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地域の未来 · 公開: 2026.10.13 · 8分で読めます

八王子市消防団、定員1,590人の7割しか埋まっていない —— 都内唯一の音楽隊とOBが支える機能別分団

屋根が連なる町の街並みを俯瞰した和モダンなイラスト

土曜の朝、消防車のサイレンとは別に、どこかで金管楽器の音が響くことがあります。八王子市消防団には、都内の消防団で唯一の音楽隊があります。そして同じ団の定員は1,590人、実際に活動している団員は1,133人——7割強しか埋まっていません。この記事では、なぜ定員と実員のあいだにこれほどの差が生まれたのか、そしてその穴を現場がどう埋めてきたのかを追います。

連載「八王子という街」第22回|この連載をまとめて読む

都内屈指の規模を誇る組織が、定員の7割しか埋まっていない

八王子市消防団は、消防組織法に基づき市町村に設置される「非常備」の組織です。団員は本業を別に持つ住民で、非常勤特別職の地方公務員として活動します。八王子市における消火・救急の常設専門組織である東京消防庁八王子消防署(常備消防)とは別組織であり、両者は並立しています。常備消防の側は昭和18年(1943年)に八王子消防署として開署し、昭和35年(1960年)に消防事務を東京都に委託して現在の東京消防庁の管轄下に移ってきた、消防団とは別の歴史を歩んできた組織です。

八王子市消防団に関する条例第4条第1項は、団員の定員を1,590名と定めています。階級体系は団長・副団長・分団長・副分団長・部長・班長・団員(機能別分団に属する者とその他の者に区分)で構成されています。本団・12個分団(89個部)・音楽隊・女性隊・機能別分団という構成を持ち、水槽付消防ポンプ自動車24台、消防ポンプ自動車10台、小型動力ポンプ付積載車54台、多機能型消防車1台、指揮車1台、防災活動車1台、資機材搬送車1台、人員輸送車2台、消防ポンプ付軽自動車1台、警戒用バイク12台など、相応の装備を抱えています(令和7年10月1日更新時点、八王子市公式ホームページ記載)。現在の第11代消防団長は橋本孝氏です(八王子市消防団公式サイト記載時点)。

ところが令和8年(2026年)4月1日時点の団員数は1,133名(八王子市消防団公式サイト記載)にとどまります。定員1,590名に対する充足率はおよそ71%です。高尾山のような自然地形から市街地・住宅地まで、活動範囲の広さが知られる組織でありながら、担い手の数は定員に追いついていません。

平成27年から10年で236人が去った

団員数の推移を時系列で見ると、減少はここ数年に始まった現象ではありません。平成27年(2015年)6月時点で1,407名だった団員数は、令和4年(2022年)10月1日時点で1,201名(うち女性18名)、令和7年(2025年)6月末時点では1,171名(条例定数1,590名に対し充足率73.6%)まで下がりました。平成27年から令和7年にかけて、実に約236名が減った計算になります。

この減少傾向について、八王子市議会総務企画委員会の所管事務調査資料(令和7年8月20日付)は、課題として「少子高齢化および地域社会への帰属意識の希薄化など社会環境の変化等に伴う団員の減少」を挙げています。働き方や地域とのかかわり方が変わるなかで、本業を持ちながら地域の消防活動を担う人材を確保することが、年々難しくなっている構図が見えてきます。

なお、令和7年10月1日時点では1,178名、令和8年4月1日時点では1,133名と、直近のわずか半年でも団員数は減少が続いています。定員そのものにも過去に改定があったとされ、平成14年10月に1,701名から1,590名へ改められたという情報もありますが、この定数変更を定めた条文を一次資料で直接特定することはできませんでした。消防団という制度そのものは、明治27年(1894年)の消防組規則に始まり、戦時下の警防団への改編、そして戦後の消防組織法(昭和23年3月施行)による自治体消防への再編という全国共通の経緯をたどってきました。八王子市消防団そのものの発足年月日を固有の一次資料で直接確認することはできませんでしたが、現行の条例・規則に基づく制度は、この自治体消防体制の枠組みのなかにあります。

減る担い手を、OBの知恵でつなぐ

団員数そのものを増やすことが簡単でないなかで、八王子市消防団が設けている仕組みのひとつが「機能別分団」です。通常の分団・部が地域単位の消火・警戒活動を担うのに対し、機能別分団は平成22年度(2010年度)から設置された制度で、消防団OB——かつて団員として活動した経験者——によって組織されています。

機能別分団に属するOBたちは、自主防災組織との連携など、市内の防災行動力を高めるコーディネーターとして機能しているとされ、その数は委員会資料の時点で29名にのぼります。現役で分団・部に所属する時間を持ちづらくなった人でも、経験を生かして「つなぎ役」として関わり続けられる仕組みです。団員数そのものの減少を食い止める策ではありませんが、現場の知見を失わずに済む工夫として位置づけられます。地域単位の消火・警戒活動を直接担う現役の分団員と、OBによる機能別分団とを組み合わせることで、定員に満たない人数でも防災のネットワークを薄く切らさずに保とうとしている姿がうかがえます。

