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工芸とデジタル · 公開: 2026.08.29 · 更新: 2026.09.14 · 7分で読めます

八王子市の「電話に出るAI」実証実験 —— ゼネラルのGRANTOWNは、ごみ・税の問い合わせをどう変えたか

八王子市が2026年2月〜3月に行ったAI電話応対の実証実験。ごみ・税の問い合わせを対象にした「GRANTOWN」の仕組みと、都内26市で初とされたこの取り組みのその後を一次資料から整理する。

古文書の和紙がデジタルの格子に変わっていく抽象イラスト

八王子市は令和8年(2026年)2月16日から3月19日にかけて、AI音声システムを使った電話応対の実証実験を行いました。対象は「ごみ・資源物の出し方」と「税に関する一般的な問い合わせ」の2分野。専用番号に電話をかけるとAIオペレーターが音声で自動応答し、答えられない内容だけ担当課へ転送する仕組みです。タウンニュースの報道では多摩地域26市で初の試みとされたこの取り組みが、なぜこの2分野を選び、どんな技術で動き、その後どう展開しているのかを一次資料から整理します。


連載「市役所とデジタル」第8回|この連載をまとめて読む

八王子市で始まった「電話に出るAI」、都内26市で初の試み

八王子市は、AI音声コミュニケーションシステムを手がける株式会社ゼネラル(神奈川県川崎市)と共創するかたちで、AIを活用した電話応対の実証実験を実施しました。期間は令和8年(2026年)2月16日(月)から3月19日(木)まで。タウンニュースの報道によれば、この取り組みは多摩地域26市(東京都市長会区分。都区部・島嶼部を除く、八王子市・立川市・町田市・日野市・多摩市・府中市などを含む多摩地域の市部)で初の試みとされています。

同時期には、神奈川県厚木市でも同じシステムを使った実証実験が行われました。期間は2月9日から3月9日までで、八王子市より1週間早く始まり、10日早く終わっています。電波タイムズの報道では、この2市での実証実験がセットで報じられており、システムを手がけるゼネラルにとって都県をまたいだ同時展開だったことがうかがえます。東京都と神奈川県、都県境をまたぐ2つの市役所でほぼ同時期に実証実験が組まれた点は、GRANTOWNというシステムそのものが特定の自治体に限らず横展開を前提に設計されていることを示す一例といえます。

八王子市がこの実証実験に踏み切った目的について、八王子経済新聞は「迅速な案内による市民サービス向上や、効率的な行財政運営」を挙げ、市職員の電話対応業務の負担軽減をねらったものと報じています。

実証実験のパートナーとなった株式会社ゼネラルは、神奈川県川崎市高津区に本社を置く企業で、1936年(昭和11年)1月15日の設立です。もとは「株式会社富士通ゼネラル」の名で空調機器(エアコン等)を主力事業としてきたメーカーで、2024年以降の資本異動を経て、現在は株式会社パロマホールディングスグループの傘下に入っています。資本金は182億6,000万円、従業員数は単独1,684名・連結8,291名(2025年12月末時点)で、コーポレートスローガンとして「Creating a Life Conditioner」を掲げています。空調機器で培ってきた「快適な生活環境をつくる」という発想を、電話応対という別の生活インフラの快適さに広げた取り組みが、今回のGRANTOWNだと位置づけることができます。

なぜ「ごみ」と「税」の問い合わせが選ばれたのか

対象業務に選ばれたのは、市民からの問い合わせが特に多く、かつ質問内容が定型的な2分野です。ごみ・資源物の出し方に関する問い合わせは月あたり約3,800件にのぼり、税に関する一般的な問い合わせは、確定申告・納税シーズンにあたる1月から3月にかけて1日あたり100〜150件寄せられるとされています。単純に日数を掛け合わせると、この3か月間だけで税に関する問い合わせは9,000件から1万3,500件程度に達する計算になり、ごみの問い合わせと合わせて年間を通じて相当な件数が職員の対応時間を占めていることがうかがえます。

利用の流れはこうです。利用者が専用の電話番号にかけると、AIオペレーターの音声案内に従って質問内容を話します。AIが回答できる内容であればその場で音声で自動回答し、対応できない内容であれば市役所の担当課へ電話を転送します。ただし担当課への転送は市役所の開庁時間内に限られ、閉庁時間帯は転送せずに開庁後の再連絡を促し、着信履歴を残す設計になっています。一方で、AIオペレーターによる応答自体は24時間365日行われます。

つまり「いつでも一次対応はしてもらえるが、人による解決は開庁時間内」という役割分担で、問い合わせが集中する時間帯・季節の負荷を減らすことがねらいだと読み取れます。

