本文へスキップ
あと8分 購読

仕舞手帖 · 公開: 2026.09.12 · 更新: 2026.09.14 · 8分で読めます

実家の相続、査定は1社だけで決めていい? 複数社比較で適正価格をつかむ手順

相続した実家の査定をなぜ複数社に依頼したほうがいいのか。査定・相続税評価額(路線価)・鑑定評価の違いと、自分でも調べられる公的な価格情報の探し方を2026年時点の情報で整理します。

街道と宿場を描いた古地図風の和モダンイラスト

「近所の不動産会社に1社だけ頼んで、出てきた金額をそのまま信じていいのだろうか」。相続した実家を売ろうとしたとき、多くの人が最初にぶつかるのがこの疑問です。

結論から言うと、査定は複数社に依頼して比較するのが基本です。査定額は依頼先によって差が出ることがあり、1社だけの金額を鵜呑みにすると、相場より安く売ってしまったり、逆に相場とかけ離れた高値を信じて売却の機会を逃したりするリスクがあります。

この記事では、そもそも「査定」とは何を指すのか、相続税評価額(路線価)や鑑定評価とどう違うのか、自分でも確認できる公的な価格情報の探し方、そして相続登記との関係までを、2026年時点の公的情報をもとに整理します。個別の物件の適正価格を断定するものではないため、最終的な判断は複数の専門家・不動産会社への相談を前提に読み進めてください。

実家の相続で「査定」が必要になる場面 — 遺産分割・相続登記・売却の入口

実家を相続すると、多くの人が売却や活用を検討する前段階で「この家はいくらくらいで売れるのか」を知りたくなります。査定はこの疑問に答えるための第一歩ですが、査定が必要になる場面は売却の準備だけではありません。

相続人が複数いる場合、遺産分割協議で「代償分割」という方法を選ぶことがあります。これは、実家を相続する1人が他の相続人に代償金を支払うことで公平を図る分け方です。この場合、相続人全員が納得できる評価額を出す必要があり、その根拠として査定が使われます。

また、相続登記そのものにも期限があります。2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化され、相続人は不動産の所有権取得を知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。正当な理由なく期限を過ぎると、10万円以下の過料の対象になります。査定や売却の話を進める前に、この登記の期限がどうなっているかも合わせて確認しておく必要があります。

「査定」「相続税評価額(路線価)」「鑑定評価」は別物 — 混同すると判断を誤る

実家の相続を機に不動産の価格に触れると、「査定額」「路線価」「鑑定評価額」という3つの言葉が出てきて混乱しがちです。それぞれ目的も性質も異なるため、順番に整理します。

相続税・贈与税の土地評価は本来「時価」によって行うことになっていますが、納税者が自分で時価を正確に把握するのは容易ではありません。そこで国税庁は毎年、土地の評価額の基準となる「路線価」を公表しています。路線価は地価公示価格の8割程度を目安に設定されたもので、実際に売買が成立する時価(実勢価格)とは別の指標です。相続税の申告のために使われるものであり、実際に売れる金額の目安として使うものではありません。

一方、不動産会社が無料で行う「査定」は、あくまで取引の成立を目的とした価格の提案です。査定書に法的な証拠力はなく、査定額どおりに売れることを保証するものでもありません。これに対して、不動産鑑定士による「鑑定評価」は、国が定める不動産鑑定評価基準に基づいて作成される評価書で、税務署や裁判所への提出書類として通用する点が査定書と大きく異なります。遺産分割協議や調停で相続人間の評価額の合意が難しいときに、この鑑定評価が使われることがあります。

まとめると、路線価は税務上の指標、査定額は売却に向けた参考価格、鑑定評価額は法的な証拠力を持つ評価額という役割分担になります。「実家がいくらで売れるか」を知りたい場合にまず必要になるのは査定であり、路線価や鑑定評価は別の場面で登場する数字だと理解しておくと、話が整理しやすくなります。

