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工芸とデジタル · 公開: 2026.09.16 · 7分で読めます

標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業 —— 八王子市・府中市がGovTech東京と描く、手続き一括申請の未来

東京都とGovTech東京が2026年4月に発表した「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」で、八王子市・府中市の窓口手続きがどう変わろうとしているのか、全国的な自治体システム標準化という前提から一次資料で整理する。

古文書の和紙がデジタルの格子に変わっていく抽象イラスト

転入も、出生も、介護保険の手続きも、複数の窓口を回ってそのたびに同じ氏名・住所を書く——そんな手間を丸ごとなくそうという取り組みが、八王子市と府中市で始まろうとしています。東京都とGovTech東京が2026年4月に発表した「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、個別の窓口サービスの改善ではなく、複数の手続きを一度の申請でまとめて済ませられる仕組みそのものを再設計する事業です。この記事では、何が発表されたのか、なぜ「標準化後」という言葉が付いているのか、そして八王子市の窓口が今後どう変わっていく見込みなのかを、公式発表と関連資料から整理します。


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結論:八王子市・府中市で何が始まるのか

東京都は令和8年(2026年)4月24日、「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」を開始すると発表しました。事業の実施主体は東京都とGovTech東京(一般財団法人)で、八王子市と府中市が「第一弾の協力自治体」として参画します。目的は、転入・出生・介護保険の資格取得といった、住民のライフイベントに伴う複数の手続きを、分野・部局をまたいで一度の申請でオンライン完結できるようにする窓口サービスモデルを構築することです。東京都の担当部局はデジタルサービス局DX協働事業部区市町村DX協働課で、本事業は東京都の長期戦略「2050東京戦略」のうち、戦略11「デジタルで都民のQOLに貢献するスマートシティの実現」を推進する取り組みの一つに位置づけられています。

なぜ「標準化後」なのか —— 全国の自治体システム標準化という前提

この事業が「標準化後」を冠している背景には、日本全国の自治体で進められてきた基幹業務システムの標準化・共通化という国レベルの政策があります。対象となるのは、児童手当・子ども子育て支援・住民基本台帳・戸籍の附票・印鑑登録・選挙人名簿管理・固定資産税・個人住民税・法人住民税・軽自動車税・戸籍・就学・健康管理・児童扶養手当・生活保護・障害者福祉・介護保険・国民健康保険・後期高齢者医療・国民年金の20業務、いわゆる「標準化対象20業務」です。国の方針では、原則として令和7年度末(2026年3月末)までに、全国の自治体がこの20業務のシステムを国の定める標準仕様に準拠した「標準準拠システム」へ移行することを目指してきました。

しかし実際の進捗は計画より遅れています。令和8年1月末時点での標準準拠システムへの移行完了は13,283システム(38.4%)にとどまり、令和7年12月末時点で8,956システム(25.9%)が期限後の対応対象となる見込みとされています。期限内の移行が困難なシステムは「特定移行支援システム」として扱われ、メインフレームでの運用継続やベンダー側のリソース逼迫などを理由に、おおむね5年以内での移行が想定されています。標準化が進められている背景には、自治体ごとの個別カスタマイズによる維持管理コストの増大、特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)、自治体間のデータ連携のしづらさといった課題があり、ガバメントクラウドを前提とした標準化によってコストの適正化と相互運用性の向上を図ることが狙いとされています。つまり「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、20業務のシステムが標準準拠システムに揃うことで初めて可能になる部局横断のデータ連携を前提に、その先の住民向けサービスの形を先取りして設計しておこうという、標準化の「出口」を見据えた取り組みです。

GovTech東京とは何か、なぜ八王子市・府中市が選ばれたのか

GovTech東京は令和5年(2023年)7月に設立された一般財団法人で、東京都が主導して設立した組織です。狙いは、都庁内部の組織強化だけでなく、都庁外部の多様なリソースやノウハウを活用し、内と外の力を組み合わせた新しいサービスやイノベーションを生み出すことで、東京都全体のDXを推進することとされています。令和6年(2024年)10月に策定された中期経営計画では、2040年までに「東京・日本での生活がデジタルの力を通じて便利で快適になっている」姿を目指すとし、2027年度までの取り組みを実施するとしています。都庁各局や区市町村と協働する体制を取っており、「オール東京」でのDX推進を担う中核組織という位置づけです。本事業では、GovTech東京が東京都とともに八王子市・府中市への技術的支援を提供する役割を担います。

