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仕舞手帖 · 公開: 2026.10.01 · 9分で読めます

老人ホームの入居費用を実家の売却でまかなう流れと注意点

親の老人ホーム入居費用をどう工面するか迷ったとき、費用の目安・特別養護老人ホームの入所要件・実家売却の税制・認知症になる前に備えたい成年後見制度までを、公的資料をもとに整理します(2026年時点)。

和紙の繊維の質感を写した和モダンな抽象イラスト

親の老人ホーム入居を考え始めると、真っ先に立ちはだかるのが費用の壁です。

結論から言うと、入居費用は「一時金」と「月額費用」の2段構えで考える必要があり、その原資として実家の売却を検討するなら、税制の期限と親の判断能力という2つの「タイムリミット」を早めに把握しておくことが欠かせません。

老人ホームの入居一時金は数十万円から数百万円以上と幅があり、月々の費用も施設によって大きく変わります。実家を売って資金を作ろうとしても、税制上の優遇には期限があり、親が認知症などで判断能力を失ってからでは、実家そのものを売れなくなってしまうケースもあります。

本記事では、老人ホーム入居にかかる費用の目安、資金づくりの選択肢の比較、実家売却の手続きと税金、判断能力が低下する前に検討しておきたい制度、そして八王子市で相談できる窓口までを順に整理します。

老人ホーム入居にかかる一時費用と月額費用の目安

老人ホームへの入居を考えるとき、まず押さえておきたいのが費用の全体像です。

公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」2024年度(令和6年度)によると、介護にかかった一時的な費用(住宅改造や介護用ベッドの購入など)の平均は47.2万円、月々の費用の平均は9.0万円でした。

同じ調査を介護場所別に見ると、月額費用は在宅の場合が平均5.3万円であるのに対し、施設の場合は平均13.8万円と、在宅の2倍以上になっています。老人ホームなど施設に入居すると、月々の負担が在宅介護よりも重くなりやすいことが分かります。

介護を行った期間の平均は55.0カ月(4年7カ月)で、4年を超えて介護を続けた人が全体の約4割を占めています。一時金だけでなく、月額費用が数年単位で積み重なることを見込んで資金計画を立てる必要があります。

こうした数字はあくまで全国平均であり、施設の種類やエリア、居室のタイプによって実際の費用は大きく上下します。まずは「一時金+月額費用×想定入居期間」という枠組みで、大まかな総額を試算してみることが最初の一歩になります。

介護付き有料老人ホームの入居一時金は「前払い」の仕組みを理解する

老人ホームの費用の中でも分かりにくいのが、入居一時金の仕組みです。

厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」によると、介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)の入居一時金は、前払い方式や月払い方式など複数の支払い方法があり、前払い方式の場合は一定の償却年月数に応じて、契約期間中に退去した際の返還額が計算される仕組みになっています。

つまり、入居からどれくらいの期間で退去したかによって、戻ってくる金額が変わるということです。契約前には、償却期間や解約時の返還計算式を確認し、「4か月後」「1年後」など複数の時点でどのくらいの金額が戻るのかをシミュレーションしておくことが推奨されています。

同じページでは、居室が個室か相部屋か、介護度が上がって介護が必要になった際に転居が必要になるのか、その場合の返金ルールはどうなっているのかも、事前に確認すべきポイントとして挙げられています。

さらに、施設の経営状況を見る手がかりとして、入居率や事業開始年月日といった情報も公表されています。長期間にわたって入居金を預ける契約になるため、施設の運営が安定しているかどうかも、費用面と合わせて確認しておきたい観点です。

前払い方式の一時金は高額になりやすい一方で、月払い方式を選べば初期費用を抑えられる施設もあります。どちらが向いているかは、手元資金の状況や想定される入居期間によって変わるため、複数の施設のパンフレットや重要事項説明書を比較しながら検討することになります。

資金づくりの選択肢を比較する(特養・実家売却・リースバック)

