本文へスキップ
あと7分 購読

工芸とデジタル · 公開: 2026.11.02 · 7分で読めます

八王子市のオープンデータ、何が使えるのか —— 2016年の「税金はどこへ行った」から、Code for Hachiojiが紡いだ市民エンジニアの10年

和紙の上に流れる抽象的なデータの光の帯

八王子市は、人口・財政・まちづくり・防災など19分野・60件を超える行政データを、誰でも二次利用できる形で公式ホームページに公開しています。使うときの条件は「CC BY 4.0」という一つのライセンスに統一されており、出典を示せば加工も再配布もできます。この仕組みがいつ始まり、どこまで広がり、実際に誰が使っているのかを整理します。

連載「市役所とデジタル」第15回|この連載をまとめて読む


結論 —— 19分野・60件超が、CC BY 4.0で誰でも使える

八王子市公式ホームページの「オープンデータカタログページ」には、市税データ、自治体標準オープンデータセット、八王子基礎データ集をはじめ、教育・画像・統計・人口・まちづくり・インフラ・防災・防犯・交通・子育て・市政・経済・環境・保健衛生・福祉関連など、確認できる範囲で19分野にわたるデータ一覧が並んでいます。東京都オープンデータカタログサイトで「八王子市」をキーワードに検索すると、60件を超えるデータセットが見つかります(随時更新されるため件数は変動します)。

市は、これらのデータを「行政が保有している公共データについて、誰もがインターネット上で容易に利用(加工、編集、再配布等)できるよう、二次利用可能なルールで公開する取組」と定義し、目的を「市民生活の向上及び新事業の創出等を図ること」としています。つまり、単に閲覧できるというだけでなく、市民や企業が自由に加工・再利用できる状態を目指した仕組みなのです。

この「公開して終わり」にしない設計が、八王子市のオープンデータを特徴づけています。どのような経緯で始まり、どのような条件で使えるのかを、以下で順に見ていきます。


なぜ始まったのか —— 2016年「税金はどこへ行った。八王子」と官民データ活用推進基本法

検索で確認できた範囲では、平成28年(2016年)2月1日に、オープンデータを活用したアプリケーション「税金はどこへ行った。八王子」が、市公式ページの「オープンデータを活用したアプリケーション」コンテンツに掲載されました。これは、市民が納めた税金がどの分野にどれだけ使われているかを可視化するサービスです。同じ平成28年(2016年)版として「統計八王子関連オープンデータ一覧(平成28年版)」が、東京都オープンデータカタログサイトにデータセットとして登録されていることも確認できます。

この時期は、国の制度面でも大きな動きがありました。平成28年(2016年)に成立した「官民データ活用推進基本法」第9条は、都道府県に対して官民データ活用推進の基本計画策定を義務付け、市町村に対しては同様の計画策定を「努めること」と定める努力義務にとどめています。都道府県単位では計画策定が義務であるのに対し、八王子市を含む市町村は努力義務止まりという法的な位置づけの違いが、自治体ごとの公開範囲や更新頻度のばらつきの一因になっていると考えられます。

もっとも、オープンデータ公開事業そのものを八王子市がいつ「市の正式な事業」としてスタートさせたかを明記した単一の記述は、今回のリサーチでは見つかっていません。「税金はどこへ行った。八王子」の公開時期と統計データセットの登録時期という二つの状況証拠から、2016年前後に取組が本格化したとみるのが妥当です。


使うときの条件 —— CC BY 4.0のルールと禁止事項

八王子市のオープンデータカタログが採用しているのは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの一つ「CC BY 4.0」(表示)です。利用者は、たとえば「『データ名』八王子市 CC BY 4.0」のような形式で出典を明示すれば、データの加工・編集・再配布が可能になります。

単純な数値データや単純な表形式のデータ自体は、そもそも著作物として認められないため、本来は著作権によるCC BY表示義務の対象外になる場合が多いといえます。それでも市は、利用ルールを分かりやすく統一するため、一律でCC BY 4.0を適用する運用を取っています。使う側にとっては、データごとに利用条件を確認し直す手間が減るという利点があります。

一方で、無制限に何でも許されるわけではありません。人権侵害や個人の安全を脅かす行為、法令や公共の秩序に違反する利用は禁止されています。また市は、公開しているデータの正確性を保証せず、利用によって生じた損害について責任を負わない旨も明記しています。使う側は「公式データだから無条件に正確」と思い込まず、自己の責任で検証した上で活用する姿勢が求められます。


広がった範囲 —— 19分野のカタログと「八王子基礎データ集」120項目

現在のカタログは、市税オープンデータ、自治体標準オープンデータセット、八王子基礎データ集に加え、教育関連・画像・統計・人口・まちづくり・インフラ・防災・防犯・交通・子育て・市政(組織・議会等)・経済・環境・保健衛生・福祉関連など、確認できた範囲で19の分野別一覧ページにまで広がっています。

