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仕舞手帖 · 公開: 2026.10.20 · 7分で読めます

実家じまいをいつ親に切り出す?ベストなタイミングと話し合いの進め方

実家じまいの話を親にいつ・どう切り出せばよいのか。先延ばしにするリスクと、今日からできる話し合いの進め方を公的資料に基づいて整理します(2026年時点)。

和紙の上に流れる抽象的なデータの光の帯

実家の片付けや将来の処分について、親と話し合っておきたい。でも、縁起でもない話だと思われそうで、なかなか切り出せない。そんな方は少なくありません。

結論から言うと、実家じまいの話は「親が元気で、判断能力がしっかりしているうち」に始めるのが基本です。理由は単純で、本人の判断能力が低下した後では使えなくなる制度があり、実際に何も対策をしないまま相続のタイミングを迎える家庭が多いことが公的な調査でも示されているからです。

この記事では、早めに話し合うべき制度上の理由、多くの家庭が備えを先送りにしている実態、話し合いを後回しにした場合に起きがちなこと、そして今日から始められる具体的な進め方を、公的資料に基づいて整理します(2026年時点の情報です)。

なぜ「親が元気なうち」に話すべきなのか

実家じまいの話し合いを急ぐべき理由は、気持ちの問題だけではありません。制度上の「期限」が関わってきます。

代表的なのが任意後見制度です。この制度は、本人の判断能力が十分なうちに、将来の財産管理や生活上の事務を任せる人(任意後見人)とその内容を公正証書による契約で定めておく仕組みです。本人の判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されて初めて、任意後見人が実際の事務を始められます(法務省「成年後見制度について」)。つまり、判断能力が低下してからでは、この契約そのものを結ぶことができません。

家族信託(民事信託)についても同様です。本人が元気なうちに契約しておく必要がある点は任意後見制度と変わらず、契約できないまま判断能力が失われてしまうと選べる選択肢が限られてしまいます。

では、「元気なうち」にどれだけ余裕があるのでしょうか。厚生労働省の研究班(九州大学・二宮利治教授)による推計では、2022年度の65歳以上における認知症有病率は12.3%でした。この研究は2022〜2023年度に4地域の65歳以上7,143人を対象に、専門医の診断を含めて実施された悉皆調査に基づいています。さらに将来推計では、2040年時点で65歳以上の認知症患者数は584万人、約7人に1人の割合に達すると見込まれています。

もちろん、認知症になれば即座に判断能力がなくなるわけではありませんし、誰もが認知症になるわけでもありません。ただ、年齢を重ねるほど判断能力が低下するリスクが上がっていくこと自体は避けられない事実です。「まだ大丈夫」と先送りにできる時間には限りがある、という前提で話し合いのタイミングを考える必要があります。

なお、判断能力が低下したあとでも、法定後見制度を使って成年後見人を選任すれば、実家の処分に道が残されていないわけではありません。ただし、成年被後見人の居住用不動産を処分する場合には家庭裁判所の許可が別途必要で、許可を得ずに行った売買契約は無効になります(裁判所公式ページ)。つまり、発症後は「後見人を立てれば自由に売却できる」わけではなく、審査や手続きの分だけ時間がかかりやすくなるということです。元気なうちに任意後見契約や家族信託を結んでおけば、こうした追加の手続きを経ずに済む可能性があります。

多くの家庭が「もしも」の備えを先送りにしている実態

「うちはまだ早いかもしれない」と感じる方も多いでしょう。実際、多くの家庭が同じように備えを先送りにしています。

内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」によると、エンディングノートやリビングウィル(終末期医療に関する本人の意思を記した文書)を作成している高齢者は、合計でも8.3%にとどまります。リビングウィル単独の作成率に限ると3.5%で、死後や終末期の希望を書面で残している高齢者はごく一部にとどまっているのが実態です。

この数字が示しているのは、「エンディングノートくらい書いているはず」「うちの親も何か考えているだろう」という思い込みが、必ずしも当てはまらないということです。多くの家庭で、実家の将来や本人の希望についての話し合いは、特別なきっかけがない限り後回しにされています。

逆に言えば、話し合いを早めに始めること自体が、他の家庭に先んじた備えになるということでもあります。「うちだけ焦っているのでは」と感じる必要はありません。

話し合いの有無が、その後の空き家の運命を左右する

話し合いを先送りにすることが、実際にどんな違いを生むのか。国土交通省の「令和6年空き家所有者実態調査」(令和7年8月公表)には、参考になるデータがあります。

この調査によると、空き家の約6割は相続によって取得されたものであり、約6割は所有者の「死亡」をきっかけに空き家化しています。つまり、多くの空き家は「親が亡くなったことで突然生じる」のではなく、親の生前からすでに実家としてそこにあったものが、そのまま相続によって引き継がれているということです。

