本文へスキップ
あと9分 購読

暮らしと法律 · 公開: 2026.09.10 · 更新: 2026.09.14 · 9分で読めます

「年収の壁」引き上げと社会保険適用拡大 —— 2026年、桑都の個人事業主・パート労働者は何が変わるか

2025〜2026年の税制改正で「103万円の壁」は123万円・160万円・178万円へ、社会保険では「106万円の壁」撤廃と「130万円の壁」の新判定方法が動いた。桑都の個人事業主・パート従業員を雇う店主・扶養する家族が確認すべき点を整理する。

天秤ばかりをモチーフにした和モダンな静物イラスト

「年収の壁」と一括りに呼ばれますが、実際には税の壁と社会保険の壁という性質の異なる制度が、2025年から2026年にかけて同時に動いています。所得税の非課税ラインは103万円から123万円に引き上げられ、社会保険では加入義務の目安だった「106万円の壁」の賃金要件そのものが撤廃されることが決まりました。桑都の工房経営者、パートを雇用する店主、扶養内で働く配偶者や学生の子を持つ世帯にとって、どちらの壁がどう変わったのかを切り分けて理解しておくことが、この先の働き方や雇い方を考えるうえで欠かせません。この記事では、税の壁と社会保険の壁を分けて整理し、桑都の読者が今何を確認すべきかまで見ていきます。

連載「暮らしと法律の手帖」第18回|この連載をまとめて読む


結論 —— 「年収の壁」は一つではなく、税と社会保険の別の壁が同時に動いている

「年収の壁」という言葉が指すものは、実は一つではありません。所得税・住民税の課税最低限や配偶者控除の対象範囲を決める「税の壁」と、パート・アルバイトが自身の勤務先で厚生年金・健康保険に加入する義務が生じる基準を決める「社会保険の壁」は、所管も制度設計もまったく別物です。税の壁は財務省・国税庁が所管し、社会保険の壁は厚生労働省・日本年金機構が所管しています。

まず税の壁について、令和7年度税制改正で所得税の基礎控除が48万円から58万円に、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円にそれぞれ引き上げられ、合わせて123万円が新しい非課税ラインになりました。この改正は令和7年分の所得税から適用されており、既に施行済みの確定事項です。一方、社会保険の壁については、2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、社会保険加入の目安とされてきた「月額8.8万円(年収換算106万円)」という賃金要件が撤廃されることが決まりました。ただし施行日は公布日から3年以内に政令で定めるとされており、いつから実際に適用されるかは今後の政令公布を待つ必要があります。この2つの壁は動いたタイミングも中身もまったく異なるため、混同せずに読み進めることが大切です。


税の壁① 基礎控除・給与所得控除の引き上げ —— 103万円は123万円になった

令和7年度税制改正の大綱に明記された内容を具体的に見ていきます。基礎控除は、合計所得金額2,350万円以下の個人について48万円から58万円へ10万円引き上げられました。あわせて給与所得控除の最低保障額も55万円から65万円へ引き上げられており、この2つを足し合わせた123万円が、いわゆる「103万円の壁」が引き上げられた後の新しい水準にあたります。給与所得控除の実務上の適用は令和8年1月1日以後に支払うべき給与からとなりますが、基礎控除自体は令和7年分の所得税から適用される仕組みです。

さらに、合計所得132万円以下(おおむね給与収入200万円以下)の人には、令和7年分限りの時限的な措置として基礎控除に37万円を上乗せする特例が設けられており、これを合わせると基礎控除95万円+給与所得控除65万円で160万円になります。世間で「160万円の壁」と呼ばれる数字はこの上乗せ特例を含んだものであり、恒久化された123万円ラインとは性質が異なる点に注意が必要です。この引き上げに連動して、配偶者控除の対象となる配偶者の合計所得要件も48万円以下から58万円以下に変更されており、給与収入ベースでは123万円以下であれば配偶者控除(満額)の対象になります。配偶者の年収が123万円を超えても160万円までは、配偶者特別控除により配偶者控除と同額(最大38万円)の控除を受けられる仕組みが維持されています。


