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仕舞手帖 · 公開: 2026.10.11 · 7分で読めます

実家を「共有名義」で相続するとどうなる? あとで困る前に知っておきたい4つのデメリット

実家の遺産分割で「共有名義」のまま相続した場合に起きやすい不便を、売却時の同意・固定資産税・将来の共有者増加・税制優遇の4点から2026年時点の公的情報で整理します。

開かれた書類の上に置かれた木製の印章

実家の遺産分割で、兄弟姉妹の誰かひとりに決めきれず「とりあえず共有名義にしておく」という選択をするケースは少なくありません。話し合いを先延ばしにできる分、一見すると穏便な解決に見えます。ただし共有名義は、将来実家を売ったり活用したりする場面で、全員の同意が必要になるという制約を抱え続ける選択でもあります。

この記事では、実家を共有名義のまま相続した場合に起きやすい4つの不便を、法務省・国税庁・自治体の公的情報にもとづいて整理します。共有名義そのものが「悪い」選択というわけではなく、同意形成を先送りできる・単独で取得する資力がなくても済むといった利点もあります。その利点とデメリットを比べたうえで、判断は読者自身に委ねられる前提で読み進めてください。

共有名義とはどんな状態か

実家の遺産分割には、大きく4つの方法があります。京都家庭裁判所の遺産分割Q&Aでは、遺産を物理的に分ける「現物分割」、誰かひとりが取得して他の相続人に金銭(代償金)を払う「代償分割」、売却して代金を分ける「換価分割」、そして複数の相続人が共有のまま取得する「共有分割」の4つを整理しています。

このうち現物分割・代償分割・換価分割の3つは、最終的に実家の名義が単独になるか、現金化されて不動産そのものがなくなるかのいずれかに至ります。共有分割だけが、名義を複数人のまま残すという特徴を持ちます。

同裁判所の説明では、共有分割について「将来的なトラブルに備えて選択に注意が必要」とされています。この「トラブル」の具体的な内容を知らずに共有分割を選んでしまうと、後になって不便さに気づくことになりかねません。

実際には、相続人の間で「誰が取得するか」がまとまらないまま期限だけが近づき、ひとまず共有名義で相続登記を済ませておくというケースも少なくありません。先に結論を出さずに済むという意味では現実的な選択ですが、先送りにした論点は消えてなくなるわけではなく、共有者全員の間で持ち続けることになります。以下、4つのデメリットを順に見ていきます。

デメリット1: 売却や大きな変更には共有者全員の同意が必要

共有名義になった実家を売却したい、あるいは大規模にリフォームしたいと思っても、共有者のうち誰か一人の意思だけでは進められません。

民法の共有制度は令和3年の改正により、令和5年4月1日から新しいルールで運用されています。共有物に対する行為は、性質や規模によって「変更行為」「管理行為」「保存行為」に分かれ、必要な同意の範囲が異なります。売却や大規模な改修のように共有物の形状・性質を大きく変える「変更行為」(軽微なものを除く)には、共有者全員の同意が必要です。

一方、短期の賃貸借など日常的な管理にあたる「管理行為」は、共有者の持分の過半数で決定できます。この改正では、共有者の一部が所在不明・氏名不明である場合に、裁判所の手続きを経て残りの共有者の同意や持分の過半数で物事を決められる仕組みも整備されました。

ただしこの救済策は「共有者の所在・氏名が分からない」場合に限られます。共有者全員の連絡先がはっきりしていても、売却するか残すかで意見が割れてしまえば、過半数の賛成があっても売却という「変更行為」には進めません。全員が賛成しない限り、実家は売ることも大規模に活用することもできない状態のまま時間が経っていくことになります。

デメリット2: 固定資産税は共有者全員の「連帯納税義務」になる

共有名義になった実家には、固定資産税の支払い方にも独特の仕組みがあります。

地方税法第10条の2第1項により、共有者がいる固定資産の固定資産税は、共有者それぞれの持分に応じて個別に課税されるのではなく、共有者全員が連帯して納付する「連帯納税義務」という形になります。行田市の説明によれば、固定資産課税台帳には「代表者外〇名」のように登録され、納税通知書と課税明細書は代表者1名に送付される運用です。

連帯納税義務という性質上、共有者の1人が全額を立て替えて納付すれば、その範囲で他の共有者の納税義務も消滅します。反対に、代表者となった共有者が全額を立て替えたのに他の共有者から分担分を回収できない、というトラブルも起こり得ます。

実家が遠方にある、あるいは共有者の一部と連絡がつきにくいという場合は、この「誰が代表者として納税通知を受け取り、誰にどう分担を求めるか」という実務的な手間が、共有名義を続ける間ずっと発生し続けることになります。

空き家のまま共有している場合は、固定資産税に加えて火災保険料や最低限の維持管理費も発生します。これらの費用も法律上は持分に応じた分担が原則とされていますが、実際に誰がいつ立て替え、どう回収するかという運用の細かさは、共有者間の話し合いに委ねられている部分が大きい点も踏まえておく必要があります。

