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地域の未来 · 公開: 2026.09.09 · 更新: 2026.09.14 · 7分で読めます

八王子の子ども食堂 —— 学生10人の月1回から、約70団体のネットワークへ

2015年、創価大学生10人が月1回・50食で始めた「はちおうじ子ども食堂」。それから約10年、八王子市の地域子ども支援事業には約70団体が登録しています。規模を支えてきた仕組みを辿ります。

黄葉したイチョウ並木がつづく秋の道路

月1回、10組ほどの親子のために50人分の食事を用意する。2015年、そんな小さな取り組みとして始まった八王子市内の「子ども食堂」は、今では市に登録された団体だけで約70にのぼります。誰が、どうやってこの規模まで支えてきたのでしょうか。始まりの学生たちのエピソードから、ネットワーク化の転機、そして今も残る運営の危うさまでを辿ります。


連載「八王子という街」第18回|この連載をまとめて読む

月1回・10組の親子から始まった

八王子市内で最初期の子ども食堂として記録に残るのは、創価大学の学生有志が立ち上げた「はちおうじ子ども食堂」です。きっかけは、豊島区で2012年から活動していたNPO法人による「要町あさやけ子ども食堂」の立ち上げに携わった知人の経験を、ある学生が聞いたことでした。「自分たちの住んでいる八王子で何かできないか」——その思いから、2015年1月に食堂が発足し、同年2月から「『はらぺこ』と『ひとりぼっち』のない街へ」をモットーに本格運営が始まりました。

中心を担ったのは経済学部3年の山口光司氏、経営学部3年の大極正美氏。「社会問題の解決をめざす」サークルと「居場所研究」を学ぶゼミの学生、あわせて約10人が運営に加わりました。開催は基本的に月1回、市内の施設で行われ、毎回10組程度の親子が参加し、1回あたり50人分程度の食事を用意する——これが、後に約70団体にまで広がる八王子の子ども食堂ネットワークの、最初の一歩でした。この発足の経緯は、創価大学広報が発信する学生活動紹介記事と、地域紙タウンニュース(八王子・日野・多摩版)の2016年1月14日付記事の双方で確認できます。


全国的な「子ども食堂」という営みの出自

八王子の話に入る前に、「子ども食堂」という営み自体がいつ生まれたのかを押さえておきます。この名称・形態は2012年8月、東京都大田区の八百屋「気まぐれ八百屋だんだん」を営んでいた近藤博子氏が始めた「だんだんこども食堂」に由来するとされています。この起点は、子ども食堂の全国支援を担う認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」自身が2022年に「2012年に暖簾がかかった『こども食堂』は、今年、10周年を迎えます」と発信し、10周年特設ページを設けて確認できます。

むすびえは理事長・湯浅誠氏を中心に2018年に設立された全国組織で、子ども食堂の実態調査を継続的に行っています。2023年度調査では、全国の子ども食堂の箇所数は9,132箇所に達したと公表されました。当初は「生活困窮世帯の子どもへの食事提供」という文脈で語られることが多かった子ども食堂ですが、現在は多世代交流拠点としての性格を強めている団体が多く、この傾向は八王子市内の食堂群にも共通しています。


孤立から連帯へ —— 八王子食堂ネットワークの結成

単独の食堂が増えるにつれ、運営者同士が横につながる動きが生まれます。地域の広報誌2017年11月15号で初めて「八王子食堂ネットワーク」の取り組みが紹介され、市内のこども食堂・地域食堂の情報を一元化することを目的に立ち上げられたとされています。2017年12月時点で、ネットワークが作成したマップ上で確認できる食堂は9か所。「こすもす・だれでも食堂」「はちおうじ子ども食堂」「石川子ども食堂」などの名が記事中に列記されていました。

活動は月の半分程度のペースで、市内各地の食堂や「居場所・無料塾」カテゴリーの取り組みとして展開されました。経済的事情で塾に通えない子どもや放課後の居場所がない子どもへの学習支援も対象に含まれ、子どもだけでなく高齢者も利用するケースがあるなど、単なる「子ども向け」の枠を超えた多世代交流拠点としての性格を早い段階から帯びていたことが分かります。現在、八王子食堂ネットワークの運営母体は一般社団法人「フードバンク八王子」で、八王子市からの委託を受けて非営利・ボランティアベースで活動を続けています。


個人の善意に支えられる脆さという影

規模が広がる一方で、この営みが誰か一人の善意にどれだけ依存しているかを示す出来事もありました。2020年2月11日、市内で「子ども食堂見本市 〜見て、聞いて、楽しんで、知る子ども食堂〜」というイベントが開かれ、こども食堂運営者、フードバンク関係者、自治体関係者など約115名が参加しました。市内の各こども食堂がブース出展して活動を共有し、むすびえ理事長・湯浅誠氏による講演会も行われています。

