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暮らしと法律 · 公開: 2026.10.28 · 8分で読めます

建設業の時間外労働規制、2024年4月から一人親方も対象 —— 桑都の工務店が確認すべきこと

2024年4月1日、建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されました。対象は会社だけでなく個人事業主の「一人親方」も含まれます。上限時間・例外規定・罰則、そして国・東京都の支援策を整理します。

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2024年4月1日、建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されました。対象は元請・下請の会社だけでなく、個人事業主として工事を請け負う「一人親方」も含まれます。守るべき上限時間はいくつで、違反すればどうなるのか、収入減少という現場の痛みに国・東京都はどんな支援策を用意しているのか——桑都の工務店・大工・内装業者が今すぐ確認すべきことを、順番に整理します。


2024年4月から、一人親方もすでに対象です

働き方改革関連法(2018年=平成30年成立)による時間外労働の上限規制は、多くの業種では2019年4月(中小企業は2020年4月)から始まっています。しかし建設業は、長時間労働が常態化している業界の実態を踏まえ、労働環境の改善に時間がかかるとして5年間の適用が猶予されていました。

同じ理由で猶予が設けられていたのは建設業だけではありません。自動車運転業務や医師なども同様に5年間の適用が猶予されており、長時間労働が常態化してきた業界に共通する課題として扱われてきました。この猶予期間が終了し、2024年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されることになりました。建設業界で「2024年問題」と呼ばれる課題の中心がこれです。

ここで見落とされがちなのが、対象の範囲です。厚生労働省は適用対象について「事業者(一人親方含む)向け」と明記した専用ページを設け、雇用形態を問わず一人親方——従業員を雇わず、自分自身の労働によって工事を請け負う個人事業主——も対象になることを周知しています。会社に雇われている職人だけの話ではなく、自分一人で工事を請け負っている大工や内装職人も、この規制の対象になるということです。

「もう2024年の話だから今さら確認しなくても」と思われるかもしれませんが、適用開始から2年半が経った今も、現場の働き方や発注の慣行が規制に追いついていないケースは少なくありません。まずは「自分も対象である」という前提を、改めて確認しておく必要があります。


上限時間の具体的な数字と、認められる例外

対象であることが分かったら、次に確認すべきは具体的な上限時間です。原則の上限は、36協定(労働基準法36条に基づき労使間で結ぶ協定で、法定の労働時間を超えて働かせる場合に必要)で定める時間外労働が、月45時間・年360時間までとされています。

臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項付き36協定を結ぶことで上限を超えることができますが、その場合でも次のすべてを守らなければなりません。時間外労働と休日労働の合計が1か月100時間未満であること、2か月から6か月のどの期間で見ても平均80時間以内であること、時間外労働が年720時間までであること、そして月45時間を超えられるのは年6か月までであることです。

特別条項が認められる事情は「突発的な仕様変更」「納期の切迫」「大規模な施工トラブルへの対応」といった臨時的なものに限られます。「業務の都合上必要なとき」のような、恒常的な長時間労働につながる定め方は認められません。

この規制は罰則付きです。上限を超えた場合は労働基準法違反として、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となり得ます。知らなかったでは済まされない制度である、という点を押さえておく必要があります。


災害復旧など、ごく限られた例外規定

上限規制には、ごく限られた例外も設けられています。労働基準法第139条第1項により、災害の復旧・復興の事業については「月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」という規定が適用されません。ただし、この例外が適用されても「年720時間」「月45時間超は年6回まで」という上限は守る必要があり、通常の36協定届出書式とは別に、専用の様式(様式第9号の3の2または3の3)による届出が必須となります。

もう一つの例外は、労働基準法第33条第1項に基づくものです。瓦礫撤去・除雪作業・防疫措置など、緊急的な対応が必要な場合は、労働基準監督署長の許可を得て36協定の限度を超えて時間外労働させることができます。

ここで注意したいのは、これらの例外があくまで災害・緊急時に限定されているという点です。「工期が迫っているから」「人手が足りないから」といった、恒常的な工事の遅延対策としてこの例外を使うことはできません。平時の工期管理は、あくまで原則の上限の範囲でやりくりする必要があり、工期の変更が生じた場合も、まずはその範囲内で収まるよう計画を調整することが基本になります。


収入減と離職という、もう一つの現場の課題

制度の中身を理解したうえで、現場で実際に起きている課題にも目を向ける必要があります。建設業の職人には日給制が多く、時間外労働の削減や週休2日制の推進によって稼働日数・稼働時間が減ると、その分手取り収入が減少するという構造的な問題が指摘されています。

収入減を理由に職人が離職する動きも生じており、人手不足をさらに加速させる悪循環が業界課題として報じられています。高齢化・労働人口減少によって長時間労働が常態化してきた業界の実態が、規制への適応を難しくしている背景にあります。

