本文へスキップ
あと8分 購読

工芸とデジタル · 公開: 2026.10.04 · 8分で読めます

八王子市税のキャッシュレス納付 —— モバイルレジからeL-QRまでの10年

八王子市の市税・国民健康保険税は、2017年度の「モバイルレジ」導入からコロナ禍のPayPay前倒し、2023年の全国統一「eL-QR」、2025年のRakuten Pay対応まで、約10年でキャッシュレス納付の選択肢を広げてきた。その変遷と、今どの方法を選べばいいかを一次資料から整理する。

開いた古書から光の粒が立ちのぼるデジタルアーカイブのイメージ

八王子市の市税・国民健康保険税は、いまコンビニ窓口での現金納付だけでなく、スマートフォンのバーコード決済や全国統一QRコード「eL-QR」など、複数の方法で納められます。この体系は一夜にして整ったわけではありません。2017年度の「モバイルレジ」導入に始まり、コロナ禍でのPayPay前倒し、2023年の全国統一化、2025年のRakuten Pay対応という、約10年にわたる積み重ねの結果です。今どの方法を選べばよいか迷ったときは、この変遷を知っておくと判断しやすくなります。


連載「市役所とデジタル」第11回|この連載をまとめて読む

モバイルレジとコンビニ納付の拡大 —— デジタル納付の出発点

八王子市は平成29年度(2017年度)課税分から、市税のキャッシュレス化に向けた最初の一歩を踏み出しました。それまでコンビニ納付の対象は軽自動車税のみに限られていましたが、市民サービスのさらなる向上を図るため、取扱税目を拡大したのです。

同時に導入されたのが「モバイルレジ」です。納付書に印刷されたコンビニ納付用バーコードを、スマートフォンのカメラで撮影して読み取り、インターネットバンキングを利用して納付する仕組みで、窓口や金融機関に出向く必要がありません。アプリ自体は無料ですが、ダウンロードや通信には別途パケット通信料がかかり、これは利用者負担とされています。

現在のコンビニ納付・モバイルレジの対象税目は、軽自動車税、個人住民税・森林環境税(普通徴収分)、固定資産税・都市計画税、国民健康保険税の4区分です。納付書1枚あたり30万円を超えるものはこの方式の対象外となり、複数枚に分割する必要があります。

後年には「モバイルレジクレジット」という名称のサービスも案内されるようになりました。これも同じくバーコード読み取り方式を使いますが、インターネットバンキングではなくクレジットカード払いに対応している点が異なります。モバイルレジ(インターネットバンキング)とは別のサービスとして案内されており、利用者は自分の決済手段に応じてどちらを使うかを選ぶことになります。このモバイルレジが、八王子市における市税キャッシュレス化の出発点でした。

コロナ禍で前倒しされたキャッシュレス決済導入

次の転機は、新型コロナウイルス感染拡大という予期しない事情でもたらされました。八王子市は令和2年(2020年)9月の補正予算で、市税納付へのキャッシュレス決済導入費用を計上します。市担当者は地元経済紙の取材に対し「検討を進めていた段階だったが、今回のコロナ禍も踏まえて、前倒しで導入することにした」と説明しており、当初は令和3年(2021年)5月(国民健康保険税については同年7月)の導入を予定していたところ、年内(2020年内)の運用開始を目指す形に計画を前倒ししました。感染拡大防止と、人との接触機会の削減が主要な目的とされています。

具体的な決済手段として実際に始まったのは、令和2年(2020年)12月1日からのPayPay対応でした。その後、令和3年(2021年)7月1日時点では、LINE Pay、PayPay、au PAY、d払い、J-Coin Pay、モバイルレジクレジットといった複数のスマートフォン決済アプリへの対応が、単発ではなく順次拡充される形で進みました。J-Coin Payはみずほ銀行が中心となって提供する銀行連合系のスマホ決済サービスで、民間のQRコード決済と並行して案内されています。

ただしPayPay納付については、本リサーチ時点の八王子市の案内では対象が国民健康保険税のみとされています。領収証書は発行されず、納付から市の記録に反映されるまで約2週間を要する点、納付書1枚あたりの上限が30万円である点は、モバイルレジと共通する制約です。

全国統一「地方税統一QRコード(eL-QR)」の導入

コロナ禍を機に複数のスマホ決済アプリへ個別対応する時期が続いた後、納付の仕組みそのものを大きく変える制度が全国規模で始まります。令和5年(2023年)4月1日、地方税共同機構が運営する「地方税お支払サイト」を基盤とした、全国共通の「地方税統一QRコード(eL-QR)」の運用がスタートしました。

従来は自治体ごとに対応する決済アプリ・金融機関が異なり、八王子市が対応していてもコード決済事業者が異なれば他市では使えない、といった不均一さがありました。これに対しeL-QRは、自治体が地方税お支払サイトに接続するだけで、全国共通の決済チャネルすべてに一括対応できる点が制度上の特徴です。運用開始から3か月以内(令和5年4〜6月)に、20以上のスマートフォン決済アプリ、372以上の金融機関がeL-QRに対応したと報告されています。