GRANTOWNの仕組みとHmcommとの提携

使用されたシステムは、ゼネラルが手がけるSaaS型AI音声コミュニケーションシステム「GRANTOWN(グランタウン)」です。24時間365日応答する設計で、リアルタイムの音声認識・音声応答により、電波タイムズの表現を借りれば「オペレーターと会話しているように自然で滑らかなやり取り」を目指したシステムとされています。通話内容は自動的にテキスト化されてシステム内に保存され、部局間での情報共有に活用できる仕組みも備えています。

技術基盤には、Hmcomm株式会社(東京都港区)の音声認識・自動応答技術が使われており、ゼネラルとHmcommは令和8年(2026年)2月3日に業務提携契約を締結しています。実証実験の開始(2月16日)の2週間ほど前にあたり、提携から間を置かずに自治体での実証実験に踏み切ったスピード感がうかがえます。

通話内容が自動でテキスト化される点は、単に記録を残すだけでなく、部局をまたいだ情報共有の仕組みとしても意味を持ちます。電話でのやり取りをその都度職員が手入力で記録し直す手間がなくなれば、担当課への引き継ぎや、同じ問い合わせが繰り返された際の対応履歴の確認が早くなります。エアコンのようなハードウェア機器で培われてきたメーカーが、音声認識技術を持つHmcommと組んでソフトウェア側のサービスを組み立てた点も、今回の実証実験の構図として押さえておきたいところです。

なお、本連載「市役所とデジタル」では第4回・第6回で、生成AIを使った福祉・悩み相談窓口「はちここ」(都内自治体初として2025年1月〜4月に試行)を取り上げています。「はちここ」が対話を通じた相談支援を目的とするのに対し、今回のGRANTOWN実証実験はごみ・税という定型的な行政案内業務の自動応答が目的で、対象業務・技術ベンダー・目的のいずれも異なる別の取り組みです。八王子市が同じ時期にAI活用の実証実験を複数の分野で並行して進めていることが、この2つを比べるとわかります。

実証実験のその後 —— 2026年4月の正式提供と首都圏に広がる「AI窓口」

ゼネラルは実証実験の完了後、2026年4月以降にGRANTOWNの正式な提供(販売)を開始する予定と報じられています。電波タイムズの記事でも「2026年4月からの提供開始に先立ち、2月から3月にかけて八王子市と厚木市で実証実験を実施」という記述があり、今回の取り組みが正式サービス化前のパイロットという位置づけだったことが複数の報道で一致しています。

日本経済新聞は、職員確保が難しくなるなかで首都圏の自治体が住民対応の一部をAIに代替させ始めている状況を報じています。同記事では、東京都大田区・品川区が電話応対にAIを活用し、港区・埼玉県草加市・千葉県白子町が庁舎の総合窓口にAIを導入する事例が紹介されています。大田区の事例として紹介されているのは、防災機器の支給制度に関する問い合わせで、「あなたが支給対象かを調べます。お住まいの町の名前を教えてください」という形でAIが対話しながら案内する応答です。対象業務は八王子市のごみ・税の問い合わせとは異なりますが、電話をかけてきた住民の状況に応じてAIが一次的な案内を行うという設計思想は共通しています。

このように、対象業務や導入形態はそれぞれ異なるものの、「電話・窓口対応をAIに代替させる」という潮流が首都圏の複数自治体で同時多発的に進んでいることがわかります。八王子市のGRANTOWN実証実験も、この流れのなかに位置づけられる取り組みのひとつといえます。なお、実証実験が終了した2026年3月19日から本稿執筆時点までの間、八王子市における応答成功率や転送件数の増減、市民満足度といった効果検証の結果、および本格導入の可否についての続報は、今回のリサーチの範囲では確認できていません。

まとめ

八王子市が2026年2月から3月にかけて行ったAI電話応対の実証実験は、問い合わせが集中する「ごみ」と「税」の2分野に的を絞り、GRANTOWNというSaaS型システムでAIによる一次対応と人による転送対応を組み合わせる形で進められました。24時間365日応答するAIと、開庁時間内の人による対応を役割分担させる設計は、職員の負担軽減と市民の利便性のどちらか一方だけを追うのではなく、両立を意識したものだといえます。2026年4月にはシステムの正式提供が予定されており、大田区・品川区・港区など首都圏の他の自治体でも住民対応の一部をAIに委ねる動きが広がっています。八王子市がこの後どう本格導入を判断するかは、続報を待つ必要があります。


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連載「市役所とデジタル」は、八王子市の行政サービスがデジタル化でどう変わってきたかを一つずつ追うシリーズです。

参考文献

この記事は連載「市役所とデジタル」第8話です (全15話・更新中)

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。