この問題は、職人側の努力だけで解決できるものではありません。国土交通省の中央建設業審議会は「工期に関する基準」を策定し、注文者(発注者)が時間外労働規制を遵守できる工期設定に協力すること、猛暑日など自然要因による不稼働日を考慮して工期を設定することなどを定めています。国土交通省は「建設業働き方改革加速化プログラム」を通じて、週休2日制の導入を後押しする取組と、発注者の特性を踏まえた適正な工期設定の推進を行っています。下請事業者・一人親方だけに規制遵守の負担を負わせず、発注者側にも適正な工期設定の責任がある、という枠組みです。


国・東京都の支援策 —— 使える助成金と相談窓口

収入減や人手不足への対応として、国と東京都はそれぞれ支援策を用意しています。厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金 業種別課題対応コース」(建設業向け)は、資本金3億円以下または常時使用労働者300人以下の中小企業を対象に、元請・下請を問わず利用できます。対象経費には、測量杭打ち機や重機用センサーユニット、土木工事積算システムなど、作業時間を削減する設備が含まれます。

助成率は原則3/4(75%)で、常時使用労働者数30人以下かつ労務管理用ソフトウェア等を導入し所要額が30万円を超える場合は4/5(80%)まで上がります。上限額は基本250万円ですが、建設業特有の優遇措置として「週休2日制推進加算」があり、4週あたりの休日数の増加に応じて1日増加ごとに25万円、最大100万円が加算されます。

東京都は「働き方改革パワーアップ応援事業」として、無料の相談窓口(電話0120-388-038、社会保険労務士等が対応)、法令知識が学べるセミナー、組織課題を可視化するエンゲージメントサーベイと専門家派遣(最大5回、各回1〜2時間)を提供しています。この事業は建設業に限定したものではなく、業種を問わず東京都内の中小企業が広く利用できる窓口として位置づけられている点も押さえておきたいところです。さらに「躍進的な事業推進設備投資支援事業」では、運送・物流、建設業等を対象に、時間外労働の上限規制による人材不足対策として競争力・生産性向上に必要な機械設備の新規導入を助成する枠組みも設けられています。

まずは収入や人員体制への影響を抱え込む前に、こうした窓口に相談してみる価値があります。


桑都の工房・職人にとって、これは他人事ではない

八王子は織物の町として栄えた歴史を持ち、現在も多摩織の機屋が数軒残っています。澤井織物工場のように若い世代を受け入れる工房もありますが、産地としての機能全体は縮小傾向にあるとされています。これに加えて、工務店・内装業・大工など、建設関連の個人事業主も地域に多く存在します。今回の規制は、まさにこうした地域の職人一人ひとりに関わる制度です。

ここで一つ、区別しておきたい点があります。多摩織の担い手が抱える高齢化・後継者不足という課題は織物業固有のものであって、建設業の時間外労働規制の直接対象ではありません。織物業の相談窓口は八王子織物工業組合ですが、建設業に関する相談は労働基準監督署や働き方改革推進支援センターといった別の窓口になります。自分がどちらの立場にあるのか、まず相談先を取り違えないことが実務上は大切です。

工務店を営む方、一人で工事を請け負う大工の方が、自分の働き方がこの規制の範囲内にあるかどうかを確認し、必要であれば国・東京都の支援策を頼る——その最初の一歩を、この記事がきっかけにできれば幸いです。


まとめ

建設業の時間外労働上限規制は、2024年4月の適用開始からすでに2年半以上が経っています。会社に雇われている職人だけでなく、一人親方として工事を請け負う個人事業主も対象であり、月45時間・年360時間という原則の上限と、特別条項を使っても超えられない年720時間などの上限を守る必要があります。災害復旧等の例外もごく限定的で、恒常的な工期の遅れを理由に使うことはできません。

収入減という現場の痛みに対しては、国・東京都の助成金や相談窓口という備えも用意されています。使うかどうかを決めるのはそれぞれの工房の判断ですが、備えがあることを知らないまま収入減だけを受け止めてしまうのは避けたいところです。制度を正しく知ることが、桑都の工房を守る最初の一歩になります。


参考文献

厚生労働省「事業者(一人親方含む)向け:建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています」 / MJS「2024年問題!建設業の時間外労働に対する罰則付き上限規制適用がスタート」 / 国土交通省「建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月から!建設業の働き方改革」「建設業における働き方改革」 / Seizo Trend「建設業『2024年問題』とは何かをわかりやすく解説、現場から『悲痛の声』が上がるワケ」 / 働き方改革推進支援助成金ポータル「働き方改革推進支援助成金 業種別課題対応コース」 / 東京都「働き方改革パワーアップ応援事業」 / 八王子市公式シティプロモーションサイト「澤井織物工場」

暮らしの手続きで迷ったら

相続や空き家、成年後見といった手続きは制度が入り組んでいて、「まずどこに相談すればいいのか」が分かりにくいものです。桑都手帖は、八王子で暮らす方に向けて制度の基本を記事にまとめています。

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。