相続した実家が「借地」だったら? 名義変更・売却・税金の考え方
相続した実家が借地権付きだった場合の名義変更・相続登記の期限・売却時の地主の承諾・相続税評価額の考え方を、2026年時点の公的情報をもとに整理します。

この記事の目次
「実家の土地は親が地主から借りていたもので、建物だけが親の名義だった」。相続の手続きを進めるなかで、初めてこの事実に気づく人は少なくありません。借地権付きの実家は、土地と建物の名義が別々であるため、通常の「土地も建物も自分の名義」というケースに比べて確認すべき点が増えます。
結論から言うと、相続そのものに地主の承諾は必要ありません。借地権は相続によって当然に引き継がれるためです。一方で、相続した後にその実家を売却しようとすると話が変わり、地主の承諾(または裁判所の許可)が必要になります。さらに、2024年4月から相続登記そのものが義務化されており、借地上の建物にも登記の期限が及びます。
この記事では、借地権付きの実家を相続した場合に押さえておくべき「相続時の手続き」「相続登記の期限」「売却時の承諾と費用」「相続税評価額の考え方」を、2026年時点の公的情報をもとに整理します。個別の契約内容や地主との関係によって対応は変わるため、最終的な判断は専門家への相談を前提に読み進めてください。
借地権付きの実家を相続した — まず「普通借地権」か「定期借地権」かを確認する
借地権付きの実家を相続したら、最初に確認したいのが契約の種類です。借地権には大きく分けて「普通借地権」と「定期借地権」があり、この後の手続きの見通しが変わってきます。
普通借地権は契約の更新ができるタイプの借地権です。当事者が契約で30年以上の存続期間を定めた場合はその期間が適用され、期間が満了しても地主に正当事由がない限り契約は法定更新されます。長年住み継がれてきた実家の多くは、この普通借地権にあたるケースが多いとされています。
一方、定期借地権は1992年の借地借家法改正で新設された比較的新しい制度で、契約の更新がありません。一般定期借地権は存続期間を50年以上として設定し、事業用定期借地権は事業用の建物を対象に10年以上50年未満の期間で契約するなど、種類によって条件が異なります。期間が満了すると、原則として更地に戻して地主に返還する必要があります。
自分が相続した実家がどちらの借地権にあたるかは、契約書に記載された契約期間や更新に関する条項を確認することで見当がつきます。契約書が見当たらない場合は、地代の支払い記録や地主とのこれまでのやり取りから手がかりを探すことになります。契約の種類によって「更新できるか」「いつまでに何をすべきか」が変わるため、この確認が最初のステップになります。
普通借地権と定期借地権では、その後に取りうる選択肢の幅も変わってきます。普通借地権であれば法定更新によって住み続ける・貸し続けるという選択肢が残りやすいのに対し、定期借地権は契約期間の満了時期があらかじめ決まっているため、その期限を見据えて実家をどうするかを早めに検討しておく必要があります。契約書に記載された残りの契約期間を確認し、期間満了がいつ頃になるのかを把握しておくことも、相続後の早い段階でやっておきたい作業です。
相続そのものに地主の承諾は不要 — ただし連絡はしておく理由
借地権付きの実家を相続すると聞いて、「地主に承諾をもらわないといけないのでは」と心配する人もいますが、相続そのものについては地主の承諾は不要です。借地権の相続は法律上の当然の移転(法定移転)であり、第三者に借地権を売り渡す「譲渡」とは性質が異なるためです。したがって、相続にあたって承諾料(名義変更料)を地主に支払う法的な義務もありません。
ただし、法的な義務がないことと、地主との関係を良好に保つことは別の話です。今後も地代を支払い続ける関係が続くことを考えると、相続が発生した事実と、今後の連絡先が変わったことを地主に伝えておくことは実務上の配慮として大切です。
なお、借地権自体は土地に登記されないことが多く、借地上に建てられた建物の登記によって第三者への対抗力を持つ仕組みになっています。つまり実務上は、土地の借地権そのものよりも「建物の所有権移転登記(相続登記)」を行うことが手続きの中心になります。この建物の相続登記には、次に説明する期限があります。
相続登記の義務化(2024年4月施行)— 借地上の建物にも期限がある
借地上の建物であっても、相続登記の義務化の対象になります。令和6年(2024年)4月1日から相続登記の申請が義務づけられ、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をする必要があります。正当な理由がないままこの期限内に申請をしなかった場合、10万円以下の過料の対象になるとされています。
この義務化は、施行日より前に発生していた相続にもさかのぼって適用されます。2024年4月1日より前に相続が発生していた場合は、経過措置として令和9年(2027年)3月31日までに登記をすることが求められます。すでに何年も前に亡くなった親の名義のまま放置されている借地上の建物がある場合は、この経過措置の期限が近づいていることに注意が必要です。