長年現場に立った経験は、火を消す技術だけでなく、どの地域にどんな危険が潜むか、どの住民にどんな支援が必要かという土地の記憶でもあります。機能別分団という仕組みは、そうした記憶を退団とともに失わせず、自主防災組織という別の担い手に橋渡しする役割を担っているとも言えます。定員1,590名という数字を現役団員だけで満たすことが難しい時代だからこそ、OBという層をどう位置づけるかが、組織の持続力を左右しているのです。

都内の消防団で唯一、音を鳴らす

八王子市消防団には、もうひとつ他にはない特徴があります。昭和59年(1984年)に設立された音楽隊です。東京都内の消防団の中で、音楽隊を持つのは八王子市消防団のみとされています。

加入対象は「八王子市内に居住または勤務する18歳以上の音楽愛好者」で、経験は問いません。本来は毎週土曜日・日曜日に八王子市民会館で練習する活動形態ですが、約10年間の活動休止期間を経て、現在は活動を再開しているといいます(公式FAQページ記載)。市のイベントや式典で演奏を担うこの音楽隊は、消火・警戒という本来の活動とは別の入口から、市民が消防団に関わる機会をつくっています。経験不問で間口を広く開いているという点は、定員の7割強という数字が示す担い手不足の現実に対して、音楽という別の形で人を呼び込もうとする工夫のひとつと見ることができます。

消防団という組織は、火災現場や災害現場での消火・警戒活動がまず思い浮かびますが、音楽隊の存在は、それ以外の形で地域と接点を持つ回路があることを示しています。式典や市のイベントで演奏に触れた市民が、消防団という組織そのものを身近に感じるきっかけになっているとすれば、団員数の底上げに直接はつながらなくても、組織の存在を地域に知らせ続ける役割を担っていると言えるでしょう。

女性たちの防災参加——「女性隊」と「八王子女性防火協会」という2つの顔

消防団の組織構成を見ると、本団・分団・音楽隊と並んで「女性隊」が位置づけられています。団員数には女性団員も含まれ、令和4年(2022年)10月1日時点で18名が女性隊に所属していました。

これとは別に、地域の女性団体として「八王子女性防火協会」が存在します。昭和44年(1969年)11月20日に発足し、令和元年(2019年)に発会50周年を迎えました。市内を12支部に分け、会長1名・副会長2名・支部長12名・副支部長44名・会員370名、総勢429名(令和6年7月1日現在)という規模で構成され、年2回の「女性防火防災実務者講習」や、各町内会・自治会と連携した防火防災訓練、総合水防訓練・総合震災訓練への参加を主な活動としています。

消防団内の「女性隊」と、消防団とは別組織である「八王子女性防火協会」が実際にどう連携しているのか——兼務の有無や活動の重なりについては、確認できた一次資料の範囲では明記されていません。ただ、名称も体制も異なる2つの組織が、ともに地域の防災を女性の側から支えているという事実は、都内屈指の規模を持つ八王子市消防団の足元を考えるうえで欠かせない一面です。

八王子女性防火協会の会員370名・総勢429名という規模は、消防団本体の実員1,133名と比べても小さくない数字です。町内会・自治会という地域の単位と連携した訓練を重ねてきた歴史の長さ(発足から半世紀以上)を考えると、消防団の担い手不足という課題を、消防団という一つの組織だけで解決しようとするのではなく、地域の複数の団体が重なり合って防災の底力を支えているという実態が見えてきます。

まとめ

条例定員1,590名に対し、実員は1,133名。この数字だけを見れば、八王子市消防団は厳しい担い手不足の只中にあります。しかし平成27年からの10年あまりで236名が減ったという事実の裏には、昭和59年発足の音楽隊という都内唯一の存在、平成22年度から続く機能別分団というOB活用の工夫、そして女性隊と八王子女性防火協会という2つの顔で広がる女性の防災参加があります。定員を満たすことだけが答えではなく、減っていく担い手をどう支え、どう関わり続けてもらうかという工夫の積み重ねが、この組織を都内屈指の規模のまま保たせてきたと言えそうです。

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連載「八王子という街」は、学生から50代まで、暮らしの視点から八王子という街の様々な顔を辿るシリーズです。

参考文献

八王子市法規集(g-reiki)「八王子市消防団に関する条例」「八王子市消防団の組織等に関する規則」 / 東京都防災ホームページ「八王子市消防団」 / 八王子市公式ホームページ「消防の組織」 / 八王子市消防団公式サイト「組織・団員紹介」 / 八王子市議会 総務企画委員会「所管事務調査資料『自主防災・消防団』」(令和7年8月20日) / 八王子市消防団音楽隊公式サイト「FAQ」 / 東京消防庁八王子消防署「八王子女性防火協会」

この記事は連載「八王子という街」第25話です (全26話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。