企業への猶予期間はありません。桑都の工房・店舗・飲食店のオーナーが今すぐ確認すべきことと、八王子市内で使える相談窓口を整理します。
結論 —— 従業員を1人でも雇っていれば、もう対象になっている
従業員(パート・アルバイトを含む)を1人でも雇用している工房・店舗・飲食店等は、令和8年(2026年)10月1日時点で法律上の対象になっています。これまでカスタマーハラスメントは、パワーハラスメント(2020年に雇用管理上の措置義務化)やセクシュアルハラスメントのような義務の対象ではなく、事業主が対応するかどうかは任意でした。顧客等からの著しい迷惑行為に労働者がさらされても、法律上は事業主の努力義務にとどまっていたのです。
この状況が変わったのが改正労働施策総合推進法で、カスタマーハラスメント対策が新たに事業主の雇用管理上の措置義務として位置づけられました。対象範囲に企業規模・業種による適用除外はなく、中小企業に対する猶予期間も設けられていません。つまり、桑都手帖の読者層である工房・個人商店のオーナーが、パート・アルバイトを含めて従業員を1人でも雇っていれば、2026年10月1日からすでに対象です。一方、従業員を雇わず一人で営業している個人事業主(いわゆる一人親方・フリーランス)は、「労働者を雇用する事業主」としての義務の対象外になると考えられますが、この点を明確に述べた厚生労働省の一次資料には現時点で到達できておらず、断定はできません。
なぜ今、義務化されたのか —— 東京都条例が先に動いていた
令和7年(2025年)6月11日、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)の改正法が公布されました。これにより、カスタマーハラスメント対策はパワハラ・セクハラ対策と並ぶ法律上の義務になりましたが、施行日は公布から1年余り後の令和8年(2026年)10月1日に設定されています。
この国の法改正に先行していたのが、東京都の条例です。東京都は令和6年(2024年)に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和6年東京都条例第140号)を制定し、令和7年(2025年)4月1日から施行しました。顧客等から就業者に対するカスハラ行為の禁止を明記した全国初の条例で、罰則は設けられていません。
北海道・群馬県も同時期に同様の条例を施行するなど、自治体レベルでの対策が先行していた経緯があり、国の法改正はこうした自治体条例の広がりを追いかける形で、全国一律の義務化に踏み込んだことになります。東京都内の事業者にとっては、「条例(2025年4月)→法律(2026年10月)」という二段階で規制が強化された形です。
事業主が講じるべき対応 —— 厚労省指針が示す5つの領域
厚生労働省は令和8年(2026年)2月26日、改正法に基づく指針(「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」、令和8年厚生労働省告示第51号)を公布しました。この指針は、事業主が講ずべき措置を10項目示しており、大きく「方針・ルールの明確化」「相談体制の整備」「発生後の対応」「悪質事案への対処」「相談者の保護」という5つの領域に整理されます。
具体的に確認できている内容としては、事業主の方針(カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する旨)を明確化し周知・啓発すること、カスタマーハラスメントについて相談できる窓口をあらかじめ定め従業員に周知すること、相談があった場合に適切に対応するための体制を整備すること、相談対応・事実確認の方法を定め被害を受けた労働者に配慮した対応を行うこと、特に悪質と考えられる事案への対処方針をあらかじめ定め管理監督者を含む労働者に周知しその対処を実行できる体制を整備すること、相談者・事実確認協力者のプライバシーを保護することが挙げられます。加えて、労働者が相談したこと、または事実確認に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことが法律上明記されています。
ここで見落とせないのが、「正当なクレーム」と「カスハラ」の線引きの難しさです。法律上のカスタマーハラスメントは、①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと、②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること、③労働者の就業環境が害されること、という3要素をすべて満たすものと定義されており、顧客等からの指摘やクレームそのものが直ちにカスハラとされるわけではありません。東京都の実態調査でも、対策に取り組まない理由として「正当なクレームとの判断の難しさ」を挙げる企業が29.6%にのぼりました。
発生場面は対面(接客時など)だけでなく電話・メールでも多く、東京都の従業員調査では被害発生場面の「電話・メール」が69.5%、「対面(接客時など)」が47.9%(複数回答)という結果が出ています。観光客対応や通信販売・問い合わせ対応を行う桑都手帖読者層の店舗にも、直接関係する実態です。
