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風土と工芸の歴史 · 公開: 2026.11.01 · 7分で読めます

八王子七福神めぐり、45年目の「八福神」改称 —— 昭和56年開創の巡拝はどう生まれ変わったか

2026年元日、八王子七福神めぐりが八王子八福神めぐりへ改称されました。昭和56年開創からの45年の歴史、8つの寺院の見どころ、改称に合わせた新企画を一次資料でたどります。

ろくろの上で粘土を成形する職人の手元

正月に八王子市内8つの寺院を巡る「八王子七福神めぐり」が、2026年の元日から「八王子八福神めぐり」という新しい名前に変わりました。祀る神の数も寺院の数も変わらないのに、なぜ名前だけが変わったのか。45年前にこの巡拝が始まった経緯から、改称にあわせて加わった新しい企画まで、一次資料をもとに追っていきます。

連載「桑都の風土記」第16回|この連載をまとめて読む


令和8年、「八」が三つ重なった正月

2026年(令和8年)1月1日、「八王子七福神めぐり」は「八王子八福神めぐり」へと名称を変えました。主催する団体の名前も「八王子八福神会」に変わっています。

改称の理由は、縁起にちなんだものでした。ATPRESSに掲載された公式発表によれば、「令和”八”年」「”八”王子」「”八”福神」という、末広がりの「八」が三つ重なる巡り合わせを迎えることが、改称のきっかけになったとされています。語呂合わせのような説明ですが、正月の縁起物を扱う行事らしい動機だと言えるでしょう。

もともとこの巡拝が7尊ではなく8尊を祀っていたことを踏まえると、「八王子八福神」という名前は、実態を言い換えたというより、長年あった「七」と「八」のねじれを解消したものだと見ることもできます。七福神という一般的な呼び名を使い続けながら実質は8尊を祀る、という状態が45年近く続いたのち、ようやく名前が内容に追いついた格好です。

参拝する寺院の数や、祀られている神の構成そのものに変更はありません。変わったのは名前と、名前が示す「八」という数字の捉え方だけです。この一見小さな変更の背景には、45年にわたって地元有志が積み重ねてきた巡拝の歴史があります。

巡拝期間は毎年1月1日から1月10日までで、各寺院の受付時間は午前9時から午後5時までとされています。正月の三が日だけでなく、松の内いっぱいをかけて参拝できる行事だという点も、45年変わらない特徴の一つです。


昭和56年、有志が始めた新しい巡拝

八王子七福神めぐりの開創は、1981年(昭和56年)2月のことです。寺院そのものは古くからあるものの、巡拝というかたちそのものは比較的新しく生まれたものでした。当時は都心部でも七福神霊場の再興・新設が相次いでおり、七福神めぐりが一種のブームになっていた時期にあたります。そうした流れの中で、地元有志の発案によって八王子でも巡拝が始まったとされています。

八王子の七福神が最初から独自だったのは、神の数です。一般的な七福神は恵比寿・大黒天・毘沙門天・弁財天・福禄寿・寿老人・布袋の7尊ですが、八王子ではここに吉祥天を加えた8尊を祀ります。「八」という数字への縁起の良さを、7尊に1尊を加えることで表現したわけです。末広がりの「八」と「八王子」の「八」を重ねる発想は、2026年の改称よりも45年早く、開創の時点ですでに採用されていたことになります。

開創から8尊・8ヶ寺という体制は一貫して保たれており、今日の「八福神」という新しい名前も、この最初の設計をあらためて言葉にしたものだと見ることができます。

開創年を裏付けるもう一つの材料として、2021年に書かれた紹介記事が、その年を「開創40周年」として紹介していることが挙げられます。1981年開創として逆算すると、2021年はちょうど40年目にあたり、この記述は符合します。開創から半世紀近くが経った今も、当時の体制がそのまま引き継がれていることになります。


8つの寺院、8つの福

八王子七福神(八福神)が祀る8尊と、その札所は次の通りです。

寺院名 所在地 祀る神
長光山本立寺 上野町 毘沙門天
慈高山金剛院 上野町 福禄寿
金龍山信松院 台町 布袋尊
松榮山了法寺 日吉町 新護弁財天
興榮山善龍寺 元本郷町 走大黒天
良价山宗格院 千人町 寿老尊
一乗山吉祥院 長房町 吉祥天
傳法院 南新町 恵比寿天

このうち信松院は、武田信玄の娘である松姫(信松尼)が八王子に逃れて開いた尼寺として知られています。武田家滅亡後、八王子に身を寄せた松姫が出家して信松尼と名乗り、徳川家の庇護を受けながら晩年を過ごした地が、この信松院です。織物の技術を地域に伝えた逸話でも語られる人物であり、七福神(八福神)の札所の一つに、八王子の歴史を象徴する寺院が含まれていることになります。

8つの寺院は上野町・台町・日吉町・元本郷町・千人町・長房町・南新町と、市内の広い範囲に点在しています。巡拝が単なる寺社めぐりではなく、八王子という街そのものを歩いて回る行事になっているのは、この札所の散らばり方にも表れています。