それにもかかわらず、相続前に「被相続人との話し合い」などの対策を実施していた世帯は、相続空き家のうち2割超にとどまっています。対策の内訳としては、話し合いのほかに遺言作成の支援、後見制度や家族信託の検討なども挙げられていますが、いずれにしても生前に何らかの行動を取っていた家庭は少数派だということです。

裏を返せば、相続が発生する前に家族で話し合っておくこと自体が、その後の選択肢を広げる土台になります。何を話すべきかが分からなくても、「実家のこれからについて、一度ちゃんと話したい」と伝えること自体が、最初の一歩になります。

先延ばしにするとどうなるか

話し合いをしないまま相続を迎えた場合、何が起きやすいのでしょうか。同じ国土交通省の調査が、その後の運命の違いを示しています。

相続前に対策を実施していなかった空き家は、対策を実施していた空き家と比べて、「何もせずそのまま空き家として所有され続けている」割合が約1.5倍になっています。つまり、生前の話し合いや準備がなかった実家ほど、相続後に活用も処分もされないまま放置されやすい傾向があるということです。

さらに、相続空き家の7割超は1980年以前に建築された住宅で、腐朽や破損がみられます。古い実家ほど、時間が経つにつれて建物の傷みが進み、活用や売却のハードルが上がっていく可能性があります。「いつか考えよう」と先延ばしにしている間に、建物の状態そのものが選択肢を狭めてしまうこともあるのです。

これらのデータは、個々の家庭の将来を断定するものではありません。ただ、「話し合いをしなかった家庭ほど、その後の対応が難しくなりやすい」という傾向は、統計として裏付けられています。

今日からできる話し合いの進め方

では、実際にどう話を進めればよいのでしょうか。大きなテーマを一度に話そうとすると、お互いに身構えてしまいがちです。まずは小さな入り口から始めることをおすすめします。

1つの方法は、エンディングノートを「一緒に書いてみる」という誘い方です。何かを決めさせる・約束させるための会話ではなく、「もしものときに、何を知っておけば助かるか」を一緒に整理する作業として位置づけると、親も身構えにくくなります。

もう1つの入り口は、制度の説明をきっかけにする方法です。先述の通り、任意後見契約は本人・任意後見人となる人との間で公正証書によって結ぶ必要があり、判断能力が低下した後の備えとして設計されています(法務省)。一方、家族信託は契約した時点から効力が生じ、受託者による不動産の売却についても家庭裁判所の許可を必要としない点が任意後見制度とは異なるとされています(司法書士等の専門家による一般的な解説)。

費用の目安も、話し合いを具体的にする材料になります。任意後見契約の公正証書作成費用は、基本手数料・登記嘱託手数料・収入印紙代をあわせて最低でも17,200円程度です(日本公証人連合会、2026年時点)。一方、家族信託は専門家に設計・契約書作成を依頼した場合、自宅と金銭を信託財産とするケースでおよそ40万〜70万円程度が初期費用の目安とされています(司法書士法人みらいあ、2026年9月時点)。家族信託の方が初期費用は高くなりやすい一方、発症後に家庭裁判所の許可手続きを経ずに不動産を売却できる実務上のメリットがあるとされています。

ただし、どちらの制度が向いているか、どのタイミングで契約すべきかは、家族構成や資産状況、親子関係によって変わります。本記事の内容だけで判断を確定させず、司法書士や行政書士など、相続・後見制度に詳しい専門家に具体的な事情を伝えて相談することをおすすめします。市区町村の無料相談窓口や、地域包括支援センターを経由して専門家を紹介してもらう方法もあります。

いきなり「実家をどうするか」を切り出す必要はありません。「最近こういう制度の話を聞いた」「エンディングノートというものがあるらしい」といった形で、日常会話の延長として話題にするところから始めてみてください。

まとめ

実家じまいの話を親に切り出すタイミングに、絶対の正解はありません。ただし、任意後見や家族信託といった制度は、本人の判断能力が十分なうちにしか契約できないという制度上の事実があります。そして、実際に相続前の話し合いをしていた家庭は少数派であり、話し合いの有無がその後の空き家の扱われ方に差を生んでいることも、公的な調査で示されています。

大きな決断を一度に迫る必要はありません。エンディングノートを一緒に書く、制度の話題から入るなど、小さなきっかけから始めることができます。具体的な制度選びや手続きについては、司法書士や行政書士、地域包括支援センターなど専門の窓口に相談しながら進めることで、親子双方にとって無理のない形で準備を進められます。

参考文献

法務省「成年後見制度について」 / 厚生労働省研究班(九州大学・二宮利治教授)認知症有病率調査(福祉新聞Web報道) / 内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」 / 国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」(日税ジャーナルオンライン報道)

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カヅキ

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桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。