老人ホームの費用をどう工面するかを考えるとき、まず選択肢に挙がるのが「介護保険施設を使う」「実家を売却する」という2つの方向性です。

介護保険が適用される施設のひとつに、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)があります。八王子市公式サイトによると、この施設に入所できるのは原則として要介護3から5の認定を受けた人で、要支援や非該当の人は対象外です。要介護1・2の人でも、居宅において日常生活を営むことが困難な「やむを得ない事由」がある場合は、特例入所の対象になる可能性があります。

民間の有料老人ホームに比べて費用負担を抑えやすい一方、要介護度の条件があるため、誰もがすぐに入所できるわけではない点には注意が必要です。

一方、実家を売却して資金を作る選択肢を検討する際、近年よく耳にするのが「リースバック」という方法です。自宅を業者に売却して代金を受け取りながら、その後は賃貸契約を結んで同じ家に住み続けられるという仕組みですが、独立行政法人国民生活センターは2026年8月4日、このリースバックをめぐるトラブルについて注意喚起を発表しました。

発表によると、契約後に家賃が大幅に値上げされ、応じなければ退去を求められるケースや、後から自宅を買い戻そうとしたら売却額の5倍もの価格を提示されるケースが報告されています。長期的に見ると、支払う家賃の総額が当初の売却代金を上回ってしまう可能性もあるとされています。

不動産の売買契約にはクーリング・オフの制度が適用されないため、契約内容を十分理解しないまま「お金が払えないからリースバックにする」といった判断をするのは危険です。不安がある場合は、消費生活センター(188)へ相談することも選択肢のひとつです。特養のような公的な施設の利用可能性と、実家を通常どおり売却する方法、リースバックのような方法とを、それぞれの条件とリスクを踏まえたうえで比較する視点が求められます。

実家を売却して資金を作る場合の手続きと税金の制度

特養の利用が難しい場合や、より自由度の高い施設を選びたい場合には、実家を売却して資金を作る方法が現実的な選択肢になります。その際に押さえておきたいのが、譲渡所得にかかる税金の制度です。

国税庁のタックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」によると、一定の要件を満たして実家を売却した場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円を控除できる制度があります。なお、令和6年1月1日以後の譲渡で、対象となる相続人が3人以上いる場合は、控除額が1人あたり2,000万円に変わります。

この特例の主な要件としては、対象の家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること(区分所有建物は除く)、相続開始の直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと、相続してから譲渡するまでの間に事業や貸付、居住の用に供していないこと、そして売却代金が1億円以下であることなどが挙げられています。

期限にも注意が必要です。この特例を使うには、相続の開始があった日から3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却する必要があります。加えて、制度全体の適用期限として、令和9年12月31日までの譲渡が対象とされています。老人ホームの入居費用を実家の売却でまかなおうと考えている場合、この2つの期限のどちらか早い方を意識して、売却のスケジュールを逆算しておく必要があります。

ここで挙げた要件や控除額は制度の概要であり、実際に適用できるかどうかは個々の家屋の状況や相続関係によって異なります。特例の適用可否や具体的な税額の試算については、税理士に相談することをおすすめします。

親が認知症になってからでは実家を売れないことがある

実家の売却を資金づくりの手段として考えるうえで、見落とされがちなのが「タイミング」の問題です。

不動産の売買契約は法律行為であるため、名義人本人に契約内容を理解し判断する能力が求められます。親が認知症などによって判断能力が不十分だと判断された場合、実家の名義が親のままであれば、本人による売却契約を進めることが難しくなる場合があります。

こうした事態に備える制度のひとつが、成年後見制度です。法務省の「成年後見制度Q&A」によると、成年後見制度には法定後見と任意後見の2種類があり、法定後見は判断能力が低下した後に家庭裁判所が後見人を選任する仕組みであるのに対し、任意後見は本人が判断能力のあるうちに、あらかじめ任意後見人となる人を自分で決めておく仕組みです。両者の違いとして、法定後見の後見人には本人が結んだ契約を取り消す権限がある一方、任意後見人にはその取消権がないといった点も挙げられています。