東京都のプレスリリース・関連報道では、八王子市と府中市が「第一弾の協力自治体」として選定されたことが明記されています。選定の具体的な基準(人口規模、既存のDX推進実績、システム標準化の進捗度合いなど)は、本記事執筆時点で確認できた一次資料・報道の範囲では明示されていません。ただし八王子市は、本連載でこれまで扱ってきた通り、公開型GIS「はちおうじマップ」、防災情報デジタル化、フロントヤード改革(「書かない窓口」)、マイナアプリ統合、AI電話応対実証実験、ごみ分別アプリ「さんあ~る」など、都内でも比較的早い時期から複数のデジタル施策に取り組んできた自治体です。こうした実績の積み重ねが選定の背景にある可能性は推測できますが、プレスリリース自体にその因果関係を直接裏付ける記述はありません。

目指す窓口像 —— 「書かない窓口」の次にある「手続きの再設計」

本事業が掲げる目標は、単に紙の手続きをオンラインフォームに置き換えることではなく、「複数分野にまたがる手続きを一括で申請できる」という、手続きそのものの構造を再設計する点にあります。転入・出生・介護保険の資格取得など、住民のライフイベントに付随する手続きは、従来は住民基本台帳・税・福祉といった異なる制度・異なる部局にまたがっており、住民は複数の窓口を回り、その都度同じ情報(氏名・住所・生年月日など)を書類に記入する必要がありました。標準化によって各業務システムのデータ形式が国の定める標準仕様に揃うことで、部局をまたいだデータ連携が技術的に容易になり、一度の申請で複数の手続きをまとめて処理できる仕組みが構築しやすくなる、という理屈が本事業の前提にあります。

東京都のプレスリリースでは、この取り組みによって「住民と職員双方の手取り時間」を増やすことを目標として明示しており、住民の利便性向上だけでなく、職員側の事務負担軽減も同時に狙っていることが強調されています。本連載の第4回で扱った「書かない窓口」(フロントヤード改革)は、窓口に来た住民が申請書に手書きで記入しなくて済むようにする取り組みでした。それに対して本事業は、そもそも複数の窓口・複数の申請自体を一つにまとめるという、その一歩先の構造的な変化を目指すものです。

今後のスケジュールと、これまでの窓口DXとの違い

事業のスケジュールは、令和8年度(2026年度)に課題整理・要件定義・試験導入を実施し、令和9年度(2027年度)に先行実施へ移行する計画です。東京都は、八王子市・府中市で構築されたモデルについて、将来的には都内の他自治体、さらには全国の自治体への横展開を視野に入れているとしています。事業の実施を支える調達として、東京都は「基幹業務システム標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業支援委託」という業務委託を発注しており、契約期間は契約確定の翌日から令和9年(2027年)3月31日までとされています。ただし本記事執筆時点では、令和8年度の「課題整理・要件定義・試験導入」フェーズの詳細な進捗(どの手続きを対象に試験導入するか、具体的な着手時期など)を報じた続報は確認できていません。

本連載ではこれまで、はちおうじマップ(GIS)、防災情報デジタル化、GIGAスクール構想、書かない窓口、マイナアプリ統合、DX推進計画、電子申請サービス、AI電話応対実証実験、ごみ分別アプリ「さんあ~る」と、いずれも住民から見て個別のサービス・窓口・チャネル単位の取り組みを扱ってきました。今回の「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、これら個別サービスの土台となる基幹業務システムそのものの標準化・データ連携という、より制度的・構造的なレイヤーの話である点が異なります。個々のサービスがどれだけ便利になっても、その裏側のシステムが部局ごとにバラバラであれば「一括申請」は実現できず、本事業はその制約を解消しようとする取り組みとして位置づけられます。

まとめ

「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、全国の自治体システム標準化という国レベルの政策を前提に、東京都とGovTech東京が八王子市・府中市とともに、複数の手続きを一度の申請でまとめられる窓口サービスモデルを構築しようとする取り組みです。令和8年度は課題整理・要件定義・試験導入の段階にあり、実際に住民が「手続きが一つにまとまった」と実感できる形になるのはこれからです。本連載がこれまで追ってきた個別サービスのデジタル化が、今後どのように束ねられていくのか、続報を注視していく価値があるテーマといえます。


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連載「市役所とデジタル」は、八王子市の行政サービスがデジタル化でどう変わってきたかを一つずつ追うシリーズです。

参考文献

この記事は連載「市役所とデジタル」第10話です (全15話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。