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暮らしと法律 · 公開: 2026.09.30 · 7分で読めます

東京都の最低賃金、10月1日から1,280円に —— 誰が対象で、何を確認すればよいか

2026年10月1日、東京都の最低賃金が時間額1,280円に改定される。誰に適用され、何が対象の賃金で、違反すればどうなるのか。雇う側・働く側それぞれが確認すべき点を整理する。

古風な室内に置かれたヴィンテージの天秤ばかり

2026年10月1日、東京都の最低賃金が時間額1,280円に改定されます。改定前より54円高く、全国で最も高い水準です。アルバイトの時給明細を見て「あれ、金額が変わった」と気づく人もいれば、給与計算をする立場で対応に追われる人もいるはずです。対象になる働き方の範囲、比較対象になる賃金の中身、そして違反した場合の扱いまで、10月1日を境に確認しておきたい点を整理します。


結論:10月1日から時間額1,280円に、対象はほぼすべての働く人

東京都の地域別最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,280円に改定されます。改定前の1,226円から54円、率にして4.4%の引き上げです。

この改定は、2026年9月1日に東京労働局長が官報公示によって正式決定したものです。手続き上は8月5日の東京地方最低賃金審議会の答申を踏まえた決定で、実際に効力を持つのは10月1日からになります。すでに官報での公示は済んでいるため、10月1日以降は東京都内で働くほぼすべての人にこの金額が適用されます。

東京都は2020年から2025年の5年間で最低賃金が213円(21.0%)上昇しており、今回の改定もその流れの延長線上にあります。全国最高水準を維持し続けている点も変わりません。

ここで押さえておきたいのは、最低賃金の改定は自治体の条例ではなく、国の法律である最低賃金法に基づく手続きだという点です。都道府県ごとに金額は異なりますが、決め方の仕組み自体は全国共通です。東京都の場合は東京労働局が窓口となり、審議から公示までの実務を担っています。


なぜ引き上げられたのか——諮問から答申までの経緯

最低賃金の改定は、毎年決まった手続きを経て決まります。2026年は次のような流れでした。

まず2026年6月30日、東京労働局長が東京地方最低賃金審議会(会長・本田敦子氏)に改定額を諮問しました。審議会は労働者側・使用者側・公益を代表する委員で構成され、地域の実情を踏まえて金額を検討します。

審議の土台になったのが、2026年7月28日に中央最低賃金審議会が示した引き上げ目安です。都道府県はA〜Cのランクに分けられ、東京都は最も引き上げ幅の大きいAランク(54円)に区分されました。この目安を受け、東京地方最低賃金審議会は8月5日、「時間額1,280円への改正が適当」と答申しています。

つまり今回の54円という金額は、中央の審議会が示した目安を東京都の審議会がそのまま採用した形です。答申から官報公示までの約1か月は、事業者への周知期間としての性格も持っています。


誰が対象になるのか——雇用形態を問わない適用範囲

最低賃金と聞くと「アルバイト・パートの話」と思われがちですが、実際の適用範囲はもっと広いものです。

地域別最低賃金は、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者など雇用形態を問わず、東京都内の事業場で働くすべての労働者と、その使用者に適用されます。フルタイムの正社員であっても、時間当たりに換算した賃金が最低賃金額を下回ってはいけません。

派遣労働者については少し注意が必要です。適用されるのは派遣元の所在地ではなく、実際に働く派遣先の事業場が所在する都道府県の最低賃金です。都外の派遣会社に登録していても、東京都内の職場で働いていれば東京都の最低賃金が適用されます。学生アルバイトや高齢者の再雇用など、年齢や雇用の位置づけによる例外もありません。

このように、地域別最低賃金は「誰が」ではなく「どこで働くか」を基準にした、非常に広い網をかける制度だと理解しておくと分かりやすくなります。

なお、業種によっては地域別最低賃金とは別に「特定最低賃金」が設定されている場合があります。特定地域内の特定産業で基幹的な業務に従事する労働者に適用されるもので、地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、より金額の高い方が実際の最低賃金として扱われます。自分の勤め先の業種に特定最低賃金が設定されているかどうかは、東京労働局の案内で個別に確認できます。


対象になる賃金・ならない賃金の見分け方

もう一つ見落とされやすいのが、「何を」最低賃金額と比較するのかという点です。

最低賃金と比較する対象は、毎月支払われる基本的な賃金に限られます。時間外・休日・深夜の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与といった諸手当は、比較の対象から除外されます。つまり、基本給が低くても諸手当を含めた総支給額が最低賃金を上回っていれば問題ない、という考え方は成り立ちません。基本給の部分だけで最低賃金額を満たしている必要があります。

月給制や日給制で働いている場合は、支払われる賃金をいったん時間当たりの金額に換算したうえで、時間額の最低賃金と比較します。たとえば月給制であれば、月給を月の所定労働時間で割った金額が比較の対象になります。時給制のアルバイト・パートであれば、その時給がそのまま比較対象です。

