親を呼び寄せて同居するデメリットは? 近居・遠距離との比較で見える負担
親との同居には住宅改修費・介護離職リスク・老老介護化という負担が伴います。二世帯住宅化の費用相場、介護休業制度、近居・遠距離との違いを、内閣府・総務省・厚生労働省の公的データにもとづいて整理します(2026年時点)。

この記事の目次
「そろそろ親を呼び寄せて一緒に暮らそうか」と考えたとき、まず気になるのは「同居すれば安心」という前提が本当に正しいのかということではないでしょうか。結論から言うと、同居には住宅改修費・介護離職のリスク・老老介護化という、呼び寄せる前には見えにくい負担が伴います。一方で、同居以外にも近居・遠距離(現状維持)という選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
この記事では、呼び寄せ同居の具体的な負担を公的データで整理し、近居・遠距離との比較、同居前に知っておきたい介護休業制度、将来の実家処分にも関わる相続税の制度まで、内閣府・総務省・厚生労働省などの公的情報にもとづいて解説します。
「同居すれば安心」とは限らない。まず知っておきたい実態データ
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、65歳以上の者のいる世帯は令和5年現在2,695万1千世帯で、全世帯(5,445万2千世帯)の49.5%を占めています。この世帯構造を見ると、昭和55年には三世代世帯が半数以上を占めていましたが、令和5年では「夫婦のみの世帯」と「単独世帯」がそれぞれ約3割を占める構成に大きく転換しています。
つまり、現在の高齢者世帯の多数派は、子と同居していない世帯です。親世代・子世代のどちらにとっても、三世代同居はすでに「標準」ではなく、あらためて選び直す選択肢の一つになっているという前提から考える必要があります。
同じ白書では、65歳以上の一人暮らしの割合(人口比)も増え続けていることが示されています。男性は昭和55年の4.3%から令和2年には15.0%に、女性は昭和55年の11.2%から令和2年には22.1%に上昇し、令和32年にはそれぞれ26.1%、29.3%まで増えると見込まれています。親が一人暮らしを続けること自体が珍しくなくなっているなかで、「呼び寄せて同居する」という選択は、数ある選択肢のうちの一つとして位置づけたうえで検討する必要があります。
呼び寄せ同居のデメリット①:住宅改修費が同居の形によって大きく変わる
親を呼び寄せて同居する場合、多くの家庭で課題になるのが住宅の改修費です。二世帯住宅化の費用相場は、同居の形によって大きな差があります。パナソニックが公開している二世帯住宅リフォームの費用相場によれば、間取りをほぼ変えずに部屋を増やす程度の「完全同居型」は150万〜300万円程度、水回りの一部を共有する「部分共有型」は100万〜1,000万円程度、玄関・水回りを完全に分ける「完全分離型」は2,000万〜3,000万円程度が目安とされています。
同じ「呼び寄せ同居」という言葉でも、プライバシーをどこまで分けるかによって、かかる費用の桁が変わってくる点は押さえておきたいところです。工事内容別に見ても、キッチンを増設する場合は30万〜300万円程度、浴室を増設する場合は70万〜250万円程度、トイレの増設は50万〜100万円程度が目安とされており、「どこを分けるか」の組み合わせ次第で総額が積み上がっていきます。
なお、国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」を活用すると、要件を満たす工事で200万円/戸程度の補助を受けられる場合がありますが、年度ごとに予算や要件が変わるため、利用を検討する場合はリフォーム会社や自治体の窓口に最新の条件を確認することをおすすめします。また、工事費用は業者によって差が出やすいため、複数社から見積りを取って比較することが前提になります。
呼び寄せ同居のデメリット②:介護離職・老老介護のリスクが近づく
呼び寄せ同居を考える背景には「将来の介護に備えたい」という動機もあるかと思いますが、同居が必ずしも介護の負担を軽くするとは限りません。総務省統計局の「令和4年就業構造基本調査の結果」によると、2022年10月までの1年間で介護・看護のために離職した人は10万6千人にのぼります。これは2017年の前回調査(9万9千人)から7千人増加しており、働きながら介護をする人自体も増えているなかで、介護離職も減っていない状況がうかがえます。
同居が始まると、日常的に親の様子が見える分、介護が必要になった際に本人や家族が仕事を続けながら対応する負担が増えやすくなります。実際に、厚生労働省が公開している介護休業制度特設サイトでは、55〜59歳の層で12.3%がすでに介護に直面しているという統計が示されており、呼び寄せ同居を検討する年代が、そもまま介護と仕事の両立を迫られる年代と重なっていることがうかがえます。
さらに、同じ厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」では、要介護者等と同居する主な介護者の年齢組み合わせについて、「65歳以上同士」が61.9%、「75歳以上同士」が37.1%に達していると報告されています。呼び寄せる側の子世代自身が高齢になってから同居・介護を担うケースも少なくなく、「子が親を支える」という単純な構図だけでは捉えきれない実態がある点は、同居を考えるうえで知っておきたい事実です。
