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風土と工芸の歴史 · 公開: 2026.10.26 · 8分で読めます

江戸の独楽が、世界大会になった —— 八王子で開かれる『KOMA WORLD CUP』

八王子市明神町の東京たま未来メッセで10月31日・11月1日に開催される独楽(こま)の世界大会『KOMA WORLD CUP 2026』。3年ぶりの東京開催の背景と、米国発の国際団体ITSA、そして江戸時代にまで遡る独楽の歴史を辿る。

天日に干される黄色い絹糸の束

10月31日と11月1日、八王子市明神町の東京たま未来メッセに、独楽(こま)を回す人たちが世界7か国から集まります。名前は「KOMA WORLD CUP」。遊びとしての独楽と、国際大会としての独楽が同じ会場で並ぶこの2日間は、実は江戸時代から続く長い歴史の、ごく最近の一場面にすぎません。なぜ八王子にこの大会がやってくるのか、その手前に何があったのかを辿っていきます。


八王子に、世界の独楽プレーヤーが集まる

東京たま未来メッセで開かれる「KOMA WORLD CUP 2026」は、10月31日(土)・11月1日(日)の両日、10時から17時まで、入場無料で開催されます。主催するのは八王子市並木町に本社を置く株式会社そろはむと、International Top Spinners Association(ITSA、国際こま回し協会)です。ふだん独楽に触れる機会がない人にとっても、入場無料で気軽に立ち寄れる点は見逃せません。

2日間の中身は、性格の異なる2つの競技に分かれています。10月31日の「オオルリカップ」は、決められた規格の独楽を使って技の正確さを競う、いわば日本一決定戦です。翌11月1日の「World Spintop Contest」は一転して、音楽に合わせたフリースタイルパフォーマンスで世界一を決める、独楽の技を競う世界選手権です。規定の技をどれだけ正確に再現できるかを問う競技と、自分なりの表現をどれだけ自由に組み立てられるかを問う競技が、1日ずつ順番に開かれる構成になっているわけです。

会場には参加国である日本・アメリカ・メキシコ・コロンビア・スペイン・フランス・ウルグアイのプレーヤーが集まり、海外パフォーマーによるスペシャルステージや、独楽の職人による出展、初めての人向けの体験ブースも設けられます。見るだけの大会ではなく、その場で独楽に触れて回してみることもできる設計です。規定の技を磨く競技と、自由な表現を競う競技が同じ会場で2日続けて開かれるという構成自体が、独楽という遊びの奥行きを物語っています。


「3年ぶりの世界大会」が示す重み

World Spintop Contestが日本で開かれるのは、今回が最初ではありません。最初の日本開催は2023年12月23日・24日、同じ東京たま未来メッセでのことでした。この回には約1300人のプレーヤーが来場したと伝えられています。

その後、世界選手権は毎年開催地を移し、2024年はスペインのマヨルカ、2025年はメキシコシティで行われました。そして2026年、開催地は再び東京・八王子に戻ってきました。地域メディアがこれを「3年ぶりの世界大会」と紹介しているのは、2023年の日本開催から数えての3年という意味合いです。世界各地を巡回してきた大会が、3年の時を経て同じ会場に帰ってくるというのは、単なる偶然の巡り合わせとは考えにくいところがあります。

一つの街が3年の間を置いて再び世界選手権の舞台に選ばれるのは、小さな出来事ではありません。世界各国を巡回する大会が同じ場所に戻ってくるには、前回の開催がよほどの手応えを残していたか、現地に大会を支える体制が根付いているかのいずれかが必要です。八王子の場合、その答えは後者にあります。

主催企業の代表は、世界大会を数年に一度の特別な催しにとどめず、毎年何らかの形で独楽を盛り上げる企画を続けていく意向を示しており、2023年の大会が一度きりの打ち上げ花火ではなく、継続的な活動の一部として位置づけられていることがうかがえます。開催地が3年の周期で世界を巡るしくみの中で、1300人規模の来場者を集めた土地が選択肢として残り続けたという見方もできます。一度開いた大会がどれだけの余韻を残すかが、次にその土地が選ばれるかどうかを左右するのだとすれば、八王子での2023年の大会は、単発のイベントで終わらせない運営側の意識とともに積み重ねられてきたものだったのでしょう。


米国発、1990年からの小さな輪

独楽の世界選手権がどこから始まったのかを辿ると、話は日本から遠く離れた米国に行き着きます。ITSAの起点は1990年、Walter Watts氏を中心とする米国のベテランプレーヤーたちが非公式に作った集まりでした。当時はまだ、世界大会というような大がかりな仕組みは存在していません。

転機は2000年に訪れます。Dale Oliver氏の主催で第1回World Spintop Contestが開催され、独楽の技を競うプレイが再び盛り上がりを見せ、新しい世代のプレーヤーが次々と参加するようになりました。この大会は2000年以降、一度も途切れることなく毎年開かれています。新型コロナウイルスの流行期には現地開催が難しくなりましたが、オンライン開催という形に切り替えて継続させました。会場に集まれない年でも大会そのものを止めないという判断が、20年以上続く大会の土台になっています。