八王子市では令和5年度当初課税分からeL-QRを活用した納税が始まりました。対象税目は、個人住民税・都民税(普通徴収分)、固定資産税、軽自動車税など、納付書に「eLマーク」または「eL-QR」が印字されているものです。全国のeL-QR対応金融機関の窓口、地方税お支払サイトを通じたMPN(マルチペイメントネットワーク)決済、クレジットカード払い、スマートフォン決済アプリでの納税に対応します。クレジットカード決済には手数料がかかり、納付額に応じて利用者負担となる点、eL-QR経由の納付でも領収証書は発行されない点は、納税証明書が必要な場合に留意が必要です。

直近の拡充 —— Rakuten Pay対応と、並存する4つの方式

全国統一化が進んだ後も、八王子市は個別の決済手段の拡充を続けています。コンビニ納付用バーコードを利用したスマートフォン決済のうち、Rakuten Payは令和7年(2025年)4月1日から新たに対応が始まりました。これによりバーコード方式で利用できる決済アプリは、PayPay、d払い、au PAY(国民健康保険税のみ)、Rakuten Payの4種類となっています。

ここで整理しておきたいのは、バーコード方式とeL-QR方式は別建ての仕組みという点です。バーコード方式には納付書1枚あたり30万円という上限が設けられていますが、eL-QR方式(スマートフォン決済アプリ・クレジットカード・インターネットバンキングを含む)は地方税お支払サイトを経由するため、異なる仕組み・上限で運用されています。

結果として、現在の八王子市の納付手段は、(1)コンビニ窓口でのバーコード読み取り・現金納付、(2)モバイルレジ(バーコード読み取り+インターネットバンキング)、(3)個別スマホ決済アプリでのバーコード読み取り納付、(4)eL-QRによる全国統一QR決済、という4方式が並存する形で積み上がってきました。選択肢が増えた分、住民から見るとやや複雑な体系になっている面もあります。

この複雑さの背景には、個別スマホ決済アプリへの対応が「使える税目」の範囲で細かく条件が異なるという事情があります。au PAYは国民健康保険税のみが対象であるのに対し、PayPay・d払い・Rakuten Payはより広い税目で使えるといった違いがあり、どのアプリを普段使っているかによって、そのまま使えるかどうかが変わります。さらにeL-QR経由でクレジットカード払いを選ぶ場合は決済手数料が別途かかり、納付額に応じて利用者負担となる点も、方式ごとの違いとして押さえておく必要があります。

10年弱の歩みが生んだ成果、そして今どれを選ぶか

八王子市公式ホームページには「令和6年度市税納付率(現年課税分)多摩26市1位!~八王子市財政部から皆さまへのご報告とお礼~」と題した報告ページが掲載されています。市はこの成果を財政部から市民への「ご報告とお礼」という形で発信しており、収納率向上の取り組みの背景に、本稿で辿ってきたキャッシュレス化・コンビニ納付・モバイルレジ等の多様化があることがうかがえます。より詳細な収納状況データは、八王子市が毎年度発行する「市税白書」(令和5年度版・令和6年度版がタマイーブックスで公開)に収録されています。

2017年度のモバイルレジ導入に始まり、2020年のPayPay導入、2023年のeL-QR全国統一、2025年のRakuten Pay対応という4段階を経て、市税・国保税の納付手段は約10年でコンビニ中心から複数のキャッシュレス方式が並存する体系へ変わりました。今どれを選べばよいか迷う場合、スマートフォンでの操作に慣れていてアプリを使い分けたくないなら、納付書の「eLマーク」を読み取るeL-QRが窓口・アプリを問わず一括対応している分、選択の手間が少なくなります。一方、普段から特定の決済アプリ(PayPayなど)を使い慣れているなら、そのままバーコード読み取りで納付する方法で十分です。納税証明書が必要な場合は、どちらの方式でも領収証書が発行されないため、金融機関や市の窓口での納付を選ぶ必要がある点だけ覚えておくとよいでしょう。

まとめ

モバイルレジからeL-QRまでの10年は、八王子市が一度に完成形を作ったのではなく、コロナ禍という外的要因や全国制度の切り替えに合わせて、少しずつ選択肢を積み重ねてきた歴史です。複数の方式が並存する現状はやや複雑に見えますが、自分が普段使っている決済手段や、納税証明書が必要かどうかで選べば、迷う場面は多くありません。

この連載の他の記事

連載「市役所とデジタル」は、八王子市が進めるデジタル化の取り組みを一つずつ辿るシリーズです。

参考文献

八王子市「コンビニ窓口・モバイルレジでの納付について」 / 八王子市「『PayPay』を利用した納付」 / 八王子市「『J-Coin Pay』を利用した納付」 / 八王子経済新聞「八王子市、市税納付にキャッシュレス決済導入へ 新型コロナ受け、計画前倒し年内にも」(2020年9月8日) / 総務省「地方税統一QRコードを活用した地方税の納付の開始」 / 八王子市「『地方税統一QRコード(eL-QR)』を活用した納税について」 / 八王子市「市税および国民健康保険税のキャッシュレス納付について」 / 八王子市「スマートフォンでの納付について よくある質問」 / 八王子市「税に関するお知らせ」 / タマイーブックス「八王子市 市税白書 令和6年度(2024年度)版」

この記事は連載「市役所とデジタル」第13話です (全15話・更新中)

カスタマーハラスメント対策、2026年10月に義務化 —— 桑都の商店・工房は何を準備すればいいか

暮らしと法律 · 7分

読む

Support

この記事が面白かったら、書き手の活動を応援していただけると励みになります。

※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます

カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。