同居を始める時点では親が元気でも、数年後には子世代自身が50代・60代に差しかかっていることは珍しくありません。「呼び寄せたときは安心できたが、数年後に自分も体力的につらくなった」という状況が起こりうることを、同居を決める前の段階で想定しておく必要があります。
同居前に知っておきたい支援制度:介護休業・介護休暇
同居を選んだ場合に備えておきたいのが、仕事と介護を両立するための公的な支援制度です。厚生労働省の「介護休業制度特設サイト」によると、介護休業は対象家族(配偶者〈事実婚を含む〉・父母・子・祖父母・兄弟姉妹・孫・配偶者の父母)1人につき通算93日まで、3回に分けて取得することができます。要件を満たせば、休業開始時の賃金日額の67%相当額が介護休業給付金として雇用保険から支給されます。
申出は休業開始予定日の2週間前までに書面で事業主に行う必要があるため、同居を始めるタイミングが見えてきた段階で、早めに勤務先の制度や手続きを確認しておくと安心です。なお、2025年4月1日からは介護休業制度の拡充も施行されており、詳細は厚生労働省や勤務先の人事担当に確認することをおすすめします。
介護休業とは別に、通院の付き添いなど短時間の対応に使える「介護休暇」という制度もあります。対象家族が1人の場合は年5日まで、2人以上の場合は年10日まで、1日単位または半日単位で取得できる仕組みです。同居後は通院や役所の手続きへの付き添いなど、まとまった休業ではなく数時間〜1日単位の対応が必要になる場面も増えるため、介護休業と介護休暇の両方を組み合わせて使えることを、同居前の段階で知っておくと見通しが立てやすくなります。
同居・近居・遠距離(現状維持)を比べる視点
同居は選択肢の一つですが、唯一の選択肢ではありません。厚生労働省の同調査によると、要介護者等と主な介護者が「同居」している割合は46.1%にとどまり、半数以上は近居・別居という形で介護にかかわっています。同居の主な介護者の続柄を見ても、配偶者が22.5%で最も多く、子は18.2%、子の配偶者は4.2%と続きます。つまり、子が呼び寄せ同居をして主な介護者になるケースは、全体から見ると一部にとどまっているということです。
近居(別の住居で近くに住む)であれば、住宅改修の負担を抑えながら頻繁に様子を見に行くことができますし、遠距離(現状維持)であれば、介護サービスや見守りサービスを組み合わせて対応する形になります。どちらを選ぶかは、親の健康状態、仕事の調整しやすさ、きょうだいとの役割分担、経済的な負担をどう分けるかによって変わってくるため、同居・近居・遠距離のそれぞれで「何にいくらかかり、誰がどこまで担うのか」を具体的に書き出して比較することが、後悔を減らす進め方につながります。
例えば、同居は住宅改修費がかかる一方で、日々の様子を直接確認できるため緊急時の対応は早くなります。近居は改修費を抑えられる一方、通院の付き添いなどで行き来する時間と交通費が継続的にかかります。遠距離は住まいを変えずに済みますが、見守りサービスや訪問介護の利用料、帰省の交通費が重なりやすく、いざというときの初動が遅れやすい面があります。どの形にも一長一短があるため、「同居が一番安心」と決めてしまう前に、他の2つの選択肢でかかる費用と負担も具体的な数字で並べてみることをおすすめします。
まとめ:判断材料をそろえてから決める
親を呼び寄せて同居することには、住宅改修費、介護離職や老老介護化のリスクという、呼び寄せる前には見えにくい負担が伴います。一方で、同居以外にも近居・遠距離という選択肢があり、要介護者等と主な介護者の半数以上は同居以外の形で介護にかかわっているというデータもあります。
なお、将来的に実家をどう処分するかを考える場合は、相続税の小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価額を8割減額できる制度)も関係してきます。この特例における「同居」は、亡くなるまで同じ家で日常生活を送っていたことを指し、介護目的の一時的な同居では認められないことがあるとされています。つまり、同居を選ぶ目的が「介護のため」なのか「生活の拠点を一つにするため」なのかによって、将来の相続の場面での扱いが変わってくる可能性があるということです。
二世帯住宅化・介護休業・特例の適用可否は、いずれも個別の事情によって判断が変わるため、住宅会社の相見積りに加えて、税制については税理士、仕事との両立については勤務先や社会保険労務士、介護については地域包括支援センターやケアマネジャーに、早めに相談しながら決めていくことをおすすめします。同居は一度始めると住まいや働き方を元に戻しにくい選択でもあるため、親と子の双方が納得できる形を、焦らずに探っていくことが大切です。
参考文献
内閣府「令和7年版高齢社会白書」第1章第1節3 家族と世帯 / パナソニック「二世帯住宅リフォームの費用相場」 / 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査の結果」 / 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」 / 厚生労働省「介護休業制度特設サイト」 / 円満相続税理士法人「小規模宅地等の特例を日本一わかりやすく!」
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