徒歩での巡拝にかかる時間は、紹介する資料によって幅があります。あるモデルルートでは全長およそ6.2キロ、所要時間はおよそ2時間10分と紹介される一方、別の紹介記事ではJR八王子駅から西八王子駅までの行程でおよそ4時間としており、歩く順序や休憩の取り方によって差が出るようです。主催団体であるATPRESSの公式発表では、所要時間を徒歩約3時間・自転車約2時間・車約2時間としており、半日から一日をかけて回る行事として案内されています。8つの札所が市内に広く散らばっているからこそ生まれる幅だと言えるでしょう。


名前と中身、何が変わったのか

改称にあたって八王子八福神会が明らかにした変更点は、祀る神や寺院の構成ではなく、巡拝を取り巻く周辺の部分でした。

まず、チラシ・ポスター・パンフレットといった案内物のビジュアルが一新されました。あわせて、小学生以下を対象にした無料のスタンプラリーに新しい仕掛けが加わっています。スタンプを集めて組み立てると「宝船」になるクラフト要素が導入され、完走した参加者には景品が贈られる仕組みです。

さらに、長く通う参拝者のための特典も新設されました。7年分の完走色紙を集めると「金の色紙」を進呈するという企画で、1年ごとの行事を7年という単位で捉え直す、息の長い仕掛けになっています。公式発表では、こうした変更の狙いを「老若男女が楽しめる内容への進化」としています。

寺院の数や祀る神が変わらない中で、案内物とスタンプラリー、長期参拝者向けの特典という3つの変更が加わったことになります。名称の改称は、巡拝そのものの中身を更新する機会にもなっていたわけです。

巡拝で受けられる頒布品そのものは、改称前から変わっていません。8ヶ寺で色紙に御朱印を受ける場合、色紙代が300円、御朱印はおおむね1尊200円が目安とされ、絵馬は300円で頒布されています。寺院や頒布のかたちによって金額の案内に多少の差があるため、現地では各寺院の案内に従うのが確実です。新しい企画が加わった一方で、こうした基本の頒布品はこれまでの巡拝の延長線上にあります。


蒸溜所と結んだ、もう一つの新企画

改称を記念して、地元の蒸溜所とのコラボ企画も実現しました。東京八王子蒸溜所との共同企画による限定クラフトジン「八福神-はちふくジン-」が、2025年12月1日に発売されています。

このジンは、リコリス(甘草)や甘夏ピールなど12種類のハーブで香りづけされ、350ミリリットルの瓶には「開運」の文字と宝船のイラストをあしらったオリジナルラベルが貼られています。価格は税込3,300円で、市内限定300本という数量限定での販売でした。販売場所はJR八王子駅周辺の土産店や、市内のセレクトショップに限られています。

正月の寺院巡拝という伝統行事と、地元の蒸溜所・観光振興とを結びつけたこの企画は、宗教行事そのものの枠を越えて、地域産業とのつながりを広げる試みだと言えます。改称という一つの出来事が、案内物の刷新やスタンプラリーの新企画だけでなく、こうした異業種との連携まで引き出したことになります。

300本という数量も、正月の巡拝という一時期の行事に合わせた限定感を強める設計です。巡拝に訪れた参拝者が、8つの寺院を回った後に駅前の土産店に立ち寄り、改称を記念したジンを手にする——そうした一日の過ごし方が想定された企画になっています。寺院めぐりと土産物、どちらも八王子の「今」を映す組み合わせです。


まとめ

1981年(昭和56年)、地元有志の発案で始まった八王子七福神めぐりは、7尊の七福神に吉祥天を加えた8尊・8ヶ寺という独自の体制を最初から採っていました。45年の時を経た2026年、その「八」という数字をあらためて前面に出す形で、名称は「八王子八福神めぐり」に改称されています。案内物の一新、子ども向けスタンプラリーの新企画、7年分の完走特典、そして地元蒸溜所とのクラフトジン——改称を機に加わったこれらの変化は、45年続く巡拝が今も更新され続けていることを示しています。

上野町から南新町まで、8つの寺院は市内の広い範囲に点在しています。名前が変わっても、歩いて回る距離や祀られている神、受け継がれてきた頒布品の仕組みは変わりません。変わらないものの上に、その年ごとの新しい企画が少しずつ積み重ねられていく——それが45年という時間の実像なのかもしれません。次の正月、8つの寺院を歩いて回る際には、この積み重ねにも思いを向けてみてはいかがでしょうか。


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連載「桑都の風土記」は、八王子の土地に残る信仰・伝承・地形を一つずつ辿るシリーズです。


参考文献

ATPRESS「八王子八福神めぐり リニューアル公式発表」 / tamapon.com「八王子七福神めぐりが令和八年から『八王子八福神めぐり』に改名してリニューアル!」 / tesshow.jp「八王子七福神の案内」 / chuosuki.jp「八王子七福神めぐりの詳細情報」 / 八王子金龍山信松院「令和8年 八王子8福神」 / タウンニュース「八王子八福神めぐり コラボ『ジン』登場 市内で限定販売」

この記事は連載「桑都の風土記」第18話です (全18話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。