その中核をなすデータセットの一つが「八王子基礎データ集 ~はちおうじを知り、未来を描く~」です。人口統計、財政情報、福祉、教育、産業、環境など、確認できた範囲で120項目にわたる市の基本統計データを網羅しており、ほぼ全ての個別データはExcel形式(.xlsx)で、全体概要はPDF形式でも提供されています。120項目には「令和2年(2020年)12月」という統一の作成日時が記載されており、少なくともこの時点で現行版が整備されたことが分かります。ページ自体の更新日は「令和5年(2023年)4月1日」と確認できますが、データの中身がどこまで定期更新されているかは、今回のリサーチの範囲では個別には確認できていません。

公開データが19分野・60件超に及ぶ一方で、作成時点が固定されたまま更新実態が見えにくいデータセットも存在するという構図は、「公開してあるが更新が追いついていない」という、自治体オープンデータ全般にしばしば指摘される課題と無縁ではないとみられます。


行政だけでは終わらない —— Code for Hachiojiという市民エンジニアの10年

行政がデータを「開く」だけでなく、それを実際に「使う」側として10年以上活動してきたのが、市民コミュニティ「Code for Hachioji」です。2014年に設立され、エンジニアと非エンジニアの双方が参加できる場として運営されており、拠点はコワーキングスペース「八王子8Beat」です。

確認できる主な活動年表を見ると、2014年12月に生活習慣病をテーマとした「Healthcare Hackathon in Hachioji」を開催し、2015年2月には文化・歴史データの活用をテーマとした国際イベント「IODD2015 in 八王子」を開いています。同年4月には東京工科大学内に「オープンデータ・ラボ」を設置し、2016年3月には高尾山ビーコンプロジェクト関連の「IODD2016」を開催しました。平成29年度(2017年度)から令和元年度(2019年度、2020年3月まで)にかけては、八王子市を含む南多摩地域の市が参加する「南多摩5市オープンデータ利活用推進事業」が実施されています。

市民が実際にデータを作り出した例として、2023年8月8日(「ハチの日」「八王子の日」に当たる日)に開かれたまちあるき形式のシビックテック実践イベントが挙げられます。参加者は12人のコントリビューターと大学生サポーター、中高生を含む複数チームで構成され、教育用コンピュータ「IchigoJam」のWeb版を使ったプログラミング体験、3チームに分かれての市街地「データ収集ウォーキング」、iPhone 12 ProのLiDARセンサーを用いた対象物の立体スキャン、GitHubを用いた共同開発などを実践しました。成果として、市内の日本遺産関連スポット20件の情報をまとめた「八王子日本遺産ラッピング20」がCSV形式のオープンデータとして整備され、3チームからはそれぞれ「Hachioji History Observer」「ハチスタ」「MYST8」と名付けられたWebアプリの提案・開発が行われました。イベント終了時には、参加者全員に市長名の修了証書が授与されたということです。2026年2月には「消費者フェスティバル八王子2026」に協賛し、Webスタンプラリーを開発するなど、2014年の発足から10年以上にわたり継続的に活動が続いています。


まとめ

八王子市のオープンデータは、2016年前後の公開開始から、2017〜2020年度の広域連携を経て、現在の19分野・60件超というカタログへと広がってきました。その利用条件は「CC BY 4.0」という一つのライセンスに統一され、出典を示せば誰でも加工・再配布ができます。そしてそれを「公開されているだけ」で終わらせず、2014年の設立から10年以上にわたりハッカソンやまちあるきを通じて実際のアプリやデータセットに変換し続けてきたのが、Code for Hachiojiという市民エンジニアの存在でした。行政が開いたデータを、どう受け取り、どう使うか——その答えの一つが、この街にはすでにあります。


この連載の他の記事

連載「市役所とデジタル」は、八王子市の行政DXの歩みを一つずつ辿るシリーズです。


参考文献

八王子市ホームページ「オープンデータとは」「オープンデータカタログページ」「統計八王子関連オープンデータ一覧」「八王子基礎データ集 オープンデータ一覧」 / 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「官民データ活用推進基本法について」(平成29年2月) / Code for Hachioji(公式サイト)

この記事は連載「市役所とデジタル」第17話です (全17話・更新中)

戸籍の氏名振り仮名記載制度 —— 届出期限(2026年5月25日)後、通知を放置した戸籍はどうなるか

暮らしと法律 · 7分

読む

Support

この記事が面白かったら、書き手の活動を応援していただけると励みになります。

※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます

カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。