本文へスキップ
あと7分 購読

工芸とデジタル · 公開: 2026.09.19 · 7分で読めます

標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業 —— 八王子市・府中市がGovTech東京と描く、手続き一括申請の未来

東京都・GovTech東京が令和8年4月に発表した「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」。八王子市・府中市が第一弾協力自治体に選ばれた背景と、住民の手続きがどう変わっていくのかを整理します。

古文書の和紙がデジタルの格子に変わっていく抽象イラスト

転入届を出したら、税金の手続きも、介護保険の手続きも、同じ場で一度に済んでしまう——そんな窓口が、八王子市と府中市で試験的に作られようとしています。東京都とGovTech東京が令和8年(2026年)4月に発表した「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、複数の部局にまたがる手続を一括でオンライン申請できるようにする取り組みです。何が始まり、いつ実現していくのかを整理します。


連載「市役所とデジタル」第10回|この連載をまとめて読む

何が始まったのか——事業の概要と八王子市・府中市の役割

東京都は令和8年(2026年)4月24日、「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」を開始すると発表した。実施主体は東京都とGovTech東京(一般財団法人)で、八王子市・府中市の2市が「第一弾の協力自治体」として参画する。

本文画像: 行政窓口のデジタル化

事業の目的は、自治体の基幹業務システムの標準化が完了した後だからこそ実現できる、分野横断的な手続のオンライン一括申請を可能にする窓口サービスモデルを構築することとされている。具体的には、転入・出生・介護など、従来は複数の窓口・複数の部局にまたがっていたライフイベント関連の手続を、住民が一度の申請で完結できるようにすることを目指す。目標として掲げられているのは「住民と職員双方の手取り時間の増加」であり、単なる紙のオンライン化にとどまらず、手続そのものの再設計(BPR)を伴う取り組みと位置づけられている。東京都の担当部局はデジタルサービス局DX協働事業部区市町村DX協働課で、本事業は東京都の長期戦略「2050東京戦略」のうち、戦略11「デジタルで都民のQOLに貢献するスマートシティの実現」を推進する取り組みの一つに位置づけられている。八王子市はこれまで本連載で取り上げてきた「はちおうじマップ」や電子申請サービスのLoGoフォーム移行、AI電話応対実証実験など複数のデジタル施策に取り組んできた自治体であり、こうした実績の積み重ねが選定の背景にある可能性はうかがえるが、東京都のプレスリリース自体には選定理由を直接裏付ける記述はない。


なぜ今このタイミングなのか——自治体システム標準化という前提

この事業が「標準化後」を冠している背景には、全国の自治体で進められてきた基幹業務システムの標準化・共通化という国レベルの政策がある。対象となるのは、児童手当・子ども子育て支援・住民基本台帳・戸籍の附票・印鑑登録・選挙人名簿管理・固定資産税・個人住民税・法人住民税・軽自動車税・戸籍・就学・健康管理・児童扶養手当・生活保護・障害者福祉・介護保険・国民健康保険・後期高齢者医療・国民年金の20業務(いわゆる「標準化対象20業務」)で、国は原則として令和7年度末(2026年3月末)までに、全国の自治体がこの20業務のシステムを国の定めた標準仕様に準拠した「標準準拠システム」へ移行することを目指してきた。

しかし実際の進捗は計画より遅れており、令和8年1月末時点での標準準拠システムへの移行完了は13,283システム(38.4%)にとどまるとされる。一方、令和7年12月末時点で8,956システム(25.9%)が期限後の対応対象となる見込みとされ、期限内の移行が困難なシステムについては「特定移行支援システム」として扱う制度が設けられており、メインフレームでの運用継続やベンダー側のリソース逼迫などを理由に、おおむね5年以内での移行が想定されている。標準化が進められている理由としては、自治体ごとの個別カスタマイズによってシステムの維持管理コストが増大していたこと、特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)が生じていたこと、自治体間でのデータ連携がうまくいかない場面があったことなどが挙げられており、ガバメントクラウドを前提とした標準化によってコストの適正化と相互運用性の向上を図ることが狙いとされる。東京都のプレスリリースでは、都内自治体において令和7年度末時点で「約7割」の業務システムが標準化完了予定であるとされており、全国平均(38.4%)よりも進捗が速い地域であることがうかがえる。つまり「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、20業務のシステムが標準準拠システムに揃うことで初めて可能になる「複数業務をまたいだデータ連携」を前提に、その先の住民向けサービスの形を先取りして設計しておこうという、標準化の「出口」を見据えた取り組みとして位置づけられる。


GovTech東京とは何か、この事業でどんな役割を担うのか

GovTech東京は令和5年(2023年)7月に設立された一般財団法人で、東京都が主導して設立した組織です。設立の狙いは、都庁内部の組織強化だけでなく、都庁外部の多様なリソースやノウハウを効果的に活用し、内と外の力を組み合わせた新しいサービスやイノベーションを生み出すことで、東京都全体のDXを推進することとされている。令和6年(2024年)10月に策定された中期経営計画では、2040年までに「東京・日本での生活がデジタルの力を通じて便利で快適になっている」ことを目指す姿として掲げ、2027年度までの取り組みを実施するとしている。

