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工芸とデジタル · 公開: 2026.09.28 · 7分で読めます

標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業 —— 八王子市・府中市がGovTech東京と描く、手続き一括申請の未来

転入・出生・介護など複数の窓口にまたがる手続を一度の申請で済ませられるようにする新事業を、東京都・GovTech東京が2026年4月に発表した。八王子市・府中市が第一弾の協力自治体に選ばれた背景と今後のスケジュールを一次資料から整理する。

麻の葉文様風にアレンジした点と線のネットワーク模様

転入届を出したその足で、児童手当の申請や介護保険の手続きのために別の窓口へ移動し、氏名や住所を何度も書き直す——そんな経験をした八王子市民は少なくないはずです。東京都とGovTech東京は2026年4月、こうした複数の窓口・部局にまたがる手続を一度の申請で完結できるようにする新事業を発表しました。八王子市と府中市が全国に先駆けて第一弾の協力自治体に選ばれています。この記事では、事業の中身と、なぜこの2市が選ばれたのか、そしていつ実現するのかを公式発表・報道資料から整理します。


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何が始まったのか —— 事業の概要

東京都は2026年(令和8年)4月24日、「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」を開始すると発表しました。実施主体は東京都とGovTech東京(一般財団法人)で、八王子市と府中市の2市が「第一弾の協力自治体」として参画します。

事業の目的として掲げられているのは、転入・出生・介護保険の資格取得といった、住民のライフイベントに付随する手続を一度の申請でまとめて完結できるようにする窓口サービスモデルの構築です。従来、これらの手続は住民基本台帳・税・福祉といった異なる制度・異なる部局にまたがっており、住民は複数の窓口を回り、そのたびに氏名や住所など同じ情報を書類に記入する必要がありました。

東京都の担当部局はデジタルサービス局DX協働事業部区市町村DX協働課です。本事業は東京都の長期戦略「2050東京戦略」のうち、戦略11「デジタルで都民のQOLに貢献するスマートシティの実現」を推進する取り組みの一つに位置づけられています。

なぜ「標準化後」なのか —— 全国的なシステム標準化という前提

この事業が「標準化後」という言葉を冠しているのには理由があります。背景にあるのは、日本全国の自治体で進められてきた基幹業務システムの標準化・共通化という国レベルの政策です。

対象となるのは、児童手当・子ども子育て支援・住民基本台帳・戸籍の附票・印鑑登録・選挙人名簿管理・固定資産税・個人住民税・法人住民税・軽自動車税・戸籍・就学・健康管理・児童扶養手当・生活保護・障害者福祉・介護保険・国民健康保険・後期高齢者医療・国民年金という20の業務(いわゆる「標準化対象20業務」)です。転入・出生・介護といった住民のライフイベントに関わる手続の多くが、この20業務のどこかに含まれていることが分かります。国の方針では、原則として2026年度末(令和7年度末)までに、全国の自治体がこの20業務のシステムを、国が定めた標準仕様に準拠した「標準準拠システム」へ移行することを目指してきました。

ただし、実際の進捗は計画より遅れています。2026年1月末時点での標準準拠システムへの移行完了は13,283システム(38.4%)にとどまり、2025年12月末時点で8,956システム(25.9%)が期限後の対応対象となる見込みとされています。期限内の移行が困難なシステムについては「特定移行支援システム」として扱う制度が設けられており、メインフレームでの運用継続やベンダー側のリソース逼迫などを理由に、おおむね5年以内での移行が想定されています。

一方、東京都のプレスリリースでは、都内自治体は2025年度末時点で「約7割」の業務システムが標準化完了予定とされており、全国平均(38.4%)よりも進捗が速い地域であることがうかがえます。

そもそも、なぜ全国の自治体がシステムの標準化を進めているのでしょうか。背景として挙げられているのは、自治体ごとの個別カスタマイズによってシステムの維持管理コストが増大していたこと、特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)が生じていたこと、自治体間でのデータ連携がうまくいかない場面があったことです。ガバメントクラウドを前提とした標準化によって、コストの適正化と相互運用性の向上を図ることが狙いとされています。つまりこの事業は、20業務のシステムが標準準拠システムに揃うことで初めて可能になる「部局をまたいだデータ連携」を前提に、その先の住民向けサービスの形を先取りして設計しておこうという、標準化の「出口」を見据えた取り組みとして位置づけられます。

GovTech東京とは何か、なぜ八王子市・府中市なのか

GovTech東京は2023年(令和5年)7月に設立された一般財団法人で、東京都が主導して設立した組織です。都庁内部の組織強化だけでなく、都庁外部の多様なリソースやノウハウを効果的に活用し、内と外の力を組み合わせた新しいサービスやイノベーションを生み出すことで、東京都全体のDXを推進することを狙いとしています。2024年(令和6年)10月に策定された中期経営計画では、2040年までに「東京・日本での生活がデジタルの力を通じて便利で快適になっている」姿を目指すとしています。