自分の給与明細を見て、基本給の欄が実際に何時間分の労働に対応しているかを確認することが、最低賃金を満たしているかどうかのチェックの出発点になります。

たとえば、月給制で月の所定労働時間が160時間、基本給が20万円という場合、時間当たりに換算すると1,250円になります。この金額が改定後の1,280円を下回っていれば、通勤手当や家族手当をどれだけ手厚くしていても、最低賃金法上は問題があることになります。逆に基本給の換算額が1,280円を上回っていれば、諸手当の有無にかかわらず基準は満たしています。事業者側は、10月1日を境にこの換算額が基準を下回っていないかを、給与体系ごとに確認しておく必要があります。


違反するとどうなるか——罰則と、任意には使えない減額の特例

最低賃金は「守ることが望ましい目安」ではなく、法律で強制力を持つ最低ラインです。

地域別最低賃金額を下回る賃金しか支払わなかった使用者には、最低賃金法第40条により50万円以下の罰金が科されます。この上限額は2008年7月の法改正で、それまでの2万円から大幅に引き上げられたものです。労働基準法上の賃金未払いとは別に、最低賃金法独自の罰則として規定されている点も押さえておく価値があります。

一方で、最低賃金には「減額の特例」という例外も存在します。対象になり得るのは、精神または身体の障害により労働能力が著しく低い者、試の使用期間中の者、基礎的な技能・知識を習得させるための職業訓練を受ける者、軽易な業務に従事する者、断続的労働に従事する者などです。

ただし、この特例は使用者が自己判断で適用できるものではありません。都道府県労働局長への申請と許可を受けた場合に限り認められる制度で、たとえば試用期間中の減額であれば、本採用後の賃金水準が最低賃金と同程度であることなど、合理的な理由が求められます。「試用期間だから」「研修中だから」という理由だけで、許可なく最低賃金を下回る賃金を支払うことはできません。

働く側が「最低賃金を下回っているのでは」と感じた場合は、勤務先に直接確認するほか、最寄りの労働基準監督署に相談する方法があります。労働基準監督署は最低賃金法・労働基準法の履行確保を担う行政機関で、匿名での相談・申告にも対応しています。給与明細や勤務記録など、実際の労働時間と支払額が分かる資料を手元に用意しておくと、相談がスムーズに進みます。


過去の推移から見る上昇ペース

今回の改定を単発の出来事として見るより、ここ数年の流れの中に置いてみると、上昇のペースが見えてきます。

2025年10月の改定では、前年の1,163円から63円(5.4%)引き上げられて1,226円になりました。今回の2026年10月改定(54円・4.4%)は、金額としては前回よりやや小さいものの、引き続き大幅な引き上げが続いています。

2020年から2025年までの5年間で見ると、東京都の最低賃金は213円、率にして21.0%上昇しています。単年で見れば数十円の変化でも、数年単位で積み重なると賃金水準は大きく変わっていることが分かります。事業者にとっては、毎年の人件費上昇を織り込んだ経営計画が必要になっている状況とも言えます。

2025年・2026年ともに、夏に中央最低賃金審議会が引き上げ目安を示し、東京地方最低賃金審議会が答申を出し、10月1日に発効するという同じ手順・同じ時期で改定が実施されています。アルバイト・パートの時給を最低賃金に連動させている職場では、この10月というタイミングをあらかじめ意識しておくことで、急な賃金改定への対応に追われずに済みます。


まとめ:10月1日を境に、雇う側も働く側も確認しておきたいこと

東京都の最低賃金は2026年10月1日から時間額1,280円になり、正社員・パート・アルバイト・派遣を問わず、都内で働くほぼすべての労働者とその使用者に適用されます。比較の対象になるのは基本的な賃金部分だけで、通勤手当や賞与などは含まれません。

違反した場合は最低賃金法第40条により50万円以下の罰金が科され、減額には都道府県労働局長の許可が必要という例外はあっても、使用者の判断だけで最低賃金を下回る支払いをすることは認められていません。

給与明細を見て「基本給が何時間分の労働に対応しているか」を確認することが、雇う側にとっても働く側にとっても、10月1日以降の最初の一歩になります。本記事は制度の概要を整理したものであり、個別の賃金計算や許可申請については、東京労働局または最寄りの労働基準監督署、社会保険労務士にご相談ください。


参考文献

東京労働局「東京都最低賃金を1,280円に引上げます」 / 東京労働局「東京都最低賃金の54円引上げを答申」 / 厚生労働省「最低賃金制度の概要」 / 厚生労働省「最低賃金法」 / 東京労働局「最低賃金の減額の特例許可申請について~断続的労働に従事する者(最低賃金法第7条第4号)~」

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。