同じ記事は、2019年9月から4箇所の食堂が新規に立ち上がったことも紹介しており、ママ同士の助け合いを目的にした「さくらこども食堂」や、児童委員経験者が運営し3年目を迎えていた「ほっこり食堂」、多世代交流が特徴の「誰でも食堂」などが新たに加わった様子が伝えられました。その一方で、市内で2箇所の食堂を運営していた男性が逝去し、その食堂が休止に至った事例も紹介されています。個人の善意に依存した運営形態の持続可能性という課題は、コロナ禍が本格化する直前の時点で、すでに現場に影を落としていました。


行政が追いついた —— はちおうじミライ応援団と70団体への拡大

こうした現場の広がりと危うさを受けて、八王子市は子ども食堂・無料学習塾・居場所づくりといった市民活動が継続しやすいよう、団体を登録制でネットワーク化する「地域子ども支援事業」を子育て支援施策として位置づけています。事務局は、八王子市が社会福祉法人・八王子市社会福祉協議会 市民力支援課(ボランティアセンター)に運営を委託する形で、愛称「はちおうじミライ応援団」として機能しています。公式サイトでは「子ども食堂」「無料塾・無料学習」「居場所の提供」「フードバンク」の4カテゴリーが紹介されています。

そして冒頭で触れた数字がここで出てきます。八王子市子育て応援サイトの公式ページによれば、令和6年(2024年)12月現在で約70団体が地域子ども支援事業に登録しています。2017年時点の9か所(八王子食堂ネットワークの把握分)から、市の登録ベースで約8年で7倍規模に拡大した計算です。登録団体には、はちおうじ子ども食堂、もとはち東ふれあい食堂、ほいっぷ食堂、光明八木町食堂、多世代交流お茶の間「民」、すずらん食堂など、多彩な名前が並びます。

市公式ページで確認できる登録団体名にはこのほか、しろくまごはん、すまいるカフェ、ふくろうはうす、子ども食堂「にこにこ」、さくら子ども食堂、なかよし子ども食堂などもあり、フードバンク3団体(八王子えがお・TAMA・八王子)もこの登録リストに含まれています。単独の学生団体から始まった動きが、いつの間にか市内各所に根を張っていたことが、この団体名の広がりからも見て取れます。新規に団体を立ち上げたい市民は、事務局である八王子市社会福祉協議会に相談する仕組みも整えられています。


資金という裏方 —— 補助金とフードバンク八王子えがお

学生や地域住民の善意だけに頼らない仕組みとして、資金面の支えも整備されています。八王子市は「子ども食堂推進事業補助金」を設けており、市公式ページに掲載された令和7年度(2025年度)分の要綱によれば、対象期間は令和7年4月1日から令和8年3月31日まで、申請期限は令和7年10月20日(月)です。補助上限額は、子ども食堂開催分が1団体につき月額40,000円×12か月=480,000円、配食・宅食分が年間720,000円、新規立上げ・拡充分が年間500,000円となっています。市はこのほか「子どもの未来応援基金」(福祉医療機構)など外部制度も併せて案内しています。

食材の安定確保という観点では、特定非営利活動法人「フードバンク八王子えがお」の存在も欠かせません。「食で支えよう ひと 地域 未来」を基本方針に掲げ、企業・市民からの寄付食品の収集、生活困窮世帯への食料支援、市役所窓口(生活自立支援課)と連携したフードパントリー運営、夏休み・冬休みなど長期休暇にあわせた「子ども応援プロジェクト」を実施しています。前述の「フードバンク八王子」(八王子食堂ネットワークの運営母体)とは名称が近く紛らわしいものの、別の法人です。市内の主要スーパー・生協・企業との連携ネットワークの中核として、市の生活自立支援課と協働しながら、現場を後方から支え続けています。


まとめ

創価大学の学生10人が月1回・50食で始めた「はちおうじ子ども食堂」は、2017年の八王子食堂ネットワーク結成、2020年の見本市で顕在化した運営の脆さ、そして「はちおうじミライ応援団」による行政の後押しを経て、約70団体が登録する規模へと育ちました。個人の善意から始まった営みが、制度と補助金によって支えられる仕組みへと変わっていく過程は、ほかの地域活動にも通じる歩みかもしれません。子どもの居場所を支える現場は、今もこうした積み重ねの上で動いています。


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連載「八王子という街」は、学生から50代まで、暮らしの視点から八王子という街の様々な顔を辿るシリーズです。

参考文献

創価大学公式サイト「はちおうじ子ども食堂」 / タウンニュース「学生主体の『子ども食堂』活動1年 居場所づくりに」 / むすびえ「子ども食堂10周年」 / むすびえ「【東京都八王子市】『子ども食堂見本市』に参加しました」 / 地域情報サイト「八王子食堂ネットワークとは?」 / 八王子食堂ネットワーク公式Facebook / 八王子市子育て応援サイト「『子ども食堂』など、子どもを支える市民活動をつなぎます」 / はちおうじミライ応援団公式サイト / 八王子市公式ホームページ「地域子ども支援事業 登録団体用 お知らせ・各種様式等」 / 特定非営利活動法人フードバンク八王子えがお公式サイト

この記事は連載「八王子という街」第18話です (全26話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。