罰則はないが、リスクは別にある
カスハラ対策の義務に違反した場合、直ちに刑事罰・罰金が科される規定はありません。罰則として設けられている20万円以下の過料は、厚生労働大臣から報告を求められたのに報告をしなかった場合、または虚偽の報告をした場合のものであり、カスハラ対策義務違反そのものに対する直接の罰則ではないのです。実務上のリスクは、行政指導・勧告・企業名公表、および従業員への安全配慮義務違反を理由とする民事上の損害賠償リスクであるとされています。
対策が追いついていない事業者が多数派であることも、東京都の調査から分かっています。東京都産業労働局は、条例施行から約6か月後の令和7年(2025年)10月、都内企業・従業員を対象にカスタマーハラスメントに関する実態調査を実施しました(企業4,727件・従業員3,817件の有効回答、令和8年3月公表)。
この調査では、カスハラ防止対策に「取り組んでいない」企業が約61.5%にのぼり、条例施行後も対策が追いついていない企業が多数派であることが明らかになっています。被害内容は「継続的な、執拗な言動」が61.6%と最多で、過去1年間に被害に「あった」と回答した従業員は11.9%でした。従業員調査の回答者属性は「サービス業(他に分類されないもの)」が21.9%、「卸売業、小売業」が10.9%を占め、接客を伴う業種からの回答の多さがうかがえます。罰則が直接科されないからといって後回しにできる話ではなく、未対応のままでいることそのものが、従業員とのトラブルや訴訟リスクを抱え続けることを意味します。
八王子市内で使える相談窓口
八王子市は、東京都条例の施行(2025年4月1日)に合わせて、市独自に「八王子市職員に対するカスタマー・ハラスメント防止に関する基本方針」と「八王子市カスタマー・ハラスメント対応マニュアル」を策定しました。これは市役所の職員(市民対応窓口)を対象としたもので、暴行・脅迫等への組織的な毅然対応等を定めています。
市内の民間事業者向けには、八王子市公式ページで東京都の相談窓口(「TOKYOはたらくネット」)やセミナー・助成金等の案内が行われています。問い合わせ先は、市内事業者向けの東京都施策の案内については経済産業部産業振興課(042-620-7252)です。八王子市独自の事業者向け相談窓口・補助金制度は、現時点で確認できた公式ページの範囲では見当たりませんでした。八王子商工会議所のセミナー一覧(本稿作成時点)にも、カスハラ対策に特化したセミナーの掲載は見当たりませんでしたが、東京都中小企業振興公社は中小企業向けカスタマーハラスメント対策セミナー(社内体制構築編・現場対応編・法的対応編等)を複数回開催しており、八王子市内の事業者も参加対象とみられます。未対応の工房・店舗は、まず「①方針を決めて周知する、②相談窓口を決める、③悪質事案への対処方針を決める」という最低限の骨組みを整えることから始め、産業振興課や東京都の窓口に相談してみるとよいでしょう。
まとめ
カスタマーハラスメント対策は、令和8年(2026年)10月1日から従業員を1人でも雇う事業主全員の義務になりました。東京都条例が1年半先行していたこともあり、都内の事業者にとっては二段階で規制が強化された形です。罰則は義務違反そのものには科されませんが、東京都の調査では対策未着手の企業が約6割にのぼっており、桑都の工房・店舗にも「法改正自体を知らなかった」という状態のまま取り残されている可能性があります。方針の明確化・相談窓口の設置・悪質事案への対処方針という最低限の骨組みを整え、分からないことは八王子市産業振興課(042-620-7252)や東京都の窓口に相談しておくことが、最初の一歩になります。
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参考文献
厚生労働省「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(宅配業編)等を作成しました」 / 労働政策研究・研修機構「カスタマーハラスメント対策を事業主の雇用管理上の措置義務に(ビジネス・レーバー・トレンド2025年3月号)」 / 日本経済新聞「東京都、全国初のカスハラ防止条例成立 25年4月施行」 / 東京都「カスタマーハラスメントに関する実態調査の結果(令和8年3月・東京都産業労働局)」 / 東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」 / 八王子市「カスタマー・ハラスメント防止に関する取組」「東京都カスタマーハラスメント防止条例について」
暮らしの手続きで迷ったら
相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。
具体的なご相談は、まず八王子市の無料専門相談(法律・相続・不動産・税務など/予約制・無料)が入口になります。
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この記事は連載「暮らしと法律の手帖」第23話です
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