厚生労働省の「成年後見はやわかり」任意後見制度ページによると、任意後見制度を利用するには、本人が信頼できる人との間で「任意後見契約」を公正証書で結んでおく必要があります。その後、本人の判断能力が実際に低下した段階で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、監督人が選任されて初めて契約の効力が生じる仕組みです。公正証書の作成には、作成基本手数料11,000円、登記嘱託手数料1,400円、登記用印紙代2,600円などの費用がかかるとされています。

親が元気なうちに任意後見契約を結んでおけば、将来判断能力が低下した場合でも、後見人が本人に代わって実家の売却手続きを進められる可能性があります。逆に、何も備えないまま親の判断能力が大きく低下してしまうと、法定後見の手続きを一から進める必要が生じ、老人ホームの入居準備を急いでいる家族にとって、時間的な負担が大きくなりかねません。実家の売却を資金計画に組み込むのであれば、親が元気なうちに、こうした制度の利用も含めて話し合っておく価値があります。

八王子市で相談できる窓口

ここまで見てきたように、老人ホームの費用、実家売却の税制、成年後見制度はいずれも専門的な判断が絡む領域です。一人で抱え込まず、身近な相談窓口を早めに頼ることが大切です。

八王子市公式サイトによると、市内には高齢者あんしん相談センター(地域包括支援センター)が複数設置されており、介護・福祉・健康・医療といった面から高齢者とその家族を支える総合相談窓口として機能しています。相談は無料で、来所や電話のほか、自宅への訪問にも対応しており、スタッフには保健師、看護師、主任介護支援専門員、社会福祉士などが含まれています。

施設入所についての相談だけでなく、介護保険サービス全般や認知症に関する相談、介護離職を防ぐための情報提供なども行っているため、老人ホーム探しの初期段階から利用できる窓口といえます。

特別養護老人ホームの入所基準など、より具体的な制度の問い合わせについては、八王子市高齢者福祉課(電話042-620-7416)が窓口となっています。実家の売却や税金の相談は税理士や司法書士、成年後見制度の相談は家庭裁判所や司法書士・弁護士といったように、内容に応じて専門家を使い分けながら進めていくことになります。

まとめ

老人ホームの入居費用は、一時金と月額費用の両方を見込んで計画する必要があります。生命保険文化センターの調査では、介護の一時費用の平均は47.2万円、月額費用の平均は9.0万円、施設介護に限ると月額の平均は13.8万円でした。

実家の売却を資金づくりの手段として検討する場合は、相続空き家の3,000万円特別控除のような税制上の期限があることに加え、親の判断能力が低下する前に任意後見などの備えを検討しておく必要があります。特養の入所要件、税制の要件、成年後見制度のどれも個別の事情によって適用できるかどうかが変わるため、地域包括支援センターや税理士、司法書士といった専門家に早めに相談しながら、資金計画と手続きのスケジュールを組み立てていくことが、後悔のない選択につながります。

参考文献

公益財団法人生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2024年度 / 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」介護付有料老人ホーム解説ページ / 八王子市「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の入所要件」 / 八王子市「高齢者あんしん相談センター(地域包括支援センター)」 / 国税庁タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 / 国民生活センター「自宅の『リースバック』トラブルにご注意!」 / 厚生労働省「成年後見はやわかり」任意後見制度ページ / 法務省「成年後見制度Q&A」

実家じまいで迷ったら

実家の片付けや相続、空き家の管理や解体など、実家じまいには多くの課題が伴います。「何から手をつければいいのかわからない」と悩むことも少なくありません。

一般的には、まずは実家がいくらで売れるか、無料の一括査定サービスなどを利用して市場価値を調べておくことが最初の一歩になります。

※現在、桑都手帖では実家じまいに役立つ提携サービス(一括査定・解体見積もりなど)の導入準備を進めています。準備が整い次第、こちらで推奨窓口をご案内いたします。

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カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。