なぜ1社の査定だけで判断しないほうがいいのか — 複数社を比較する意味

査定額は依頼する不動産会社によって差が出ることがあります。同じ物件でも、各社が保有する取引データの範囲や営業方針、すでに抱えている買主候補の有無によって、提示される金額が変わってくるためです。

こうした事情もあり、不動産一括査定サイトというサービスが広く使われています。物件の所在地や面積などの情報を一度入力するだけで、複数の不動産会社(サイトによって平均5〜6社程度)にまとめて査定を依頼できる仕組みです。1社ずつ問い合わせる手間を省きながら、複数の金額を横並びで比較できる点がメリットになります。

査定額を比較する際は、金額の高さだけで依頼先を決めるのではなく、その金額がどのような根拠に基づいているかを確認することが大切です。国土交通省も、不動産取引に関する消費者向けの情報提供の中で、取引の仕組みや価格情報を確認しながら判断することの重要性を案内しています。近隣の取引事例やその物件固有の条件(接道状況、建物の老朽度など)を踏まえた説明があるかどうかは、査定額の信頼性を見極める手がかりの一つになります。

複数社に査定を依頼すると、対応の丁寧さや説明の分かりやすさといった、金額以外の違いも見えてきます。相続した実家は、売主自身がその物件に住んでいないことも多く、担当者とのやり取りの負担が意外と大きくなりがちです。金額だけでなく、今後のやり取りを任せられる相手かどうかという視点も、複数社を比較する意味の一つに数えられます。

自分でも確認できる公的な価格情報 — 不動産情報ライブラリとレインズの仕組み

不動産会社の査定額を鵜呑みにするのではなく、自分でもある程度の相場感を確認しておきたいという場合には、国が提供している公的な情報源を使う方法があります。

国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、実際に不動産の取引をした人へのアンケートを集計した取引価格情報や、地価公示・都道府県地価調査の結果などを検索できます。個人が特定されないよう加工されたうえで公開されているため、誰でも無料で、実家がある地域の取引価格の傾向を確認することができます。

もう一つよく耳にする言葉に「レインズ」があります。レインズ(不動産流通標準情報システム)は、宅地建物取引業法に基づいて国土交通大臣の指定を受けた不動産流通機構が運営する、不動産会社どうしの物件情報共有システムです。売却の仲介を依頼された不動産会社が物件情報をレインズに登録すると、全国の会員会社がその情報を閲覧できる仕組みになっています。レインズ自体は宅建業者間のシステムであり、一般の消費者が直接検索できるものではありませんが、売主は自分の物件が「公開中」なのか「申込みあり」なのかといった状況を確認できる専用の画面が用意されています。

これらの公的な情報源は、査定額そのものを算出してくれるものではありません。ただ、査定を依頼する前に大まかな相場感を持っておくことで、提示された査定額が極端に高い、あるいは低い場合に気づきやすくなります。査定を比較する際の「ものさし」の一つとして活用する使い方が現実的です。

遺産分割で評価額が割れたときの選択肢 — 鑑定評価という手段と費用の目安

複数社の査定を比較しても、相続人の間で「その金額に納得できない」という状態になることがあります。特に代償分割のように、実家を相続しない相続人が代償金を受け取る場合、評価額が高いか低いかで受け取る金額が変わるため、意見が割れやすい場面です。

こうしたときの選択肢の一つが、不動産鑑定士による正式な鑑定評価を依頼することです。鑑定評価は査定と異なり、国の定める評価基準に基づいて作成される公的な性格を持つ書類であり、相続人全員が第三者の評価として受け止めやすいという特徴があります。

気になるのは費用です。鑑定評価の報酬は現在自由化されており、依頼する鑑定事務所によって金額は異なりますが、2026年時点の目安として20万円〜50万円程度とする例が複数の鑑定事務所の公開情報で示されています。土地の面積や評価の難易度によって金額は変動するため、依頼を検討する場合は事前に見積もりを取ることが前提になります。

鑑定評価はあくまで評価額をめぐる意見の相違が大きいときの選択肢であり、すべてのケースで必要になるわけではありません。相続人どうしで大きな争いがなければ、複数社の査定額を比較して合意する形で十分なケースも多くあります。まずは査定を比較し、それでも意見がまとまらない場合の次の手段として鑑定評価を検討するという順番で考えると分かりやすくなります。