遺産分割協議がまとまらないなどの事情で期限内の登記が難しい場合に備えて、「相続人申告登記」という簡易な暫定措置も設けられています。これは正式な相続登記に代わるものではなく、あくまで過料を回避するための暫定的な届出という位置づけです。最終的には遺産分割協議を経た正式な相続登記が必要になるため、期限管理と並行して相続人間の話し合いを進めておくことが望まれます。
売却するときは地主の承諾が必要 — 譲渡承諾料の相場と「借地非訟」という手段
相続した実家を将来的に売却しようと考えている場合は、相続時とは異なるハードルがあります。借地権付きの建物を第三者へ売却する行為は、法律上「借地権の譲渡」にあたり、地主の承諾が必要になるのです。
地主が承諾する際には、その対価として「譲渡承諾料(名義変更料)」を支払うことが実務上一般的です。相場の目安としては、借地権価格のおおむね10%程度とされ、東京や大阪などの大都市圏では借地権価格の5〜15%、地方都市ではその半分程度が目安になるという整理もあります。ただし、これはあくまで一般的な相場観であり、実際の金額は地域や地主との関係、これまでの取引実績によって変わります。
地主が正当な理由なく譲渡を承諾してくれない場合、借地人には「借地非訟」という手続きが用意されています。これは裁判所に対して「地主の承諾に代わる許可」を求める制度で、借地借家法に基づいています。裁判所は、当事者間の利益の衡平を図る必要があると判断した場合、その許可を財産上の給付(実質的には譲渡承諾料に相当する金銭の支払い)に係らせることができるとされており、実務上も、裁判所が定めた承諾料の支払いと引き換えに許可が出される例が多く見られます。
借地権付きの実家を売却する予定がある場合は、査定を依頼する前の段階で、地主との関係や過去の承諾実績を確認しておくと、その後の交渉の見通しが立てやすくなります。譲渡承諾料の交渉は地主との直接のやり取りになるため、感情的な行き違いが生じやすい場面でもあります。借地権の売買や地主との交渉に慣れた不動産会社・弁護士を早い段階で間に入れることで、交渉が長引くリスクを抑えやすくなります。
相続税評価額はどう決まる? 「借地権割合」の調べ方
相続税の申告が必要になる場合、借地権もほかの財産と同じく評価額を算定する必要があります。借地権の相続税評価額は、その土地が自分の所有地(自用地)だった場合の評価額に「借地権割合」という割合を乗じて計算するのが基本的な考え方です。
借地権割合は、国税庁が毎年公表している「路線価図」に記号で示されています。路線価が定められている地域では、道路ごとにA〜Gの記号が振られており、Aが90%、Bが80%、Cが70%、Dが60%、Eが50%、Fが40%、Gが30%という対応関係になっています。一般的に、地価が高い商業地ほど借地権割合も高くなる傾向があるとされています。
路線価図は国税庁の「財産評価基準書」のページで都道府県別に公開されており、2026年分(令和8年分)を含む直近の年分をインターネット上で確認できます。実家の借地の正確な評価額を計算するには、対象の土地が面する道路の路線価と借地権割合の記号を確認したうえで算出する必要があり、この計算自体は税理士に依頼するのが実務上一般的です。
なお、相続税の申告が必要になるかどうかは、借地権の評価額だけでなく、預金や有価証券など他の相続財産と合わせた総額で判断されます。基礎控除額を超えるかどうかの見込みが立たない段階で慌てて対応を決めるのではなく、まずは財産全体の棚卸しをしたうえで、借地権の評価額を含めた申告の要否を税理士に確認するという順番で進めるのが実務的です。
迷ったら誰に相談するか — 相続登記・売却交渉・税金の窓口の使い分け
ここまで見てきたように、借地権付きの実家を相続した場合には、論点ごとに相談すべき専門家が異なります。建物の相続登記(名義変更)については司法書士、地主との譲渡承諾料の交渉や借地非訟の申し立てが必要になった場合は弁護士、相続税評価額の計算については税理士が、それぞれの窓口になります。
譲渡承諾料の相場や借地権割合はあくまで一般的な目安であり、実際の金額は契約内容や地域、地主との長年の関係性によって大きく変わります。「相場はこのくらいだから」と自己判断で交渉を進めるのではなく、まずは契約書と地代の支払い記録を専門家に見てもらい、自分のケースがどの整理に当てはまるのかを確認することが、遠回りに見えて確実な進め方になります。
借地権付きの実家は、通常の所有権の実家に比べて確認すべき論点が多い分、相続してすぐに放置すると相続登記の期限を過ぎてしまったり、地主との関係が疎遠になって後の交渉が難しくなったりするリスクもあります。まずは契約の種類を確認し、相続登記の期限を押さえたうえで、売却や評価額の相談は早めに専門家へつなぐことをおすすめします。
参考文献
実家じまいで迷ったら
実家の片付けや相続、空き家の管理や解体など、実家じまいには多くの課題が伴います。「何から手をつければいいのかわからない」と悩むことも少なくありません。
一般的には、まずは実家がいくらで売れるか、無料の一括査定サービスなどを利用して市場価値を調べておくことが最初の一歩になります。
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