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仕舞手帖 · 公開: 2026.10.20 · 7分で読めます

親の介護は誰がみる?兄弟での役割分担の決め方

親の介護を兄弟間でどう分担すればよいか悩んでいる方へ、法律上の扶養義務の考え方、話し合いを始める前の整理、ケアマネジャーや地域包括支援センターの使い方を公的資料をもとに整理します(2026年時点)。

歴史的な城の石垣と伝統的な屋根

「実家が近いから」「女の子だから」という理由だけで、気づけば自分ひとりが親の介護を担っていた。きょうだいがいるのに、連絡しても動いてもらえない。そんな状況に疲れを感じている方は少なくありません。

結論から言うと、親の介護を兄弟姉妹の誰が担うかについて、法律は具体的な分担方法までは決めていません。民法は兄弟姉妹にも扶養の義務があると定めていますが、これは「同居して介護作業をしろ」という意味ではなく、経済的・精神的な支援を含めた抽象的な義務です。だからこそ、分担は家族間の話し合いと、外部の相談窓口を使った負担の外部化という2つの軸で考える必要があります。

この記事では、介護が一人に集中している現状のデータ、兄弟間の分担に関する法律上の位置づけ、話し合いを始める前に整理しておきたいこと、外部サービスで負担を分散する考え方、そして揉めたときの相談先までを、公的資料をもとに整理します(2026年時点の情報です)。

介護が一人に集中するとどうなるか

親の介護は、特定の家族に集中しやすい構造があります。厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」によると、要介護者等と同居する主な介護者のうち女性が68.9%を占めています。性別だけで役割が決まっているわけではありませんが、結果として女性、特に「実家に近い」「時間の融通がつきやすい」とみなされた一人に負担が偏りやすい傾向がうかがえます。

負担の集中は、介護する側の仕事にも影響します。総務省「令和4年就業構造基本調査」では、介護・看護を理由に過去1年間に離職した人が11万人にのぼり、5年前の調査(平成29年、約9.9万人)より増加しています。介護をしている人は629万人、そのうち仕事をしながら介護をしている有業者は365万人です。つまり、介護をしている人の半数以上が働きながら介護をしているにもかかわらず、離職に至るケースが一定数存在するということです。

同じ調査では、同居の主な介護者の年齢階級は60〜69歳が30.1%、70〜79歳が31.1%と、60代・70代が中心になっています。介護する側もすでに高齢に差しかかっている、いわゆる「老老介護」の状態が広く存在していることがうかがえます。子世代が「親の介護は配偶者である親同士に任せておけばよい」と考えていると、実際には高齢の親同士が互いを支え合いながら、どちらも限界に近づいている、という状況に気づきにくくなります。

この数字が示しているのは、「誰かが無理をすれば回る」という前提そのものが、長期的には成り立たないということです。兄弟姉妹が複数いる場合、早い段階で分担を話し合っておくことが、特定の一人の離職や心身の限界を防ぐ手段になります。

兄弟間の介護の分担に法律上の基準はあるか

「介護は長子がやるもの」「同居している人がやるもの」といった慣習的な考え方はありますが、法律上そのような規定はありません。

民法877条1項は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定めています。父母・子だけでなく、兄弟姉妹も法律上の扶養義務者に含まれるという点がここで重要です。同条2項では、特別な事情があれば家庭裁判所が三親等内の親族(おじ・おば等)にも扶養義務を負わせられると定められており、扶養義務の範囲は状況に応じて広がる仕組みになっています。

ただし、この扶養義務は「同居して介護作業を行う義務」ではありません。扶養とは経済的な援助や精神的な支えを含む広い概念であり、誰が実際に介護の手を動かすかという分担方法までを法律が決めているわけではないのです。この違いを理解していないと、「法律上、お前がやるべきだ」といった不正確な主張で話し合いがこじれる原因になります。

兄弟姉妹の間で扶養の負担について話し合いがまとまらない場合、または話し合いそのものができない場合には、家庭裁判所の調停・審判(扶養請求調停など)を利用して、負担の割合を定める手続きがあります。実際にここまで進むケースは限られますが、「話し合いで決まらなければ法的な手続きがある」という事実を知っておくだけでも、交渉の心理的なハードルが下がることがあります。個別の負担割合は家庭の事情によって大きく変わるため、具体的な金額や割合の見通しが必要な場合は弁護士に相談するのが確実です。

話し合いを始める前に整理しておくこと

兄弟間で「誰が何をやるか」を話し合う前に、まず現状を整理しておくと、感情的な対立を避けやすくなります。

最初の整理ポイントは、親がどの段階にあるかです。要介護認定を受けているかどうかで、使える制度や相談先が変わります。要介護認定を受けている場合は、ケアマネジャー(介護支援専門員)が本人・家族の相談に応じ、ケアプラン(介護サービス計画)を作成し、サービス事業者や市町村との連絡調整を行う役割を担います。まだ認定を受けていない場合は、まず地域包括支援センターに相談するのが入り口になります。

