生前整理はいつから始める? 年齢の目安と「動けるうちに」始める理由
生前整理を始めるのに適した年齢の目安と、健康寿命・業界アンケートのデータから見た「動けるうちに」の意味、何から手をつければいいかの優先順位を整理します(2026年時点)。

この記事の目次
「生前整理は早いほうがいいと聞くけれど、具体的に何歳から始めればいいのか分からない」。実家じまいを考え始めた人から、よくこんな声を聞きます。
結論から言うと、生前整理に「この年齢から始めるべき」という決まった正解はありません。ただし、公的な統計や業界団体の調査を見ると、「動けるうちに、できるだけ早く」という方向性には一定の裏付けがあります。
本記事では、健康寿命のデータ、実際に生前整理を始めている人の年代やきっかけ、先延ばしにした場合に起こりやすいトラブルの3つの切り口から、「いつから」を考えるための材料を整理します。あわせて、実際に何から手をつければいいかの優先順位も紹介します。
先延ばしにするとどうなるか ー 「動けるうちに」が指す年数
「まだ元気だから」と後回しにしているうちに、体力や判断力に制限が出てくる時期は、統計の上では意外と早くやってきます。
厚生労働省は健康日本21(第三次)推進専門委員会を通じて、3年に1度「健康寿命」(日常生活に制限のない期間の平均)を公表しています。2024年12月24日に公表された令和4年(2022年)値では、健康寿命は男性72.57年・女性75.45年でした。
同時点の平均寿命との差を見ると、男性で8.49年、女性で11.63年の開きがあります。つまり統計上は、平均寿命を迎えるまでの間に、日常生活になんらかの制限が生じる期間が8年から12年ほどある計算になります。
令和元年(2019年)の前回公表値(差は男性8.73年・女性12.06年)と比べると、差はやや縮小しています。健康寿命を延ばす取り組みの効果が表れているとも言えますが、それでも依然として8年以上の開きが残っている点は変わりません。
この数字は「健康寿命を過ぎたら誰もが動けなくなる」という意味ではなく、あくまで集団全体の平均です。ただ、自分や親がいつまでも元気でいられるとは限らない以上、「動けるうちに」という言葉が指しているのは、思ったより短いかもしれない期間だと捉えておくほうが安全です。
実際に何歳から始めている人が多いのか ー 業界アンケートに見る実態
では、実際に生前整理を始めている人は、どのタイミングで動き出しているのでしょうか。
一般社団法人あんしん解体業者認定協会が2024年4月11日に発表した、30代以上の男女500人を対象にしたアンケート調査があります。この調査では、生前整理が必要だと考える人が97.2%にのぼりました。
「生前整理を始めるタイミング」についての回答では、「元気なうちにできるだけ早く」が167人で最も多く、次いで「体調面で不安を感じたとき」が130人、「退職・定年したとき」が87人という結果でした。
この結果から読み取れるのは、多くの人が「何か具体的なきっかけ」を待つのではなく、健康なうちに前倒しで動こうと考えているという傾向です。「家族に迷惑をかけたくない」という理由を挙げた回答も多く、生前整理を自分のためだけでなく、残される家族への配慮として位置づけている人が少なくないことがうかがえます。
この調査は民間の業界団体による自主調査であり、全国の実態を網羅した公的統計ではありません。それでも、実際に生前整理に関わる業界側が把握している傾向として、参考になる数字です。
注目したいのは、「体調面で不安を感じたとき」が2番目に多い回答だった点です。これは、何らかの不調や衰えを自覚してから動き始める人も一定数いることを示しています。ただし、その時点ではすでに整理作業そのものが体力的な負担になっている可能性もあります。「元気なうちに」という最多回答が示すとおり、不調を感じる前に着手できれば、作業の負担そのものを軽くできるというのが、多くの人が実感している利点のようです。
「いつから」の判断の分かれ目 ー 年代別に起こりやすい変化
生前整理を始める時期を考える際には、年齢そのものよりも「何が起こりやすくなる時期か」を把握しておくことが役立ちます。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によれば、介護保険の要介護・要支援認定者数は令和元年度で655.8万人にのぼります。介護が必要となった主な原因としては「認知症」が18.1%で第1位に挙げられています。
認知症が進行すると、財産管理や意思表示が本人だけでは難しくなる場合があります。生前整理は「本人の意思で、本人のペースで」進められることが大きな利点であるため、判断力に不安が出てから慌てて始めるよりも、余裕のあるうちに取りかかるほうが選択肢を広く保てます。
先に見た健康寿命のデータ(令和4年値で平均寿命との差が男性8.49年・女性11.63年)を踏まえると、退職期にあたる60歳から65歳前後から、健康寿命を迎える時期までの間には、一定の期間があることになります。この期間をどう使うかが、「いつから始めるか」を考えるうえでの実質的な分かれ目だと言えます。
もちろん個人差は大きく、何歳になれば必ず判断力が衰えるというものではありません。あくまで統計上の傾向として、「まだ早い」と思っているうちに動き始めたほうが、結果的に余裕を持って進められるケースが多いということです。