査定を進める前に確認したい手続きの順番 — 相続登記が済んでいないと売却できない

査定額の比較に気を取られがちですが、実家を売却するためには、その前提として相続登記が済んでいる必要があります。相続登記が済んでいない不動産は、名義人が亡くなった人のままになっており、その状態では買主との売買契約を結ぶことができません。

前述のとおり、相続登記は2024年4月1日から義務化されており、相続人は所有権の取得を知った日から3年以内に登記を申請する必要があります。この義務化は2024年4月1日より前に発生した相続にもさかのぼって適用され、経過措置として一定期間内の登記が求められています。実家の名義が何年も前に亡くなった祖父母や親のままになっている場合は、この経過措置の期限が近づいていないか、早めに確認しておく必要があります。

遺産分割協議がまとまらず、期限内の登記が難しい場合に備えて、簡易な暫定措置の制度も設けられています。ただし、これは正式な相続登記に代わるものではなく、最終的には遺産分割協議を経た登記が必要になります。査定を依頼して売却の準備を進めるのと並行して、相続登記や遺産分割協議の状況を整理しておくことが、結果的にスムーズな売却につながります。

迷ったときの相談先の使い分け

ここまで見てきたように、実家の相続に伴う査定や評価額の話には、論点ごとに異なる専門家が関わってきます。相続登記(名義変更)の手続きは司法書士、遺産分割で評価額や分け方をめぐる争いがある場合は弁護士、相続税の計算や申告については税理士が、それぞれの相談窓口になります。

査定額の比較や鑑定評価の費用は、あくまで一般的な目安です。実際の金額は物件の立地や状態、依頼する会社・事務所によって変動するため、「相場はこのくらい」という情報だけで判断せず、複数の窓口に確認しながら進めることが実務上のポイントになります。

実家の査定は、1社に決め打ちするのではなく、複数社を比較し、必要に応じて公的な価格情報や鑑定評価も参照しながら、相続人全員が納得できる形を目指すことが大切です。焦って1社の言い値で決めてしまう前に、まずは比較する時間を確保することをおすすめします。

参考文献

国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表(令和8年分)」 / 国土交通省「不動産情報ライブラリ」 / 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」 / 東京法務局「相続登記が義務化されました」 / 法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」 / 株式会社よつば不動産鑑定「不動産鑑定の依頼費用はいくら?相場と料金表」

実家じまいで迷ったら

実家の片付けや相続、空き家の管理や解体など、実家じまいには多くの課題が伴います。「何から手をつければいいのかわからない」と悩むことも少なくありません。

一般的には、まずは実家がいくらで売れるか、無料の一括査定サービスなどを利用して市場価値を調べておくことが最初の一歩になります。

※現在、桑都手帖では実家じまいに役立つ提携サービス(一括査定・解体見積もりなど)の導入準備を進めています。準備が整い次第、こちらで推奨窓口をご案内いたします。

実家じまいや終活に関する記事は、カテゴリ「仕舞手帖」で順次公開しています。

次の一本が出たら、お知らせします

記事の更新だけをお送りします。お問い合わせとは別の窓口です。

受け取る頻度

確認メールのリンクを開くと購読が完了します。解除はいつでもできます。

執筆・取材のご依頼、記事へのご指摘は お問い合わせ からどうぞ。

八王子の給付金・補助金を一枚に —— 申請の手順とスケジュールを図解で追う

暮らしと法律 · 8分

読む

Support

この記事が面白かったら、書き手の活動を応援していただけると励みになります。

※ Stripe決済(合同会社月香が運営)で安全にお支払いいただけます

カヅキ

カヅキ

桑都手帖 編集者

ものづくりや意匠設計を学んだ経験をもとに、八王子の風土・歴史・伝統工芸を現代につなぐ記事を書いています。暮らしの手続きについても、調べたことをそのまま書き留めています。