地域包括支援センターは、高齢者の総合相談・権利擁護・地域の支援体制づくり・介護予防の援助などを行う中核機関として、市町村が設置しています。65歳以上の高齢者とその家族であれば無料で利用できる公的な窓口です。「どこに相談すればいいか分からない」という段階でも使える窓口なので、兄弟間で何を話し合うべきかが見えていない時点でも、まず連絡してみる価値があります。

もう一つの整理ポイントは、各自の制約を可視化することです。仕事の状況、住んでいる場所からの距離、過去にどれだけ関わってきたか。これらを感情的な「ずるい」「不公平だ」という言葉ではなく、具体的な事実として兄弟間で共有できると、話し合いが「誰が悪いか」から「どう分担するか」に移りやすくなります。ケアマネジャーや地域包括支援センターの担当者を交えて話し合うことで、第三者の視点が入り、感情的な対立を避けやすくなる場合もあります。

役割分担の考え方と、外部サービスで負担を外に出す視点

役割分担を考えるとき、「誰が介護するか」だけに絞ってしまうと選択肢が狭くなります。もう一つの軸として、「どのサービスを使って負担を外部化するか」という視点を持つことが重要です。

先述のとおり、介護をしている人629万人のうち365万人が仕事をしながら介護をしています。つまり、介護者の多くは「介護に専念できる人」ではなく「仕事と両立させている人」が前提になっているということです。この前提に立つと、兄弟全員が同じように手を動かすことを目指すよりも、外部サービスを使いながら分担を組み立てる方が現実的な場合があります。

ケアプランには、ショートステイ(短期入所)やデイサービス(通所介護)など、家族以外が担う介護サービスを組み合わせることができます。例えば、同居している兄弟が日常の見守りを担い、離れて暮らす兄弟がショートステイやデイサービスの利用費を分担する、といった形も分担のひとつのあり方です。「現場に出る」ことと「費用を負担する」ことの両方を分担の対象として考えると、全員が同じ地域に住んでいなくても役割を持てる余地が広がります。

どのサービスを組み合わせられるかは、親の要介護度や住んでいる地域の事業者によって異なります。担当のケアマネジャーに相談しながら、兄弟それぞれが無理なく関われる形を一緒に組み立てていくのが現実的な進め方です。

揉めやすいポイントと専門家への相談先

介護の分担で揉めやすいのは、「誰が多く負担しているか」が可視化されていない場面です。時間的な負担、精神的な負担、金銭的な負担は、それぞれ別の軸で発生するため、「お金を出しているから十分」「現場にいるから十分」というどちらか一方の視点だけでは、もう一方の負担をしている兄弟の不満が解消されません。

繰り返しになりますが、民法877条に基づく扶養義務は、同居や介護の実作業そのものを法律で強制するものではなく、経済的・精神的な支援を含む抽象的な扶養義務です。この前提を兄弟間で共有できていないと、「法律上やるべきだ」という主張がかえって対立を深めることがあります。分担方法そのものは、法律ではなく話し合いで決めるべき領域だと理解しておくことが、不要な対立を避ける第一歩になります。

話し合いがどうしてもまとまらない、あるいは特定の兄弟が一切協力しないという状況が続く場合は、家庭裁判所の扶養請求調停を利用して負担割合を定める手続きがあります。ここまで進む前に、まずは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、第三者を交えた話し合いの場を作ることを検討してください。法的な手続きが必要かどうかの判断は個別の事情によって異なるため、具体的な検討段階に入った場合は弁護士に相談することをおすすめします。介護サービスの組み方や施設の利用については地域包括支援センター・ケアマネジャーへ、法的な負担割合の整理については弁護士へ、と相談先を分けて考えると、動き出しやすくなります。

まとめ

親の介護を兄弟間でどう分担するかについて、法律は具体的な方法までを決めていません。民法877条により兄弟姉妹にも扶養義務はありますが、それは同居や介護作業そのものを強制するものではなく、経済的・精神的な支援を含む抽象的な義務です。

分担を考える際は、「誰が現場に出るか」だけでなく「どのサービスを使って負担を外部化するか」という軸も合わせて検討してください。話し合いが難しいときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターといった第三者を交えることで、感情的な対立を避けやすくなります。どうしても分担が決まらない場合は、家庭裁判所の調停という手続きがあることも知っておくとよいでしょう。

参考文献

厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況」 / 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」 / e-Gov法令検索「民法」第877条 / 厚生労働省「地域包括ケアシステム」

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。