遠距離介護の交通費がかさむ。負担を軽くする制度と工夫
実家が遠方にあり帰省のたびに交通費がかさんでいる方へ、交通費そのものを減らす工夫と、時間・収入の負担を軽くする公的な制度(介護休業・介護休業給付金・医療費控除)を、公的資料をもとに整理します(2026年時点)。

この記事の目次
実家に帰るたびに、新幹線や飛行機の料金が重くのしかかる。毎回の出費に加えて仕事も休まなければならず、気づけば交通費だけで数万円というひと月もある。遠距離介護をしている方の多くが抱える悩みです。
結論から言うと、負担を軽くする手段は「交通費を減らす工夫」と「時間・収入の負担を公的な制度で補う」の2方向があります。交通費そのものを無料にする万能な制度はありませんが、介護休業・介護休業給付金といった制度を組み合わせることで、負担の総量を下げることは可能です。
この記事では、遠距離介護にかかる交通費の実態、時間を確保するための介護休業・介護休暇、収入を補う介護休業給付金、交通費そのものを抑える工夫、そして相談先の地域包括支援センターまでを、公的資料をもとに整理します(2026年時点の情報です)。
遠距離介護で交通費はどれくらいかかっているのか
介護のための帰省は、一度きりで終わるものではありません。ケアスル介護が実施したアンケートによると、帰省頻度は「週1〜3回程度」が47.9%で最も多く、「月1〜3回程度」が28.8%で続きます。月1回以上帰省している人は、全体の9割を超えています。
頻度が高いほど、交通費は積み重なっていきます。同調査では1往復の交通費について、「5,000円未満」と答えた人が67.1%で最多でした。一方で「1万円〜3万円未満」が12.3%、「3万円〜5万円未満」が5.5%おり、実家までの距離によっては、1回の帰省で数万円単位の出費になっている人も一定数存在します。
このアンケートは民間企業による調査であり、回答者の属性やサンプル数まではわかりません。ただ、「帰省のたびに交通費がかさむ」という悩みが一部の人に限った話ではなく、遠距離介護に共通する傾向であることは見て取れます。
交通費がかさみやすいのは、新幹線や飛行機を使う距離だけが理由ではありません。平日の夜に呼び出されて深夜バスや始発前の移動になれば、割引が使える時間帯を選べず、結果的に正規料金での移動が増えます。帰省のたびに宿泊が必要になる距離であれば、交通費に宿泊費が加わり、1回の出費がさらに重くなります。頻度と距離、そして「急な呼び出しかどうか」の組み合わせで、負担の大きさは人によって大きく変わってきます。
まず確保したいのは「時間」—介護休業・介護休暇の使い方
交通費の負担を考える前に、そもそも帰省する時間を確保できるかという問題があります。ここで使えるのが、育児・介護休業法に基づく介護休業と介護休暇です。
介護休業は、対象家族1人につき要介護状態に至るごとに1回、通算93日まで取得できる制度です。厚生労働省の資料によれば、3回まで分割して取得することも可能です。対象家族は配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫と定められています。
まとまった期間を休むのが難しい場合は、介護休暇の方が実用的です。対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで取得でき、1日・半日・時間単位での取得が認められています。通院の付き添いや役所・ケアマネジャーとの手続きなど、短期的な帰省に使う制度として用意されています。
介護休暇中の給与については、法律上の支払い義務はありません。就業規則によって無給としている企業が多いものの、企業によっては有給扱いにしている場合もあります。利用を考える際は、まず自社の就業規則と人事労務の窓口に確認するのが確実です。
介護休業・介護休暇はいずれも、雇用形態にかかわらず原則すべての労働者が対象です。ただし、入社間もない場合や、労使協定によって週の所定労働日数が少ない労働者を対象外としているケースもあります。「自分は対象になるのか」を帰省の予定が入る前に確認しておくと、急に休む必要が出たときにも落ち着いて動けます。申請は口頭の申出でも認められる場合がありますが、会社によって手続きの流れが異なるため、まずは人事労務の窓口に聞くのが近道です。
収入の67%を補う「介護休業給付金」
介護休業を取得すると、その期間の収入が心配になります。ここで雇用保険から支給されるのが介護休業給付金です。
厚生労働省のハローワークインターネットサービスによれば、支給額は「休業開始時賃金日額×支給日数×67%」で算出されます。支給は同一の対象家族につき93日を限度とし、介護休業と同じく3回まで分割して受給できます。
ただし、算定の基礎となる「賃金月額」には上限と下限があります。2026年時点では上限が546,600円、下限が96,090円で、これに基づく支給上限は月額約366,222円です。この金額は毎年8月1日に改定されるため、実際に利用する時点の金額はハローワークで確認する必要があります。また、支給期間中に会社から賃金が支払われた場合、賃金と給付金の合計が賃金日額×支給日数の80%を超えると、超えた分が減額される点も押さえておきたいところです。