組織としての体制が整うのはさらに後のことです。2015年、Jim Boehm氏とJorge Alcoz氏の主導のもと、ITSAはテキサス州の非営利団体として正式に法人化されました。同じ年、それまで国際ヨーヨー連盟(IYYF)が担っていた大会運営をITSAが正式に引き継ぎ、独楽だけを専門に扱う国際組織としての体制が確立されます。それまで独楽の世界大会はヨーヨーという別の遊びを扱う連盟の一部門として運営されていたことになり、独楽そのものを専門に扱う組織が独立して立ち上がったのは、この2015年の法人化がひとつの区切りだったといえます。非公式な愛好者の集まりから始まり、法人化を経て世界大会を単独で運営する団体になるまでに、四半世紀近い年月がかかっていることになります。


なぜ八王子なのか — スピンギアと長谷川貴彦という接点

世界各国を巡る大会が八王子に根を下ろしている理由は、一人の人物と一つの会社に集約されます。主催企業の株式会社そろはむは2011年10月11日に設立され、本社を八王子市並木町に置いています。事業の中心はヨーヨー・けん玉・独楽といったスキルトイの卸・小売で、楽天市場での通信販売に加え、高円寺の実店舗「ヨーヨーショップ スピンギア」を運営しています。

代表取締役を務める長谷川貴彦氏は、1975年生まれのヨーヨーパフォーマー「ヨーヨーマスターTAKA」として活動する一方、ITSAの会長でもあります。長谷川氏が手がける「スピンギア」自体は、1998年にヨーヨー専門店として活動を始め、2011年に独立・法人化した店です。店舗はもともと秋葉原にありましたが、その後高円寺へ移転し、地元に根を張るおもちゃ店を目指す方向へ歩みを変えています。

つまり、八王子を本拠に小さなスキルトイの専門店を育ててきた人物が、独楽の国際団体の会長を兼ねているという二重の立場が、世界選手権を八王子に招き入れる動線になっています。大きな興行会社や自治体の観光施策が主導したのではなく、一つの専門店の経営者が国際団体の運営に関わってきた積み重ねの結果として、世界選手権の開催地が決まっているという点は、見落とされがちですが重要です。地域の小さな専門店の歩みが、気づけば世界大会の開催地を決める位置にまでつながっていたというのは、地方都市と国際競技の意外な接点です。


独楽は、八王子より1300年も前からあった

世界大会の舞台になっているとはいえ、独楽という遊び自体は現代に始まったものでも、日本だけのものでもありません。世界最古とされる独楽の遺物は、エジプトの遺跡から出土した紀元前2000年から1400年頃のものとされています。独楽は古代から世界各地で親しまれてきた、人類にとって相当に古い玩具だということになります。

日本に独楽が伝わったのは奈良時代、8世紀ごろのことです。朝鮮半島を経由して中国から伝えられた竹製の「唐独楽」がその起点とされます。古代エジプトでの出現から、日本に渡ってくるまでに、すでに数千年という時間が流れていたことになります。

そこからさらに時代が進み、江戸時代後期になると、博多で木の台に鉄の芯を打ち込んで回す、今私たちが思い浮かべる独楽の原型が作られました。地域ごとに形や遊び方が少しずつ異なる独楽が日本各地で発達していったのも、この頃からのことです。木の台に鉄の芯という組み合わせは、長く安定して回すための工夫であり、遊び道具としての独楽が、技を競うに足る精度を持つ道具へと変わっていった転換点でもあります。今回の大会で技の正確さを競う「オオルリカップ」のような競技が成立するのも、こうして独楽という道具自体が改良を重ねてきた歴史があってのことです。

エジプトから奈良時代の日本へ、そして江戸時代の博多へと独楽が形を変えながら伝わってきた長い道のりの先に、今回の八王子での世界大会があります。規定の技を競う「オオルリカップ」も、自由な表現を競う「World Spintop Contest」も、見方を変えれば、何千年も前から人類が回し続けてきた一つの玩具が、令和の八王子でどんな姿を見せるかという話にすぎません。


まとめ

米国の愛好者が始めた小さな集まりが、法人化を経て世界選手権を運営する国際団体になり、八王子の小さなスキルトイ専門店の代表がその会長を兼ねることで、世界大会が八王子に呼び込まれる。そしてその舞台で回される独楽自体は、エジプトの古代遺跡にまで遡る玩具が、奈良時代に日本へ渡り、江戸時代の博多で今の形になったものです。10月31日・11月1日の2日間、東京たま未来メッセで独楽が回る光景は、こうした複数の長い時間の流れが一点で交わった結果といえます。入場は無料ですから、足を運んでみれば、昔どこかで触れた遊びが、今どこまで広がっているかを目の前で確かめられるはずです。


参考文献

PR TIMES「10/31~11/1 今年も”こま”が主役のあそびイベント「KOMA WORLD CUP」を開催!」 / 8dabe「国内最大級の”こま”イベント!パフォーマンスや体験ブースも『KOMA WORLD CUP』開催」 / ごうぎゅうねっと「昔のこま遊びがこんなに進化! 東京たま未来メッセでこまの世界一も決める「KOMA WORLD CUP」開催!」 / 八王子経済新聞「八王子でこま回しのプレーヤーの大会開催へ 家族で楽しむ企画も」 / International Top Spinners Association「About ITSA」「World Spintop Contest」 / そろはむ「会社概要」 / 高円寺経済新聞「高円寺に「ヨーヨーショップ スピンギア」 秋葉原から移転、地元のおもちゃ店目指す」 / FUKUOKA NOW「あまり知られていない独楽(こま)の歴史」 / アクロス福岡「博多独楽|福岡の伝統工芸」

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。