実家じまいという観点で見ると、生前整理は親本人が元気なうちに進められるかどうかで、その後の選択肢の幅が変わってきます。本人の意思がはっきりしているうちに財産や思い出の品について話し合っておけば、後々家族が代わりに判断を迫られる場面を減らせます。逆に、判断力に不安が出てから子世代が主導して進めようとすると、本人の意向を十分に確認できないまま作業を進めざるを得ない場合もあります。
何から始めればいいか ー 書類・貴重品・思い出の品の順で進める
「始めたほうがいいのは分かったが、何から手をつければいいのか分からない」という声もよく聞かれます。優先順位を決めるうえで参考になる情報を整理します。
まず取り組みやすいのが、財産や重要書類の整理です。法務省の自筆証書遺言書保管制度は2020年7月に始まった制度で、自分で書いた遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けることができます。申請手数料は3,900円(2026年時点)で、遺言の内容だけでなく、財産の所在を家族に伝えるきっかけとしても活用できます。
次に意識したいのが、貴重品や重要な物の所在を家族と共有しておくことです。国民生活センターが2018年7月19日に公表した事例の中には、「処分しないでほしいと頼んでいた遺品を無断で処分された」という相談が含まれています。これは遺品整理業者とのトラブル事例ですが、裏を返せば「何が大切な物なのか」が家族や関係者に伝わっていなかったために起きたすれ違いとも言えます。
財産目録や重要書類の整理が済んだら、思い出の品や日用品といった、量が多く時間のかかる部分に取りかかるのが現実的な順番です。一度にすべてを終わらせようとせず、優先度の高いものから段階的に進めることで、途中で挫折しにくくなります。
思い出の品の整理は、写真や手紙、趣味の品など、量は多くても判断に迷いが生じやすい領域です。一度にすべてを仕分けようとすると負担が大きくなるため、「残す」「迷う」「手放す」の3つに分けて少しずつ進め、「迷う」に入れた物は時間を置いてから改めて見直すという進め方も一つの方法です。家族と一緒に取り組めば、思い出話をしながら無理なく進められる面もあります。
業者に頼む場合の注意点 ー トラブル事例から学ぶ
量が多くて自分や家族だけでは進めにくい場合、業者に依頼する選択肢もあります。ただし、依頼する際にはいくつか注意しておきたい点があります。
国民生活センターの発表によると、遺品整理サービスに関する相談件数は2013年度の73件から2017年度の105件まで、増加傾向で推移していました。見積もり時に契約を急かされた、キャンセル時に高額なキャンセル料を請求された、作業当日に見積額の2倍の追加料金を請求されたといった事例が報告されています。
こうしたトラブルの多くは、契約を急いでしまうことが原因になっています。生前整理の場合は遺品整理と違って本人の判断で時間をかけて進められるため、急かされて即決する必要はありません。複数社から見積もりを取り、内訳を書面で確認してから契約するという、基本的な姿勢を守ることが遠回りのようで一番の近道になります。
見積もりを依頼する際は、残しておきたい物を事前にリストアップし、業者に明確に伝えておくことも有効です。時間をかけて準備できるのが生前整理の強みなので、その利点を生かして慎重に業者を選ぶことをおすすめします。
なお、業者に依頼する範囲を決める前に、自分たちでどこまで進められそうかを一度整理しておくと、見積もり時の説明もスムーズになります。「仕分けは自分たちで行い、搬出と処分だけを業者に依頼する」といった分担にすれば、費用を抑えられる場合もあります。急いで全部を業者任せにするのではなく、できる部分とできない部分を切り分けて考えることが、無理のない進め方につながります。
まとめ
生前整理を始める年齢に決まった正解はありませんが、健康寿命と平均寿命の差(令和4年値で男性8.49年・女性11.63年、厚生労働省)や、業界アンケートで「元気なうちにできるだけ早く」という回答が最多だった結果(2024年、あんしん解体業者認定協会)は、どちらも早期着手を後押しする方向を示しています。
年代ごとに起こりやすい変化を踏まえつつ、財産や重要書類の整理から着手し、貴重品の所在を家族と共有したうえで、思い出の品や日用品の整理に進むという順番で考えると、無理なく取り組みやすくなります。
国民生活センターの事例が示すとおり、先延ばしにして慌てて業者に依頼すると、契約トラブルに遭いやすくなる面もあります。「まだ早い」と感じるタイミングこそ、落ち着いて準備を始める好機だと捉えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(第4回健康日本21(第三次)推進専門委員会) / 一般社団法人あんしん解体業者認定協会「生前整理に関するアンケート調査」 / 内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」第1章第2節 / 法務省「自筆証書遺言書保管制度」 / 独立行政法人国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」
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