デメリット3: 次の相続でさらに共有者が増えていく

共有名義のまま時間が経つと、問題はより複雑になっていきます。共有者の一人が亡くなれば、その人が持っていた持分は、さらにその相続人(子・孫など)に引き継がれます。

法務省の説明では、所有者不明土地が全国で占める面積は「九州の大きさに匹敵する」ともいわれ、その発生原因の「約3分の2を占める」のが相続登記の未了であるとされています。相続登記自体を済ませていても、共有名義のままにしておけば、世代を重ねるたびに共有者の人数が増えていくという構造上の問題は残ります。

共有者が2人・3人のうちはまだ連絡を取り合って同意を集めることができても、数次相続(相続人がさらに亡くなり相続が重なること)が重なるほど、関係者の人数は増え、連絡先も分からない人が出てきやすくなります。最初は「ひとまず共有にしておけば揉めずに済む」という選択だったはずが、次の世代が「誰が何割持っているのか」を整理し直すところから始めなければならない状態になりかねません。

デメリット4: 空き家の税制優遇が共有者の人数で不利になりうる

将来、実家を売却する前提がある場合、共有名義で取得する人数が税制優遇に影響することもあります。

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(2026年時点)では、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。ただし国税庁の説明によれば、2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡から、取得した相続人の数が3人以上の場合は、1人あたりの控除上限が2,000万円に引き下げられています。相続人が2人以下であれば、1人あたり最高3,000万円のままです。

つまり、共有名義で実家を取得する人数が3人以上になると、将来売却したときに使える控除の合計額が目減りする可能性があります。この特例には建築時期(昭和56年5月31日以前)や被相続人の居住要件、売却期限(相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで)など他の要件もあり、適用できるかどうかは個別の事情で判断が変わります。

この控除額の引き下げは2024年(令和6年)1月1日以後の譲渡から適用されるもので、それより前に売却した場合は人数にかかわらず1人あたり最高3,000万円のままでした。制度は改正によって条件が変わりうるため、将来売却する時点でどの年のルールが適用されるかを前提に計画を立てる必要があります。適用を前提に将来の計画を立てる場合は、早めに税理士へ具体的な状況を確認しておくことが望ましいとされています。

共有名義を避けたい・解消したい場合の選択肢

共有名義のデメリットを知ったうえで、そもそも共有分割を選ばない、あるいは共有名義になった後で解消したいと考える場合の選択肢も整理しておきます。

遺産分割の段階であれば、実家を取得する相続人が他の相続人に金銭を払う「代償分割」や、実家を売却して代金を分ける「換価分割」を選ぶことで、共有名義にしない結論に至ることができます。どちらの方法も、取得したい人に代償金を払う資力があるか、あるいは全員が売却に同意できるかが前提になります。

すでに共有名義になった後、話し合いだけでは解消できない場合には、裁判所に「共有物分割請求」という訴えを起こし、裁判所の判断で分割方法を決めてもらう手続きもあります。この手続きの具体的な進め方や期間、費用は個別の事情によって大きく変わるため、この記事では手続きの存在と相談先の案内にとどめます。

共有者の人数が少なく、連絡も取りやすい早い段階であるほど、代償分割・換価分割への切り替えや共有物分割請求の検討は進めやすくなります。逆に数次相続が重なって共有者が増えてしまった後では、連絡先を調べる作業自体に時間がかかることもあります。共有名義の解消を考える場合は、早い段階で弁護士に相談し、現在の共有者の人数や関係性を伝えて見通しを確認することをおすすめします。

まとめ

共有名義(共有分割)は、遺産分割の4つの方法のうち「名義を複数人のまま残す」唯一の選択です。他の3つの方法と違い、同意形成を先送りにできる一方で、売却や大規模な変更には共有者全員の同意が必要になり続け、固定資産税は連帯納税義務という形で代表者に請求が集まり、次の相続でさらに共有者が増え、将来の空き家の税制優遇が人数によって目減りする可能性もあります。

共有名義にもメリットがないわけではありません。単独で取得する資力がない場合の選択肢になりますし、意見がまとまらない段階で一旦の結論を出す手段にもなります。ただし、そのメリットと今回挙げたデメリットを比べたうえで判断することが大切です。

分割方法そのものの検討は弁護士、登記・名義変更の実務は司法書士、税金に関わる判断は税理士が専門の相談先になります。この記事の内容は制度の概要であり、個別の分割方法の選択や税制優遇の適用可否は、専門家に確認してから判断してください。

参考文献

裁判所「遺産分割Q&A|京都家庭裁判所」 / 法務省「相続登記の申請義務化について」 / 法務省「民法・不動産登記法部会資料27 共有制度の見直し」 / 行田市「共有名義の固定資産税の納税義務者はどうなりますか」 / 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

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カヅキ

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桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。