都庁各局や区市町村と協働する体制を取っており、都・区市町村・民間が一体となって取り組む、いわば「オール東京」でのDX推進を担う中核組織という位置づけです。本事業においてGovTech東京は、東京都とともに八王子市・府中市への技術的支援を提供する役割を担います。

東京都のプレスリリースや関連報道では、八王子市と府中市が「第一弾の協力自治体」として選定されたことが明記されています。ただし、選定の具体的な基準——人口規模、既存のDX推進実績、システム標準化の進捗度合いなど——について、公表されている資料の範囲では明示されていません。

八王子市はこれまでも、公開型GIS「はちおうじマップ」、防災情報のデジタル化、窓口での記入作業を簡素化する「書かない窓口」、スマートフォンでの手続一本化を目指す「マイナアプリ」統合、LoGoフォームへの移行、ごみ・税の問い合わせに応じる「電話に出るAI」実証実験、ごみ分別アプリ「さんあ~る」など、都内でも比較的早い時期から複数のデジタル施策に取り組んできた自治体です。こうした実績の積み重ねが選定の背景にある可能性はうかがえますが、プレスリリース自体にその因果関係を直接裏付ける記述はありません。

これまでの施策との違い —— 「手続きの再設計」という視点

本事業が掲げる目標は、単に紙の手続をオンラインフォームに置き換えることではありません。「複数分野にまたがる手続を一括で申請できる」という、手続そのものの構造を再設計する点に特徴があります。

標準化によって各業務システムのデータ形式が国の定める標準仕様に揃うと、部局をまたいだデータ連携が技術的に容易になります。その結果、一度の申請で複数の手続をまとめて処理できる仕組みが構築しやすくなる、というのが本事業の前提にある理屈です。東京都のプレスリリースは、この取り組みによって「住民と職員双方の手取り時間」を増やすことを目標として明示しており、住民の利便性向上だけでなく、職員側の事務負担軽減も同時に狙っていることが強調されています。

この連載でこれまで取り上げてきた「書かない窓口」(フロントヤード改革、第4回)は、窓口に来た住民が申請書に手書きで記入しなくて済むようにする取り組みでした。これに対して本事業は、その一歩先——そもそも複数の窓口・複数の申請自体を一つにまとめる——という、より構造的な変化を目指すものとして整理できます。

今後のスケジュールと、暮らしはどう変わるか

事業のスケジュールとして示されているのは、2026年度(令和8年度)に課題整理・要件定義・試験導入を実施し、2027年度(令和9年度)に先行実施へ移行するという流れです。事業の実施を支える調達として、東京都は「基幹業務システム標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業支援委託」という業務委託を発注しており、契約期間は契約確定の翌日から2027年(令和9年)3月31日までとされています。

東京都は、八王子市・府中市で構築されたモデルについて、将来的には都内の他自治体、さらには全国の自治体への横展開を視野に入れているとしています。つまり、八王子市民が最初に体験することになる「一括申請」の仕組みは、うまくいけば全国の自治体窓口の標準になっていく可能性がある取り組みだということです。

現時点(2026年9月)では、2026年度の「課題整理・要件定義・試験導入」フェーズについて、どの手続を対象に試験導入するか、具体的な着手時期など詳細な進捗を報じた続報はまだ確認できていません。転入や出生といった手続で「一度の申請で済む」窓口が実際にいつから使えるようになるのか、今後の発表を待つ必要があります。

まとめ

「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、これまで自治体ごとにバラバラだった基幹業務システムが標準仕様に揃うことで初めて可能になる、部局横断の一括申請という次の段階を先取りする取り組みです。八王子市はこれまで積み重ねてきた複数のデジタル施策の実績を背景に、その最初の実証の舞台に選ばれました。窓口を何度も回らずに済む未来が、八王子から始まろうとしています。

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連載「市役所とデジタル」は、八王子市が進めるデジタル化の取り組みを一つずつ辿るシリーズです。

参考文献

東京都「利便性の高い窓口サービスモデルを創出する取組を開始します」(令和8年4月24日プレスリリース) / デジタル行政「東京都が八王子市・府中市と描く、手続き一括オンライン申請の未来」 / ジチタイワークスWEB「自治体システム標準化の移行期限と進捗状況」 / GovTech東京公式サイト「組織情報」 / JETRO政府調達データベース「基幹業務システム標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業支援委託」

この記事は連載「市役所とデジタル」第12話です (全15話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。