申請の窓口は会社を通じたハローワークになります。制度の対象になるかどうかは雇用保険の加入期間などの条件によって変わるため、人事労務担当者や社会保険労務士に相談しながら進めるのが安全です。
介護休業給付金は、休業している間の収入をゼロにしないための制度であり、交通費そのものを補填するものではありません。それでも、収入の67%が確保できるとわかっていれば、「交通費を使って帰省する判断」自体がしやすくなります。収入面の見通しを立てたうえで、帰省の頻度や移動手段を考えるという順番で検討すると、不安を抱えたまま出費を重ねる状態を避けやすくなります。
交通費そのものを抑える・帰省の回数を減らす工夫
制度で時間と収入を補っても、交通費そのものが減るわけではありません。ここでは交通費を直接抑える工夫を見ていきます。
まず誤解しやすいのが医療費控除です。国税庁のタックスアンサーによれば、医療費控除の対象になる交通費は「通院のための公共交通機関(電車・バス等)の運賃」に限られます。タクシー代は病状から急を要する場合や公共交通機関が利用できない特別な事情がない限り対象外で、自家用車のガソリン代・駐車場代・有料道路利用料も対象になりません。介護のために実家へ帰省する交通費そのものは、この控除の対象には含まれない点に注意が必要です。通院に付き添うための交通費であれば対象になり得るため、両者を混同しないようにしてください。
帰省そのものの回数を減らすという発想も、負担を下げる手段のひとつです。前述のケアスル介護のアンケートでは、介護知識の情報源としてケアマネジャーを利用している人が74.8%にのぼります。帰省してまとめて相談する以外に、電話やオンラインでケアマネジャーと状況を共有する頻度を増やすことで、「様子を見るためだけの帰省」を減らせる余地がある人もいます。帰省が必要な場面と、電話・オンラインで十分な場面を分けて考えることが、交通費を抑える第一歩になります。
訪問介護・訪問看護・デイサービスといった介護保険サービスを組み合わせることも、間接的に交通費の負担を減らす手段になります。日常の見守りをサービス側に任せられる体制を整えておけば、「何かあったらすぐ帰らなければ」という不安が減り、緊急時だけ正規料金で移動する、計画的な帰省は早めに予約して割引運賃を使うといった判断がしやすくなります。どのサービスを組み合わせられるかは要介護度や地域の事業者によって異なるため、担当のケアマネジャーに相談しながら決めていくのが基本になります。
ひとりで抱えず、窓口に相談する
交通費や制度の使い方に迷ったとき、ひとりで抱え込む必要はありません。
厚生労働省によれば、地域包括支援センターは高齢者の総合相談・権利擁護・地域の支援体制づくり・介護予防の援助を行う、地域包括ケアの中核機関です。遠距離介護そのものの相談も含め、介護にまつわる悩みを広く受け止める窓口として機能しています。
設置数は全国5,487か所、支所(ブランチ)を含めると7,374か所にのぼります(令和7年4月末時点)。市町村が設置主体となっているため、実家がある地域の役所に問い合わせれば、最寄りの窓口を案内してもらえます。離れて暮らしていても、電話で相談できる場合が多いので、「まず電話してみる」という選択肢を持っておくとよいでしょう。
介護休業給付金の申請手続きで迷ったときは、会社の人事労務担当者や社会保険労務士に相談するのが近道です。社会保険労務士は、雇用保険の給付制度や会社の就業規則に詳しい専門家で、「自分のケースで介護休業給付金がもらえるのか」といった個別の確認に向いています。一方で、実家での介護サービスの組み方や施設選びは、地域包括支援センターやケアマネジャーが専門です。お金と時間の制度は社会保険労務士・会社の窓口へ、介護そのものの進め方は地域包括支援センターへ、と相談先を分けて考えると、動き出しやすくなります。
制度は複数あり、どれを組み合わせるかは働き方や家族の状況によって変わります。使える制度を一つずつ確認しながら、無理のない形に整えていくことが、遠距離介護を長く続けるための土台になります。
まとめ
遠距離介護の交通費は、距離が遠くなるほど、帰省の頻度が増えるほど重くなっていきます。交通費そのものを直接減らす制度は限られていますが、介護休業で時間を確保し、介護休業給付金で収入の一部を補い、電話やオンラインの相談を併用して帰省の回数そのものを見直すことはできます。
ひとつの制度だけで解決しようとせず、使える手段を組み合わせながら、負担の総量を少しずつ下げていく視点を持っておくとよいでしょう。
参考文献
ケアスル介護「遠距離介護の帰省頻度はみんなどのくらい?アンケートから分かったペースや費用を紹介!」 / 厚生労働省「育児・介護休業法について」 / 厚生労働省 ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付」 / 国税庁「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」 / 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
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