都庁各局や区市町村と協働する体制を取っており、「オール東京」でのDX推進を担う中核組織という位置づけです。本事業においてGovTech東京は、東京都とともに八王子市・府中市への技術的支援を提供する役割を担っている。本連載でこれまで扱ってきた八王子市の個別施策(電子申請サービスのLoGoフォーム移行やAI電話応対実証実験など)は市が単独で進めてきたものだが、今回の事業は都・GovTech東京・市の三者が組む体制である点が異なる。


「一括申請」で何が変わるのか——住民の手続きはどう変化するのか

本文画像: 窓口での一括手続き

本事業が掲げる目標は、単に紙の手続をオンラインフォームに置き換えることではなく、「複数分野にまたがる手続を一括で申請できる」という、手続そのものの構造を再設計する点に特徴がある。例えば、転入・出生・介護保険の資格取得など、住民のライフイベントに付随する手続は、従来は住民基本台帳・税・福祉といった異なる制度・異なる部局にまたがっており、住民は複数の窓口を回り、その都度同じ情報(氏名・住所・生年月日など)を書類に記入する必要があった。

標準化によって各業務システムのデータ形式が国の定める標準仕様に揃うことで、部局をまたいだデータ連携が技術的に容易になり、一度の申請で複数の手続をまとめて処理できる仕組みが構築しやすくなる、という理屈が本事業の前提にある。東京都のプレスリリースでは、この取り組みによって「住民と職員双方の手取り時間」を増やすことを目標として明示しており、住民の利便性向上だけでなく、職員側の事務負担軽減も同時に狙っていることが強調されている。本連載第4回で扱った「書かない窓口」(フロントヤード改革)は、窓口に来た住民が申請書に手書きで記入しなくて済むようにする取り組みだったが、本事業はその一歩先、すなわち「そもそも複数の窓口・複数の申請自体を一つにまとめる」という、より構造的な変化を目指すものと言える。


今後のスケジュールと八王子市民が知っておくべきこと

令和8年度(2026年度)は課題整理・要件定義・試験導入を実施し、令和9年度(2027年度)に先行実施へ移行する計画が示されている。東京都は、八王子市・府中市で構築されたモデルについて、将来的には都内の他自治体、さらには全国の自治体への横展開を視野に入れているとされる。

事業の実施を支える調達として、東京都は「基幹業務システム標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業支援委託」という業務委託を発注しており、この調達情報では契約期間が「契約確定の翌日から令和9年(2027年)3月31日まで」とされている。ただし、令和8年度の「課題整理・要件定義・試験導入」フェーズについて、どの手続を対象に試験導入するのか、具体的な着手時期がいつなのかを報じた続報は、本記事の執筆時点(2026年9月)では確認できていない。同様に、府中市側で本事業に関する独自の告知や議会報告が行われているかについても、本記事の執筆時点では確認できておらず、両市の今後の広報を注視する必要がある。八王子市民にとって今すぐ何かの手続きが変わるわけではないが、令和9年度以降、転入や出生などのライフイベントの際に「一つの窓口・一つの申請で複数の手続が完結する」場面が実際に出てくる可能性がある取り組みとして、今後の続報を追っておく価値がある。


まとめ

「標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業」は、全国的な自治体システム標準化という土台の上に、その先の住民サービスの形を先取りして設計しようとする取り組みです。八王子市はこれまでもはちおうじマップやAI電話応対など複数のデジタル施策に取り組んできた自治体であり、今回もその蓄積の延長線上で第一弾の協力自治体に名を連ねている。令和9年度の先行実施に向けて、どの手続から一括申請の対象になるのか、続報を見守りたい。


この連載の他の記事

「市役所とデジタル」は、八王子市の行政デジタル化の取り組みを継続的に追う連載です。


参考文献

東京都「利便性の高い窓口サービスモデルを創出する取組を開始します」(令和8年4月24日プレスリリース) / 東京都が八王子市・府中市と描く、手続き一括オンライン申請の未来|デジタル行政 / 自治体システム標準化の移行期限と進捗状況|事例から見る進め方のポイント|ジチタイワークスWEB / GovTech東京とは|組織情報|東京都デジタルサービス局 / 基幹業務システム標準化後の近未来窓口DXモデル創出事業支援委託|JETRO政府調達データベース

この記事は連載「市役所とデジタル」第11話です (全15話・更新中)

住まいの防犯対策緊急補助金 —— 空き巣・強盗増加の今、八王子市が最大2万円を補助する仕組み

暮らしと法律 · 7分

読む

Support

この記事が面白かったら、書き手の活動を応援していただけると励みになります。

※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます

カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。