税の壁② 学生アルバイトの「特定親族特別控除」新設と、2026年度大綱の178万円方針

令和7年度税制改正では、19歳以上23歳未満の親族を扶養する納税者を対象とした「特定親族特別控除」という制度も新設されました。対象親族の合計所得金額が123万円以下であれば、所得58万円超から123万円以下の範囲で段階的に控除額(最大63万円)が設定される仕組みで、これにより「103万円を1円でも超えると扶養控除が全額なくなる」という崖のような制度設計から、なだらかに逓減する制度へと変わっています。施行時期は令和7年分以後の所得税からです。八王子市は23大学を擁する学園都市であり、桑都手帖の連載でも学園都市としての側面を取り上げてきましたが、大学生の子を扶養する世帯にとってこの制度の実務的な影響は小さくありません。

税の壁については、さらに先の動きも既に公表されています。2025年12月19日、与党は「令和8年度税制改正大綱」を公表し、令和8年(2026年)分・令和9年(2027年)分の所得税について、課税最低限を段階的に178万円まで引き上げる方針を示しました。中所得者層についても基礎控除を低所得者並みに引き上げる方向性が示されており、追加減税規模は年間6,500億円程度と試算されています。ただし、この178万円という数字は2026年9月時点ではまだ大綱の段階にとどまっており、実際の税制改正法案が国会で審議・成立して初めて確定します。記事を読んでいる時点での最新の法案審議状況は、あらためて確認することをおすすめします。


社会保険の壁① 「106万円の壁」撤廃 —— 何が変わり、何が変わらないか

税の壁とは別に、社会保険の加入義務に関わる「106万円の壁」も2025年に大きく制度が動きました。従来の社会保険適用拡大の要件(2024年10月時点)は、①従業員数51人以上の企業、②週の所定労働時間20時間以上、③所定内賃金月額8.8万円(年収換算106万円)以上、④2か月を超える雇用見込み、⑤学生でないこと、という5要件をすべて満たすパート・アルバイトが加入対象でした。2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、このうち③の賃金要件が撤廃されることになりました。週20時間以上の労働時間要件・学生除外要件は今後も存続します。

本文画像: 古い家屋の鍵と書類

もう一つの柱が、対象となる企業の規模要件です。企業規模要件は2016年10月の従業員501人以上でのスタートから、2022年10月に101人以上、2024年10月には51人以上へと段階的に拡大されてきました。今回の年金制度改正法では、この企業規模要件そのものも将来的に撤廃する方向性が示されています。賃金要件の撤廃がいつから実際に適用されるかについては、公布日(2025年6月20日)から3年以内に、全国的な最低賃金の動向を踏まえて政令で定めるとされており、本記事の執筆時点では厚生労働省の公式ページから具体的な施行日そのものを一次確認することはできませんでした。制度の方向性は決まっていても、実際に自分の職場で適用が始まるタイミングは、今後の政令公布を待って確認する必要がある段階です。


社会保険の壁② 「130万円の壁」— 事業主証明の恒久化と2026年4月からの新判定

106万円の壁とは別に、健康保険の被扶養者(配偶者の扶養に入る場合など)の年収要件である「130万円の壁」そのものは、今回の一連の改正で変更されていません。ただし、その運用面では実務上の変化がありました。2023年10月から始まった「一時的な収入変動」への対応——残業や繁忙期の勤務延長で一時的に年収が130万円を超えても、事業主が「一時的な収入増である」旨を証明すれば、連続2回(最長2年)まで被扶養者認定を維持できる特例——は、当初「当面の対応」とされていましたが、2025年10月1日付で恒久的な取り扱いに切り替わりました。

さらに2026年4月からは、実際の年収実績ではなく雇用契約の内容(週の労働時間・雇用期間等)に基づいて被扶養者認定を判定する「労働契約ベース」の新しい判定方法が導入されています。この新しい判定方法は、事業主証明による従来の特例と併存する形で運用される見込みです。実際の年収がいくらだったかという事後的な確認だけでなく、雇用契約そのものの内容が判定材料として重視される方向に変わりつつあるという点は、パート従業員を雇う立場・雇われる立場の双方にとって押さえておきたいポイントです。


桑都の工房・個人事業主・雇用側は何を確認すべきか

ここまで見てきた税の壁と社会保険の壁は、桑都の読者層にとってそれぞれ関わり方が異なります。個人事業主自身(フリーランス、工房の個人事業主)は厚生年金の第2号被保険者ではなく国民年金・国民健康保険の対象であるため、106万円の壁の直接の当事者ではありませんが、家族を扶養に入れている場合や配偶者がパートで働いている場合には、税の壁(123万円・160万円・178万円)の影響を強く受けます。一方、パート従業員を雇用する立場の事業主にとっては、106万円の壁の撤廃により「扶養内で働きたい」という従業員の希望と、実際の労働時間・人手確保のバランス調整が必要になる局面が増えていくと見られます。現行の企業規模要件(51人以上)の下では、桑都手帖がこれまで取材してきた多摩織の工房や横山町・八日町商店街の個人商店など、従業員数十人未満の小規模事業者の多くは直ちに新規の社会保険適用拡大の対象にはならない可能性が高いものの、企業規模要件そのものが将来撤廃される方向にあることは念頭に置いておく必要があります。

制度の詳しい確認や個別の手続きに迷ったときは、役割の異なる3つの窓口を使い分けるのが近道です。事業所の健康保険・厚生年金保険の手続き相談は八王子年金事務所(八王子市南新町4-1、電話042-626-3511、受付は平日8時30分から17時15分)が窓口です。個人の年金請求・受給に関する相談は街角の年金相談センター八王子(八王子市横山町22-1)が担当しますが、事業所の社会保険手続きはこちらの対象外となるため、その場合は年金事務所へ相談する形になります。中小企業の経営全般・労働相談については、八王子市企業支援課(電話042-620-7252)を通じて八王子商工会議所(電話042-623-6311、事前予約制、対面形式、平日9時から17時、相談無料)に予約する流れです。制度の変わり目にある今こそ、こうした窓口を早めに頼っておくことが、後々の対応の負担を軽くすることにつながります。


まとめ

「年収の壁」は税の壁と社会保険の壁という別々の制度から成り立っており、2025〜2026年にかけて両方が同時に動いています。税では103万円が123万円・160万円・178万円へと段階的に引き上げられ、社会保険では106万円の壁の賃金要件撤廃と130万円の壁の判定方法の見直しが進んでいます。自分がどちらの壁の当事者なのかを見極め、迷ったときは八王子年金事務所や商工会議所といった窓口を早めに頼るとよいでしょう。


この連載の他の記事

連載「暮らしと法律の手帖」は、八王子で暮らすうえで知っておきたい制度や手続きを、身近な場面から一つずつ取り上げるシリーズです。


参考文献

暮らしの手続きで迷ったら

相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。

具体的なご相談は、まず八王子市の無料専門相談(法律・相続・不動産・税務など/予約制・無料)が入口になります。

こうした暮らしの手続きの記事は、連載「暮らしと法律の手帖」で続けています。

次の一本が出たら、お知らせします

記事の更新だけをお送りします。お問い合わせとは別の窓口です。

受け取る頻度

確認メールのリンクを開くと購読が完了します。解除はいつでもできます。

執筆・取材のご依頼、記事へのご指摘は お問い合わせ からどうぞ。

この記事は連載「暮らしと法律の手帖」第18話です (全24話・更新中)

小谷田子寅 —— 千人同心が慕われた蘭学・医術と、心源院に遺る碑

桑都の人 · 7分

読む

Support

この記事が面白かったら、書き手の活動を応援していただけると励みになります。

※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます

カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。